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ぽっこりおなかに朗報!? 内臓脂肪減少薬アライ

近藤須雅子美容エディター・コラムニスト
薄着の季節も目前、おなかの贅肉も気になってくる……。(写真:アフロ)

 4月8日、大正製薬が販売する内臓脂肪減少薬、アライ(Alli)が発売されて、約1カ月。薬局の前にはアライののぼり旗が立てられ、テレビCMを目にする機会も多く、認知度はかなりのものだ。現在でも「糖質をカットする」「代謝アップでサイズダウン」を謳うサプリやドリンク類は、ドラッグストアや通販サイトにあふれているけれど、食品扱いのサプリではなく医薬品、それも信頼ある老舗薬品メーカー、大正製薬が発売ともなれば別格。「これは本当に効果がありそう」「怪しげな海外通販サプリとは違って、安心」と関心は高い。「あれって効くの?」と、会う人ごとに訊かれるほどだ。

内臓脂肪減少薬アライ。1日3回1錠服用で30日分90カプセル。希望小売価格8800円。画像提供:大正製薬
内臓脂肪減少薬アライ。1日3回1錠服用で30日分90カプセル。希望小売価格8800円。画像提供:大正製薬

 大正製薬によると、臨床試験の結果、24週の服用で腹囲が平均2.4cm減。約1年間では4.73cm減の効果が報告されている。試算では一日約130Kcalの削減が見込まれるので、1カ月では約3900kcal減。体重1kgが約7000kcalなので2カ月で1kg減、半年服用すれば3kgの減量が期待できる計算だ。

国内での臨床試験結果。約半年で内臓脂肪が平均約14%減と言う結果に。
国内での臨床試験結果。約半年で内臓脂肪が平均約14%減と言う結果に。

同上の国内臨床試験で、腹囲の減少結果。
同上の国内臨床試験で、腹囲の減少結果。

「う~ん、なかなか悪くないんじゃない?」と思った女性は多いはず。筋トレと組み合わせれば夏に間に合いそうだし、減量幅も健康的でリバウンドしにくそうだ。

男性の2人に1人はアライの対象に

二の腕や脇のはみ肉はお門違い

 さっそくドラッグストアへ、と言っても、すぐに誰もが手に入れられるわけではない。

 まずアライは要指導医薬品であって、取り扱っているのは薬剤師がいる薬局のみ。医師による処方箋は不要だが、薬剤師のカウンセリングと指導が必要だし、服用には18歳以上の成人でウエストが男性で85cm以上、女性で90cm以上とされている。さらに、以下のようにBMI値によっては購入できない場合もある。

 BMI=ボディマスインデックスとは肥満度を測る指数*1で、日本肥満学会によってBMI25以上が肥満とされている。また、肥満に関連する合併症(糖尿病など)がある場合も肥満症と定義している。この肥満症やBMI35以上の高度肥満症は医療機関での治療が相当で、アライの対象外だ。

 第二に、アライの効能は、あくまでも“内臓の脂肪”であって、いくらウエストサイズがXLでも皮下脂肪はターゲット外だ。ましてや、多くの女性にとって気になる二の腕や脇下のはみ肉は、お門違い。男性は腹囲85cm以上、女性は90cm以上をアライの対象としているのも、女性は皮下脂肪をため込みやすく、その分を上乗せすると同じ内臓脂肪量なら男性より腹囲が増えてしまうためだ。

 一方、男性のおなかぽっこりの中身は多くが内臓脂肪で、20歳以上の男性の約58%、2人に1人が腹囲85cm以上だというから、適応者は思いのほか多い。

 「成人男性の場合、見た目は特に目立って太っているわけでなくても、内臓脂肪をため込んでいる方は多いのです。内臓脂肪の蓄積は将来的に糖尿病や高血圧、心筋梗塞などにつながるリスクがあり、それを自覚していらっしゃる方も多いのですが、自力では生活習慣を変えていくのはむずかしい。それをサポートして、健康長寿を目指していただきたいとの思いから開発を進めてきたのが、アライなのです」と、大正製薬セルフメディケーション研究開発本部 藤田透氏は、内臓脂肪減少のためだけでなく健康寿命のための生活改善を強調される。

アライ服用の腹囲条件に該当する日本人は、約3058万人。20歳以上の40%が該当する。
アライ服用の腹囲条件に該当する日本人は、約3058万人。20歳以上の40%が該当する。写真:イメージマート

摂った脂肪分の4分の1をカット

食べていないことにしてしまう

 それではアライはどうやって内臓脂肪を減らしてくれるのかと言うと、食事で摂ったアブラをカットしてくれるから。アライの有効成分オルリスタットが、食品に含まれる脂肪を分解する酵素の働きを抑えることで、脂肪の消化吸収を防ぎ、そのまま便と一緒に排泄してしまうのだ。アライ1カプセルに含まれるオルリスタット60mgで、摂取した脂肪分の約25%の分解吸収抑制が期待できる。

図表提供:大正製薬
図表提供:大正製薬

 揚げ物やアブラ肉のアブラの約4分の1がカットできるのだから、これはかなりのもの。消化器系の働き自体に働きかけるのではなく、すでに分泌された脂肪分解酵素の働きを抑えるだけなので、カラダに負担をかける心配もない……と、いいこと尽くめだ。とはいえ、少々頭を悩ませる問題も。すでにSNSなどでも話題になっているように、分解吸収されず排泄されるアブラの処理が厄介なのだ。

知らないうちにアブラがお尻から。

新車の座面を汚すといった惨劇も

 アライがアブラをカットしてくれるから平気と安心して、脂肪分の多い料理やスイーツを大量に摂ると、当然、分解吸収されないまま排出されるアブラも増える。それが便とミックスされていればまだいいのだが、多くの場合、液体のままお尻から排泄されることになるのだ。これがオリーブオイルのようななめらかな油液、それも体温で温まっているのだから、まず気づかない。「早めにトイレへ行けばいいんでしょ」などと甘く見ていると、痛い目に合う危険は高い。SNSで目にする「痩身と引き換えに社会的に終わる」という恐ろしげな書き込みは、こうしたリスクを受けてのことだ。

 とはいえ、SNSでの“社会的に抹殺されるほどの失態”投稿の多くは、アライではないので、まずはご安心を。ゼニカルはドイツ・ケプラファーマ社製のオルリスタット剤で、米国ではFDA(日本の厚労省にあたる)認可の肥満治療薬だ。日本では無認可だが、2003年に厚生労働省が「医薬品安全性情報Vol.1 No.38 (2003. 12.26)*2」で有効性と安全性を認めたことで、当時、美容クリニックを中心にちょっとしたブームになったことがある。私も体験調査とばかりに何度も服用したが、こちらのオルリスタット配合量はアライの倍量の120mgなのだから、かなり強力だった。

 患者に処方する前に自ら服用した男性医師の間で、新車の運転席を汚したり、高価な白革のソファにシミをつくるといった惨事が続出。月経中の感知しにくい出血や生理ナプキンの扱いに慣れている女性たちは、なんとか無事に乗り切ったが、男性たちは総くずれだった。

 アライの場合、そこまでの惨劇は少ないと思うが、摂取した脂肪の全体量が多ければ排泄量も増える。安全を期すのなら生理用ナプキンや尿もれパッドの利用など、十分な準備をお勧めしたい。

意外に和食も高脂肪なことが。

まさに身をもって知る羽目に

 ゼニカル服用で驚いたのは男性たちと同じような惨劇だけでなく、意外な食事が高脂肪だったこと。排泄オイル量の上位は中華料理やてんぷらだろうという予想は大きくはずれ、ぶっちぎりトップが高級霜降り牛肉のすきやき、続いてスペイン料理のパエリアやタイ料理のトムカーガイだった。すきやき後のトイレは流した後も、水面全体を数ミリもあるようなアブラの層が覆って二層に。スペイン料理やタイ料理などは、スパイスの影響なのかオイルがオレンジ色。これが白いソファや洋服に染みつくことを想像すると、かなりホラーだ。

 便器がアブラで汚れるのも想定外。通常のトイレ用洗剤では落ちにくいので、食器用中性洗剤などで洗い流さなければいけない。汚れに気づかず、「妻にめちゃくちゃ叱られた」という男性も多かった。

「和食は低脂肪でヘルシー!」とも言い切れない。高級すきやき等はかなりの高脂肪食だ。豆乳の脂肪分も、牛乳の約8割と、意外に多い。
「和食は低脂肪でヘルシー!」とも言い切れない。高級すきやき等はかなりの高脂肪食だ。豆乳の脂肪分も、牛乳の約8割と、意外に多い。写真:イメージマート

白米や菓子パンなどの糖質ラバーや

缶コーヒー好きには効果も低め?

 もうひとつ気になるのが、アライの効果を得にくいタイプもあるということ。

 ダイエット外来が中心の渋谷シーズメディカルクリニックの牧野輝美院長によると、「オルリスタットは脂肪の分解吸収を抑える働きはありますが、糖質カットの働きはありません。ですので、肉や乳製品など脂肪分の多い食生活をしている欧米の方には、高い減量効果が得られるケースが多くなります。反対に、日本人の食事はそれほど高脂肪ではないことが多いし、丼物や菓子パン、ビールといった糖質の多い食べ物が好物だという方だと、期待したほどの効果を得られない可能性がありますね」

 アヴェニュー六本木クリニックの寺島洋一院長も「毎日いろんなケーキなどを食べるスイーツ専門のライターさんは、オルリスタットでご本人も驚くほどするする痩せていかれました。逆に、それほど効果がない人もおられて、食生活によって個人差は大きくなります」

 アライ臨床テスト結果も、服用24週で腹囲約2.4cm減は、あくまでも平均値。食生活の違いで、もっと減ることもあれば減らないこともある。和食中心で効果薄と思っていても、大トロの握りや霜降り肉を食べる機会が多く、期待以上の効果が得られることもあるだろう。いずれにしても、「アブラ漏れの問題なども含めて、アライによって普段の食事を見直していただき、健康的な食生活を身に着けていただく助けになれば、と考えています。頭では理解していても生活習慣を変えるのは大変ですし、なかなか継続できないものですが、そのサポートとして活用していただけると思います」と大正製薬の藤田氏は強調される。前出したとおり、アライは健康を害するリスクが少ないため、腹囲85cmまたは90cm以上の条件を満たしている間は長期服用できる。食生活を根本的に変えていくのは時間がかかるが、アライを上手に利用できれば大きな助けになるのは確かだろう。

 ちなみに、アライの服用タイミングは食事中または食後1時間以内がベスト。脂肪分を消化吸収してから飲んでも意味がないので、気をつけたい。またビタミンAやD、Eなど、脂溶性ビタミンの吸収も抑えることがあるので、気になる場合はアライの作用がおよびにくい就寝時などにビタミンサプリなどで服用するといい。

痩身医療のメニューも多彩に

即効より長期サポートが主流だ

 アライへの期待が高まると同時に、「がっかり」という声も多い。その大半が、「腹囲が70cmで太めでも、90cm未満だとアライを購入できない」という女性たちだ。「ぽっこり下腹や二の腕をなんとかしたかったのに」「やっぱりちょこザップしかないの~」なんて悲鳴もあちこちからwwww。

おかげで、美容クリニックのダイエット外来は、二重手術やハイフなどのエイジングケア施術に迫る人気となっている。痩身治療といっても脂肪吸引のようなハードな手術は、今は昔。現在は肥満治療薬を併用しての食生活改善や、マシンによる筋肉増強や温冷刺激による脂肪細胞の減少などが主流だ。部分痩身や部分的な筋肉増強など、メニューも多彩になっている。

「欧米タイプの食生活や運動機会の少ないライフスタイルだと、どうしても太りやすく痩せにくいですよね。そのために、医療技術を利用して減量や痩身のサポートをするのがダイエット外来やクリニックです。あらかじめ血液検査などで健康リスクを調べて、希望に合ったマシンを選んだり内服薬を処方するなど、適した治療法を提案するので、やみくもにダイエットをするより安全ですし、高い成果が得られると思います」と牧野院長。寺島院長の美容クリニックでも、

「肥満治療薬の処方や医療用機器を利用した痩身治療を行っています。たとえば、日本では未承認ですが、アメリカFDAでは肥満治療用に承認されている薬が何種類もあり、そうした肥満治療薬を適宜処方しています。現在はサクセンダという薬がメインですが、過度な食欲を抑制することでほとんど人が2カ月で3~5kg減量しています。あわせて電磁パルスで筋肉を動かすエムスカルプトで筋肉を増強するなど、多方面からアプローチし理想の体型に近づけることも可能です」

 とはいえ、即効で理想のスリムな体型に!というわけじゃない。

「特定の脂肪細胞を凍らせて破壊し、部分痩せを実現できる脂肪冷却施術も、二度と太らない体質になるわけではありません。食習慣やライフスタイルを変えなければリバウンドしますし、それはほかの施術でも同じです。ただ、スタートダッシュで成果を出すことでモチベーションを高め、引き締まった状態をキープしようと生活改善に取り組める。その効果は大きいですね」(牧野院長)。

 つまりは、健康的な生活習慣への根本的な改善が鉄則、という当たり前の結論に。クスリも痩身医療もその実現のための補助にすぎないけれど、あるとないとでは大違いというのもまた確かだ。安全で効果的なアプローチ法が次々と開発されている今、新しい情報を上手に取り入れて賢く利用したい。

*1 BMIの算出法は[体重]÷[身長の2乗]。筋肉量は考慮されないので、肥満かどうかはBMIだけでは判定できない点もある。

*2 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部による医薬品安全性情報 Vol.1 No.38 (2003. 12.26)

美容エディター・コラムニスト

美容・ヘルスケアを中心に、容姿・モード・肉体をめぐるモノやコトがテーマです。『VOCE』(講談社)、『Precious』(小学館)等、女性誌を中心に活動。主な著書に、『9割の人が間違っている化粧品「効きめ」の真実』、『プチ整形の真実』(講談社)等。

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