Yahoo!ニュース

「身体が冷えると風邪をひく」は本当か? 医学的考察

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

子どもの頃、お風呂上がりに親に言われたことはないでしょうか。「早く身体をふきなさい、風邪ひくわよ!」と。「身体が冷えると風邪をひく」という都市伝説、果たして真実なのでしょうか。医学的に考察したいと思います。

低温のほうが気道の免疫応答が弱い

アニメなどで登場人物が水に落ちた後、「びぇっくし!」と鼻水を垂らして、風邪をひいているシーンがよくあります。世間一般では、身体が冷えると風邪のリスクが高くなると認識されているようです。

呼吸器症状を起こす風邪の代表的なウイルスは、ライノウイルスやインフルエンザウイルスです。いずれも秋~冬に流行します。多くの研究者は、気温の低さが関係しているのではと考えています。シンプルな仮説ですが、なかなか証明が難しいです。

中国における気象データベースとインフルエンザ発生数を解析したところ、平均気温が下がるほどインフルエンザの発生が増えることが示されています(図1)(1)。

図1. 平均気温とインフルエンザ感染リスク(参考資料1より引用)
図1. 平均気温とインフルエンザ感染リスク(参考資料1より引用)

また、マウスの気道上皮細胞を用いて、ライノウイルス感染による反応が温度条件によって異なるのかどうか調べたところ、37度より33度のほうが免疫応答が弱いことが示されました(図2)(2)。つまり、低温だとうまく免疫が機能しないと言えます。

図2. 37度と33度の免疫応答の違い(参考資料2より引用)
図2. 37度と33度の免疫応答の違い(参考資料2より引用)

これらのウイルスにとって、低温環境のほうが過ごしやすいのかもしれません。

ただ、恒温動物である私たち人類は、湯冷め程度の寒冷でそこまで感染リスクは高くならないという見解もあり(3,4)、温度に関してはまだ議論の余地があります。

湿度も影響?

温度だけでなく、湿度が影響している可能性があります。日本の夏はかなり湿潤ですが、秋~冬は乾燥します。水分が蒸発してウイルスの比重が軽くなり、空気中に浮遊しやすくなります。

インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスのように脂質の膜に覆われたウイルスは、湿度が低く乾燥していても、生存することができます。

また、湿度が低い環境では、気管支の防御機能が低下したり炎症を修復する機能が低下したりすることが分かっています(5)。

そのため、温度だけでなく湿度の低さも相まって、ウイルスに感染しやすくなるのかもしれません。

乾燥する季節に、加湿器等で部屋の湿度を上げる効果は、医学的にはまだ根拠がはっきりと示されていません(6)。定期的にフィルターの交換や掃除をしないと、加湿器に色々な病原微生物が発育するので、加湿器も実は一長一短です。

まとめ

以上から、「身体が冷えると風邪をひく」というのは、あながち間違いではないかもしれません

ただし、風呂上がりの湯冷め程度では、恒温動物であるヒトにおいてそう簡単にウイルス感染が成立しないのでは、という意見もあります。

温度・湿度の管理だけでなく、病原微生物を体内に入れないことが大事です。そのためには、普段から手洗いやうがいなどの感染予防を心がける必要があります。

(参考)

(1) Chen C, et al. Int J Environ Res Public Health. 2021; 18(20): 10846.

(2) Foxman EF, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015; 112(3): 827-32.

(3) Douglas RGJ, et al. N Engl J Med 1968; 279:742-747

(4) Castellani JW, et al. Med Sci Sports Exerc. 2002; 34(12): 2013-20.

(5) Kudo E, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019; 116(22): 10905-10910.

(6) Singh M, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017; 8(8): CD001728.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

倉原優の最近の記事