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「若者が投票に行かないから、若者向け政策が実現できない」という政治家を信用するな。

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

投票年齢の18歳への引き下げに関連して、若年世代の投票率の低下が話題になっている。関連して、よく耳にするのが、まことしやかに語られる「若者が投票に行かないから、若者向け政策が実現できない」という言葉である。したり顔で、このようにいう政治家さえいる。

先日の衆院選では、戦後最低(つまり、過去最低)の52.66%を記録した。なかでも、20代の投票率は37.89%を記録し、確かに世代別で見ると最も低い。

明るい選挙推進協会 衆議院議員総選挙年代別投票率の推移

http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071syugi/693/

だが、20代の投票率が30%代になったのは現在に始まった話ではない。衆院選に限定すると、概ね1996年の衆院選以来、郵政選挙や政権交代といった特別な例外を除くと、一貫して同様の傾向にある。20年前の20代、つまり現在の40代が20代のときも、現在の傾向と変わらない。20代から60代まで、原則として、世代が上がる毎に投票率があがる傾向は、1969年頃からほぼ一貫している。

しばしば指摘されるのが、家族を持ったり、ライフサイクルの変化によって、政治参加の意識も増すという点である。わかりやすくいえば、家族ができたり、社会的に成熟するにつれて、政治的な意識も高くなっていくという意味である。

ただし、やっかいな要素が人口動態である。よく知られているように、少子高齢化社会の日本では年長世代に人口が偏っている。

厚労省の『平成25年 我が国の人口動態』によると、現在の団塊ジュニア世代(現在の60代半ばの世代)前後の出生数(≒その年に産まれた子どもの数、死亡等もあるので、)が260万人前後であるのに対して、2010年代にはいって100万人前後にまで減少している。ちなみに現在の20代の90年代半ばの世代は120万人前後である。

つまり、かつては、若年世代は投票率は低かったものの、人口ボリュームが多かったので、票数でみると、若年世代もそこそこの票数があった。ところが現在では、投票率も低いうえに、人口ボリュームも小さいので、格段に若年世代の票数が少なくなっているという現状がある。

これらを踏まえると、「若者が投票に行かないから、若者向け政策が実現できない」という言葉になるのだろう。いちいち挙げないが、ちょっと検索するだけでも、少なくない政治家が同様のニュアンスの発言を、実にさまざまな文脈で語っていることがわかる。漠然と良い活動のようで、聞こえもよい。政治家も気軽に参加しやすいという理由もあるのだろう。

しかもこの文脈は選挙の普及啓発とも合致するので、当の若年世代も積極的に巻き込みながら(たとえばパネリストとしてキャスティングしながら)、しばしば「若年世代の投票率をあげよう」というキャンペーンやムーブメントとも結びついている。

むろん、若年世代の投票率向上キャンペーン自体は否定されるべきものではない。だが、こうしたキャンペーンばかりが陽の目を見ることで、その他の構造的な問題が覆い隠されがちなことに留意したい。

たとえば、高額な供託金は若年世代の立候補の少なくない妨げになっていると推測することは容易だが、これを引き下げようという話は一向に聞こえてこない。たとえば、衆院選の選挙区、知事選で300万円、政令指定市の市長選で240万円、市区長選で100万円、地方議員選挙で30万円〜60万円の供託金が、立候補にあたって必要である。

一般に、まだ収入の少ない若年世代の負担感のほうが相対的に重くなると考えられる。しかしこれを引き下げるという話題は、やはり現職にとっては競争相手が増える可能性があり、触れたくない話題なのか、あまり表立っていわれることはない。政治家の高齢化がいわれるが、若年世代からすれば、同世代の候補者がいれば共感して応援したくなるだろうから、供託金の金額を引き下げて、立候補しやすくするというのはもっとも単純な方法と思われる。

それから、先に人口動態に言及したが、そもそも少々の投票率の向上では、とても年長世代の票数には及ばない。投票年齢を18歳に引き下げたとしても、そもそもの人口ボリュームが小さく、よほどの投票率の向上(あるいは年長世代の投票率の低下)が生じない限り、その影響はあまり大きくない。つまり、高齢者と同程度の票数になるように若年世代の投票率を向上するというのは、現実には実現不可能な要請で、投票率の18歳への引き下げも、強いていうなら付け焼き刃的である。

そもそも、よく考えてみると、普段、政治家たち(それから、政党)は、それほど「国民の声」を政策に反映して政治を行っているだろうか。消費税率の引き上げを我々は望んだだろうか。若年世代の問題だけ、突如として「若年世代が投票に行かないから、実行できない」などというのは、やはり無責任なご都合主義というほかない。

かつて、著名な社会学者(政治学者)マックス・ウェーバーは、政治家という職業に、特別な倫理観と信念を求めた。いろいろな雑音があっても、自身の見地から正しいと信ずる道を貫くべき、と。

むろん、圧倒的に泥臭い現実の政治の前では、青臭い、理想に過ぎない。統一地方選挙の季節である。もし「若者が投票に行かないから、若者向け政策が実現できない」という政治家を目にしたら、投票のまえに、立ち止まって熟慮してみてもよいかもしれない。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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