衝撃の軌道…佐々木朗希投手の完全試合の裏に上原浩治が投げられなかった驚きのフォークボール
高い上背と柔軟性抜群の上半身をしならせて投じる160キロ連発の直球に、落差のおおきな140台のフォーク。ロッテの佐々木朗希投手が10日のオリックス戦で、28年ぶりとなる完全試合を達成した。史上最年少での快挙だった。連続打者奪三振のプロ野球記録を大幅に更新した「13」を含め、プロ野球タイ記録の1試合19奪三振。オリックス打線を寄せ付けない圧巻の投球だった。
打者27人に投じたのは105球。ほとんど3球勝負の感覚だったのではないだろうか。無駄球がほとんどなく、相手打者に考えさせる時間も与えていないようにみえた。1994年に槙原寛己さんが完全試合を達成したときは奪三振こそ多くないが、球数は102と少なかった。95年に19奪三振をマークした野田浩司さんもマリンスタジアムでの快投だったように、変化球が効果的といわれる球場の「地の利」を活かした投球でもあった。
驚かされたのは、フォークの軌道だった。佐々木投手のフォークは「球速」と「落差の大きさ」に注目が集まるが、オリックス戦で投じていたフォークはシュート気味、カット気味に変化していた。この軌道を、打者は読み切れていないように映った。
私は現役時代、シュート気味に曲がるフォークは投げることができたが、カット気味のフォークを操ることができなかった。もちろん、滑るボールでたまたまボールがカット気味にスライドするケースはあったが、意図して投げることは最後までかなわなかった。佐々木投手がプロ3年目ですでにシュート気味にも、カット気味にも自らの意図で投じることができているのなら、すごいことだ。加えて、あれだけのフォークを安定して捕球し、リードしたドラフト1位新人の松川虎生捕手も大したものである。
佐々木投手に関しては以前、「伸びしろしかない」と評したことがある。言葉の通りだ。完全試合を達成した後でも、変わらない。なぜなら、完全試合を達成したとはいえ、彼はまだ「未完」だからだ。佐々木投手はおそらく、まだ自分が思ったように直球を投げ切れていないはずだ。今季の1、2戦目の投球をみていても、左打者に対する外の直球が打者の手元でわずかに垂れていた。いわゆる「ボールがお辞儀する」という軌道になる。これは、指先の力が完全にボールに乗っていないことによるものだろう。手首の使い方が、左打者の外角は「当てる」恐怖がない分、力みが出ることで逆にボールに力がうまく伝わらないのではないだろうか。佐々木投手に限らず、右投手にはそういう投手がいる。10日のオリックス戦で外にいいまっすぐを投げていたときも、捕手の構えが内角だったりしていたので、「逆球」だった可能性もある。この点が修正されれば、さらにすごみがでてくるだろう。
偉業を達成したとはいえ、まだプロ3年目。まずは今季、先発ローテーションを守って投げぬいてほしい。体もまだまだ成長するだろう。体を「太く」するよりも、肩のスタミナを養うなど「強く」するトレーニングがさらなる飛躍につながるように思う。もちろん、本人の考えやチーム方針もあるだろう。どんな「大器」になるのか。まだまだ「通過点」でしかないだろう。