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新・直木賞作家、米澤穂信さん原作のミステリードラマ『満願』が、すごい!

碓井広義メディア文化評論家
ミステリースペシャル『満願』番組サイトより

19日に発表された、第166回の「芥川賞」と「直木賞」。

作家の米澤穂信(よねざわ ほのぶ)さんが、長編小説『黒牢城(こくろうじょう)』で直木賞を受賞しました。

おめでとうございます!

米澤作品の映像化

米澤さん原作の「映像作品」で、多くの人が思い浮かべるのが、2001年のデビュー作『氷菓(ひょうか)』ではないでしょうか。

高校の「古典部」という、部活の設定がユニークでした。

この「<古典部>シリーズ」が、『氷菓』としてTVアニメ化されたのが2012年です。制作は、京都アニメーション!

17年には、山崎賢人さんや広瀬アリスさんの出演で、映画化もされました。

また、ドラマは2本あって、というか、これまで2本しか、ドラマ化されていません。どちらもNHKです。

11年に、『探偵Xからの挑戦状!』の中の1本としてドラマ化されたのが、米澤さんの「怪盗Xからの挑戦状」でした。キャストは竹中直人さんや長澤まさみさん。

そしてもう1本、秀逸なドラマだったのが、『満願(まんがん)』です。

14年刊行の短編小説集『満願』は、この年の「このミステリーがすごい!」(宝島社)、「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)、そして「ミステリが読みたい!」(早川書房)で、いずれも国内部門の第1位。

つまり「ミステリーランキング3冠」に輝いた、史上初の作品でした。

ちなみに、直木賞を受けた『黒牢城』も、堂々の「3冠」です。

ミステリースペシャル『満願』

ミステリースペシャル『満願』が放送されたのは、2018年8月14日からの3夜連続。

本に収められた6編の中から、3編を選んでドラマ化しています。

第1夜「万灯」の主人公は、商社マンの伊丹(西島秀俊)。

単身赴任先は東南アジアの某国で、天然ガス開発が使命だったのですが、頓挫していました。打開策は、村を牛耳る人物の殺害です。

伊丹はライバル企業の社員と共に犯行に及ぶのですが、その後、思わぬ事態が待っていました。

仕事のためなら何でもする男を、あくまでも淡々と演じた西島さん。観る側が感じる怖さが倍化しました。

また、交番勤務の警官・柳岡(安田顕)が、部下である川藤(馬場徹)の“名誉の殉職”に疑問を抱くのが、第2夜の「夜警」です。

刃傷沙汰の夫婦ゲンカを止めようとした柳岡たちですが、突然、川藤が夫に向かって発砲します。

川藤は倒れる寸前の夫に首を切りつけられ、絶命しました。

柳岡は、葬儀で会った川藤の兄から「あいつは警官になるような男ではなかった」という話を聞き、川藤が死ぬ直前「うまくいったのに」という言葉を残したことを思い出します。

安田さんが見せた「鬱屈を抱えた警官」はまさに絶品で、3作中で最も強い印象を残しました。

そして最終夜の「満願」は、弁護士の藤井(高良健吾)が手がける殺人事件を軸に、過去と現在が交差する物語でした。

藤井が学生時代に下宿していた畳屋のおかみさんが、被告の妙子(市川実日子)です。

夫がつくった借金の取り立てにやって来た、金貸しの男を刺殺したのです。

一本気な藤井と、奥底の見えない妙子。2人の絶妙な距離感がドラマに陰影を与えていました。

3本の連打で、「人間」というものの怖さと面白さが、じわじわと浸透してくるミステリードラマでした。

受賞記念の再放送を!

制作は、NHKと日テレアックスオン。

萩生田宏治(第1夜)、榊英雄(第2夜)、熊切和嘉(最終夜)といった演出陣がそれぞれに力量を発揮し、オムニバス映画3本分の見応えがありました。

このドラマ、現在もNHKオンデマンドで視聴可能です。

とはいえ、いいものはたくさんの人に観てもらいたいので、NHKには、直木賞受賞記念として再放送することを提案したいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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