新型コロナウイルスによる経済への影響を多方面からさぐる(2020年8月22日時点)
経済方面にも大きな影響をおよぼしている新型コロナウイルスの流行。その実情を官公庁や業界団体の公開統計資料をグラフにまとめ、斜め読みする。
用いる値は各方面の管轄官公庁や業界団体の公開統計資料で、2020年1月以降の月次の動向を前年同月比で勘案したもの。売上高・金額が基本だが、それらが公開されていないものについては人数や台数を用いている。また、項目によって公開日が異なるため、すべての値が同じ月まで揃っているわけではない。グラフに反映する期間は、それぞれの対象の項目の最新値が収まる形で調整している。
まずは経済産業省の特定サービス産業動態統計調査をベースにした主要業界。
情報サービス業や物品賃貸は盛況だった。しかし物品賃貸は4月に入ると、情報サービス業も5月にはマイナスに転じてしまっている。情報サービス業は6月にはほぼプラスマイナスゼロ近くまで戻しているのは幸いだが、今後再びマイナス域に沈む可能性はある。また意外にもゴルフ場は1月ではマイナス1%に留まり、2月はマイナスどころかむしろ大きく伸びていたが、3月に入って失速し、4月にはマイナス49%にまで落ち込んでいる。6月に至ってもマイナス34%と大幅減。外出自粛の動きが続いているものと思われる。他方、遊園地・テーマパークは2月時点ですでにマイナス18%もの減少を見せたが、3月にはマイナス98%、4月・5月はマイナス99%、6月に入りほんの少し持ち直したがマイナス94%。ほとんどの場所で一時休業の対応となったため、仕方がないとはいえ、信じがたい値ではある。パチンコホールは2月時点でマイナス3%だったが、3月に入ってマイナス20%、4月にはマイナス62%、5月にはマイナス78%と下げ幅を拡大する。6月には一部で開店したところもあったため持ち直しを見せるが、それでもマイナス31%と大幅減。
結婚式場業は2月まではプラスだったが3月に入るとマイナス45%と大幅なマイナスになり、4月にはマイナス92%、さらに5月にはマイナス98%と激減する。6月に入ってもマイナス94%とほとんど休業状態のまま。葬儀業が6月ではマイナス16%に留まっているのとは対照的な動きではある。
フィットネスクラブも4月にはマイナス70%、そして5月にはマイナス94%と大きなマイナスを見せる。6月に入りいくぶん持ち直したが、それでもマイナス52%と半分以上の減。学習塾は3月以降はマイナス域に沈んだままだが、この下げ幅で済んでいるのが意外といえば意外。学校での勉学の遅れを学習塾で取り戻そうという考えを持つ保護者が少なからずいるのだろうか。
続いて日本フランチャイズチェーン協会や日本チェーンストア協会など、BtoCの販売店業界による業界全体の売上高。
日本政府が2月26日にはイベントの中止や縮小の要請、27日には学校の休校の要請をしたこと、2月28日に北海道で外出自粛を求める新型コロナウイルス緊急事態宣言が出され、3月1日には厚生労働省が「3密」を避けるよう勧告するなど、3月以降は外出自粛の動きが強まり、販売店では大きな影響を受けている。さらに4月7日には7都道府県に緊急事態宣言が発出され、16日には対象地域が全都道府県に拡大されたことで、外出自粛の動きはさらに強まり、また自主休業を行う店も増え、売上は減少する形に。
5月14日には東京都や大阪府などを除く39県で緊急事態宣言が解除され、その後21日には大阪府・兵庫県・京都府で、25日には北海道・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県で解除となり、緊急事態宣言が全面解除されることとなった。しかし5月に入っても多くの業界では売上の減少度合いは4月とさほど変わらない状態に。特にショッピングセンターではテナントの休業が多く、営業再開を果たしても外出自粛は続いていることもあり客入りは今一つで、売上が激減したままとなっている。6月には回復の動きがあるものの、厳しい状態に変わりはない。
なおショッピングセンターとチェーンストアの違いだが、「小売店舗や飲食店、美容院などの各種サービス業の店舗も入る商業施設がショッピングセンター」「単一資本による多数の店舗展開を行っている店舗がチェーンストア」となる。
コンビニは3月以降マイナス域に沈んでいるが、これは主に客数の減少によるもの。外出自粛やリモートワークの普及による内食需要の活性化、衛生商品の需要拡大で客単価はアップしているが、それ以上に客数が減少しており、売上は低迷中。
チェーンストアは5月ではプラス1%、6月にはプラス3%、7月もプラス3%と堅調さを見せているが(外出自粛やリモートワークの普及で生じた内食需要の活性化による食料品の好調さがけん引。また特別定額給付金が後押しする形となった家庭用調度品の需要増加もプラス要因)、一方でショッピングセンターは5月では6割強の減少。6月でマイナス15%にまで回復したものの、まだマイナスの域にある。業態の構成の違いが大きく差をつける形となった。
同じ外食店でも持ち帰りやデリバリーにも対応できるファストフードは5月でもマイナス9%、6月でもマイナス12%に留まっているのに対し、「3密」が生じやすいファミリーレストランやパブ・居酒屋は客足が遠のき、あるいは自主休業などが影響し、大きな減少を示す形に。特にパブ・居酒屋は6月に入っても60%の減と厳しい状態が続いている。日本フードサービス協会の月次報告書では「(パブ・居酒屋業態においては)一部では集客の見込めない店舗の休業・閉店を予定しており」とのコメントが見られるほど。
続いて交通関連など。
国際旅客機の利用者数は2月の時点ですでにマイナス27%と大きな減少だったが、5月にはマイナス98%となり、ほとんど空席の状態に。国内旅客機でも3月では利用客はほぼ半減、さらに5月では利用者数は1割足らずにまで落ち込む。ホテルなどの宿泊業も5月にはマイナス81%もの売上減を示している。他方、宅配便の取り扱い個数は5月ではプラス14%に。1月以降増加傾向を示しており、外出自粛による巣ごもり現象は、宅配便の利用を増やす形となったように見える。
鉄道の旅客数は3月に入ると2割台、4月以降は4割台のマイナス。貨物は3月までは数%のマイナスに留まっていたが、4月は11%のマイナス、さらに5月は21%ものマイナスとなってしまう。持ち帰り・配達飲食サービス業が3月に入ってマイナス20%もの減少を見せ、さらに4月以降はマイナス幅を拡大する動きにあるのは意外ではある。
次に車や電子機器などの販売動向。中古車の登録台数は、新規登録台数・所有権の移転登録台数・使用者名の変更登録台数の合算を意味する。
実のところ車の販売台数は2019年10月の消費税率引き上げ以降低迷しており、2020年1~3月の動きはその影響によるところが大きい。しかし4月以降の大幅な減少は多分に新型コロナウイルス流行による外出自粛などによるものと考えられる。乗用車の新車販売台数は5月では前年同月比でマイナス42%もの減少を示している。6月にマイナス27%、さらには7月にはマイナス20%と下げ幅を縮小する動きにあるのは、緊急事態宣言の解除によるところが大きいと見てよいだろう。中古車が6月以降プラスに転じているのは興味深いところ。
パソコンは2020年2月に入ってから大幅減。学校の休校要請も一部では影響しているかもしれない。ただし4月に入ると住宅勤務の必要性で生じたパソコン特需の動きがあったからか、プラスに転じている。しかし5月になると再びマイナスに転じ、マイナス22%と大幅減に。これは元々前年同月が特需(Windows7のサポートが2020年1月に終了するのと、消費税率引き上げが2019年10月に実施されることによるもの)で大きく出荷台数を増やしたことの反動によるところが大きい。6月に入ってもマイナスは継続している。一方で薄型テレビは4月にはプラスに転じ、5月に入るとプラス17%と大幅な増加を見せている。6月に入るとプラス2%となり上げ幅は大幅に縮小するが、それでもプラスは維持。
携帯電話は2020年1月の時点ですでに大きな減少を示し、2月がピーク。3月はやや落ち着いている。とはいえ、2割前後の下げ幅という大幅な売上減な状態に変わりはない。販売店の自主的な休業や営業時間短縮が響いているものと考えられる。ところが4月に入るとプラスに転じ、特にスマートフォンに限ればプラス68%と大幅な増加。この動きについて電子情報技術産業協会の報告書では「2-3月分の出荷予定分が新型コロナウイルス感染症の影響によって遅れて4月に出荷されたことにより」と説明している。5月もプラス36%と引き続き大きなプラスだが、こちらも4月同様の理由によるもの。しかしながら6月に入るとマイナス2割台となり、純粋に新型コロナウイルス感染症の影響による販売減で、出荷台数も大きく減る結果となっている。
最後は経済産業省の家計調査などから、家庭内での動き。二人以上世帯を対象にした値である(月単位の調査は単身世帯や総世帯では行われていない)。
2月の時点で光熱・水道や交通・通信、教育、教養娯楽が減少。他方、食料や外食が増加している。外食が増えたのは不思議に思えるかもしれないが、家計調査の外食は飲食店における飲食費を意味し、飲食店(宅配すし・ピザを含む)により提供された飲食物は、出前、宅配、持ち帰りの別にかかわらず、すべて含まれるため。恐らくは店内飲食は減ったものの、出前や宅配、持ち帰りなどが増えたのだろう。
3月に入るとインターネットを利用した支出の総額も大きくマイナスを示すだけでなく、食料もマイナス。外食も一気にマイナスに転じ、大きな下げ方を見せる。教養娯楽も下げ幅は2割近くまで拡大する。交通・通信の下げ幅が縮小しているのは、通信費が拡大したからだろう。
4月になると外食や教養娯楽の減少幅が拡大、交通・通信も大きく下げる。一方でインターネットを利用した支出総額や光熱・水道は大きなプラスを示す。多くの人が自宅で過ごすようになったため、外出で生じる支出が減り、自宅内生活で生じる支出が増えた形である。
5月も傾向に大きな違いはない。交通・通信、教育、教養娯楽のマイナス幅が大きくなっている一方で、インターネットを利用した支出総額がプラス16%と大きく伸びているのが注目に値する。
6月ではインターネットを利用した支出の総額がさらに増加しプラス20%となった一方、食料、外食、教育、教養娯楽などの多くの項目でマイナス幅が縮小している。とはいえ多くがまだ小さからぬマイナス幅のままなことに変わりはない。なお家具・家事用品がプラス31%と大きく飛び抜けているが、これは5月から本格的に手続きと給付が始まった特別定額給付金によるところが大きいものと考えられる。6月の家具・家事用品における具体的項目で特に前年同月比の金額の伸びが大きかったものを確認すると、金額の大きい家電や室内の整備品が多数見受けられる。
巣ごもり化で自宅にいる時間が長くなったこともあり、調度品を新しいものに変えたり、まとまったお金が手に入ったので日用家電品を新しいものに買い替える動きが生じたのだろう。この動きは7月に入っても継続しているようで、先日日本チェーンストア協会から発表されたチェーンストア業界の2020年7月分の売上動向によると(グラフ化は略)、家電製品ではエアコン、扇風機、サーキュレーター、掃除機、炊飯器、健康家電、照明器具、懐中電灯、乾電池などがよく売れているとのこと。
現時点で公開されている値を反映しているため、項目によってはまだ2020年5月分までしかないものもある。今後逐次公開された値を反映させ、最新の情報を反映した実情を確認していくことにしよう。
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