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藤井聡太王座、先手番で快勝! 王座戦五番勝負第2局で永瀬拓矢九段を降し、初防衛まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月18日。愛知県名古屋市・名古屋マリオットアソシアホテルにおいて第72期王座戦五番勝負第3局▲藤井聡太王座(22歳)-△永瀬拓矢九段(32歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は19時48分に終局。結果は123手で藤井王座の勝ちとなりました。藤井王座は2勝目をあげ、王座初防衛まであと1勝としました。

 第3局は9月30日、京都府京都市・ウェスティン都ホテル京都でおこなわれます。

ハイペースの序中盤

 藤井王座先手で、戦型は角換わり腰掛銀。藤井王座が仕掛け、桂を捨てる代償に角を打って香を取る、現代最前線の進行です。

藤井「途中まで自分自身も指したことのある展開で。お互いキズを抱えた陣形なので、判断の難しい将棋かなというふうに思ってました」

 開始からまだ30分も経っていない76手目。永瀬九段は9筋の歩を突いて反撃します。公式戦では初めて指された一手でした。

永瀬「手を変えたつもりはなかったんですけど△9五歩は指そうかと思っていました」

 ここで藤井王座の手が止まります。56分考えて選んだのは攻め合い。80手目、永瀬九段は銀取りに桂を打ちます(1図)。

 持ち時間5時間の将棋ならば、夜戦で現れるような局面。しかしここまで進んでもまだ、永瀬九段の消費時間はわずかに7分。対局開始からまだ1時間半しか経っていません。

 1図は銀取り。ならばとりあえず、銀を逃げたくなるところです。しかし藤井王座は51分を使って読みふけり、妥協することなく▲4六香と打ち、攻め合いに出ました。

藤井「▲6七銀左は少し効かされかなと思ってしまったんですけど。ただ、やっぱり本譜は銀を取られてしまうのでちょっと、やり過ぎだったかなという気はしていました」

永瀬「▲4六香は常に(相手側の)権利なので。ただちょっと、本譜の組み合わせが、あんまり認識がなかったので」

 形勢は難解で互角。とりあえずは銀を取って王手をしたくなるところで永瀬九段は長考に沈み、12時、昼食休憩に入りました。

藤井王座、優勢に

 13時、対局再開。永瀬九段は1時間14分を消費して、桂で銀を取って王手をかけます。対して藤井王座は「桂先の玉、寄せにくし」の格言通り、桂頭に玉を逃げ、藤井玉はそう簡単にはつかまらない形を作りました。

永瀬「一つ一つの形がすごい特殊なので。本当は触り方を間違えてしまってた気がするので。△7六桂▲7七玉の局面でバランスの取る手を指したかったんですけど。ちょっとどういう感じかわからなかったです」

 このあとは藤井王座に手番がわたり、攻めるターンに。89手目、藤井王座は自玉上部の歩を桂取りに突きます。反動も覚悟しなければならない攻め方ですが、永瀬玉に左右両側から迫る、セオリー通りの最善手でした。

永瀬「▲7四歩とされた局面が少しやりにくいのかと思ったんですけど。ただ(本譜の△7五銀に代えて)△8五桂とかそういう手がきかないと、強く指されて、わかりやすくされてしまう可能性もあるかなと思いました」

 評価値の上では藤井王座が優位に立った104手目。永瀬九段は2筋に香を打ち、藤井王座の大駒、飛車と角の動きを制限しようとします。対して藤井王座は飛車取りにかまわず、永瀬玉の上部に歩を突き出しました(2図)。

藤井「△2四香に▲4四歩と突き出したあたりは少し、こちらの玉がまだ耐久力のありそうな形なので、少し指しやすくなったのかなという気がしました」

 藤井王座は左右挟撃の理想的な態勢で永瀬玉を寄せていきます。対して永瀬九段は藤井玉に迫って、一手争いの形を作りました。

藤井王座、鮮やかに2勝目

 藤井王座は金を打って王手をかけたあと、123手目、香頭に角を打ちます。これが見事な攻防手となりました。

藤井「最後、▲4三金から▲2五角打の手順を発見して、勝ちになったかなと思いました」

 この角を取れば、永瀬玉は詰み。取らずに逃げれば、打ち歩詰めできわどく逃れる形ですが、藤井玉も詰まないため、永瀬陣の飛車を取って勝ちとなります。

 永瀬九段はここで投了し、藤井王座の勝ちとなりました。永瀬九段の側に、はっきりとした悪手はありません。先手番の藤井王座が完璧に近い指し回しだったということでしょう。

 藤井王座と永瀬九段の通算対戦成績は藤井17勝、永瀬7勝となりました。

 藤井王座がストレートで防衛を果たすのか。それとも永瀬九段がカド番をしのぐのか。王座戦五番勝負第3局は9月30日におこなわれます。

藤井「あまり結果は意識せずに、次の第3局にも臨めたらというふうに思っています」

永瀬「せいいっぱい準備したいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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