日本は「金出す国」、イスラエルは「壊す国」―問われる上川外相、日本の納税者に説明責任 #ガザ
パレスチナ自治区ガザへの猛攻撃を加えるイスラエル。一般市民が多くいる住宅地に情け容赦なく猛烈な爆撃を行い、本稿執筆時点で約2万9000人の人々が殺され、その大部分が女性や子ども等の一般市民です。イスラエル軍は避難民が集中する国連管理の学校、病院なども攻撃、道路や上下水道などのインフラも徹底的に破壊しています。これは、ガザの人々にとって極めて深刻な危機であることは勿論、日本にとっても長年にわたりガザを含むパレスチナへ行ってきた人道支援が水泡に帰すことが懸念されます。しかし、日本政府の姿勢はあまりに弱腰だと言わざるを得ません。
*本記事は、theLetterでの記事を転載したものです。
〇衛星写真から日本が支援した施設の被害を確認
先月末31日にオンラインで行われた会見では、日本が支援したガザの施設が破壊されている可能性が濃厚であることが明らかになりました。会見を行ったのは、東京大学大学院情報学環 渡邉英徳研究室と(特活)日本国際ボランティアセンター(以下、JVCと表記)。
渡邉英徳研究室とJVCは衛星画像を使い、ガザ現地の被害状況を分析。それによると、日本のNGOが農園施設での技術指導を支援したアズハル大学のキャンパス、日本政府が建設を援助した南部ハンユニスの廃水処理プラントなど、少なくとも日本関連の3施設の破壊が確認できたとのことです。さらに、日本が支援した病院も周囲の住宅街が徹底的に破壊されるなど、医療活動を行うことが極めて難しい状況であろうことも確認されたとのことです。
JVCは「1993年以降、日本政府及び日本の市民社会・NGOは、ガザ地区の人々の暮らしや権利を守るために多くの支援を行ってきた」「2023年6月時点で日本のパレスチナ自治区への公的支援の総額は約23億ドル(約3,220億円、1ドル140円で換算)にのぼる」と説明。イスラエル軍によるガザ殲滅とも言える破壊活動は、日本の納税者にとっても、他人事ではありません。
〇外務大臣に質問、イスラエルに対し賠償を求めるか?
そこで、私は今月16日に外務大臣会見に参加し、イスラエル軍による攻撃での日本の支援した施設やインフラ等の被害について、どのように対応をするのかを質問しました。
〇あまりに弱腰!お金を出す日本、破壊するイスラエル
私の質問に対する大臣の回答を端的にまとめるならば、今後、被害状況を調査するつもりではあるが、それに基づいてイスラエルに賠償を求めるかどうかは事実上のゼロ回答。過去の被害に関しても賠償を求めた具体的事例はない、といったところでしょう。ただ、日本政府のガザ含むパレスチナ支援は、日本国民のお金を原資としているにもかかわらず、あまりに弱腰であると言わざるを得ません。
そもそも、ガザを含むパレスチナ自治区はイスラエルの占領下にあり、国際人道法においては、占領地での人々の生活に責任を持つのは、占領している当事国です。つまり、本来であれば、イスラエルがガザを含むパレスチナ自治区の人々の生活環境に対し責任を持つのですが、実際には、日本を含む各国及び国連が、資金を拠出してパレスチナの人々を支援してきました。日本はひたすらお金を出す、しかし、日本が支援した施設やインフラをイスラエルがいくら壊しても御とがめなし。「日本はお金を出す国」「イスラエルは壊す国」ということでは、イスラエルに甘すぎるし、負担を担ってきた日本の国民に対しても、あまりに不誠実ではないでしょうか。
〇日本の外交スタンスも矛盾
上川外相の回答は、外相自身のスタンスとも矛盾します。ガザに関する質疑の前に、上川外相は、ロシアによるウクライナ侵攻に関連して、「『法の支配』及び、『人間の尊厳』が守られる世界を実現する」「ロシアによるウクライナ侵略は、G20の協力の基盤を揺るがす暴挙であり、各国が支えるべき『法の支配』への大いなる挑戦であり、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和を、一日も早く実現することが急務」と述べています。
この「法の支配」とは、専断的な国家権力の支配(人の支配)を排し、権力を法で拘束することによって、個人の権利・自由を擁護することを目的とする原理です。つまり、あらゆる権力者の判断や決定よりも、まず第一に法律が優先されるという原理であり、侵略戦争を禁じた国連憲章に反するロシアのウクライナ侵攻は、許してはならないというものが、上川外務大臣のスタンスだということになります。
「法の支配」を重視する、それ自体は国際秩序のため、絶対に必要なことですし、私も大賛成です。しかし、それならば、戦争の最中にあっても民間人を殺すことや民間施設を破壊することを禁じている国際人道法*に反したイスラエルの暴挙に対しても、厳しく対応すべきでしょう。日本はロシアに対し経済制裁を科しているのですから、イスラエルに対しても、相応の対応をすべきなのです。
日本が行ってきたガザ等パレスチナへの支援による施設やインフラ等で、それがイスラエル軍に破壊されても、相応の対応を取ってこなかったことは、イスラエルの暴力と破壊を助長させてきたとも言えます。私が取材の中で見てきた中でも、2008年末以降、現在までに、数年おきにイスラエルはガザでの大規模な破壊と殺戮を繰り返してきました。ガザの民間人に対し、何をやっても罰せられたり、制裁を科されることがない―そうしたことの積み重ねが、今、起きているジェノサイドというべき殲滅攻撃をもたらしたのです。
〇日本は国際秩序回復の主導的役割を果たせ
だからこそ、今からでも、これまでのガザでの日本の支援対象の破壊に対する賠償を求めるなど、イスラエルに対して経済的な圧力をかけるべきでしょう。イスラエルのネタニヤフ首相はハマスの攻撃を防げなかった失点を挽回するため、また自身の汚職から有権者の目をそらすため、そうそう簡単なことではガザ攻撃をやめません。ちょっとやそっと上川外相が「お気持ち表明」したところで、焼石に水です。他方、ガザ攻撃に費やされる膨大な軍事費や兵役による労働力の不足により、イスラエル経済は深刻な危機を迎えつつあります。つまり、経済的な要因こそ、ガザ攻撃をやめさせるカギなのです。
ガザ攻撃をめぐっては、伝統的にイスラエル支持の米国、過去のユダヤ人迫害に後ろめたさを抱える欧州各国が、国連安保理を機能不全に陥らせ、即時停戦を求める国際社会の足枷になってきました。だからこそ、G7諸国の中でも、より中立的な立場である日本が停戦実現を主導することは、極めて重要です。また、それは「国連改革」を掲げる日本の外務省にとってもまた、意欲的かつ意義のある取り組みだとも言えるでしょうし、仮に日本の外交がガザ停戦のため功を奏するならば、有権者であり納税者である日本国民も外務省や上川外相を見なおすことになるでしょう。
(了)
*国際人道法違反の民間人への攻撃という点において、イスラエルだけではなく、ハマスのそれも批難され、法の下に処罰されるべきです。また、ハマスへの支援も制裁の対象にすべきなのかも知れません。しかし、イスラエルとパレスチナの二国家共存を核とする中東和平に反対する立場から、ハマスを「都合の良い敵」として、利用し支援してきたのが他でもないイスラエルのネタニヤフ首相です。
関連:日本のテレビが触れないタブー、イスラエルはハマスを支援してきた!
https://reishiva.theletter.jp/posts/6da023e0-739e-11ee-a492-ab9d73945d73