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ポヤトス監督とはまさに「相思相愛」。橋本英郎を彷彿とさせる思考力も武器に山本悠樹がガンバ大阪に君臨中

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
ダニエル・ポヤトス監督が「ピッチ上の監督」と絶大な信頼を置く山本悠樹(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 Jリーグでは鹿島アントラーズに次ぐ9つのタイトルを手にしているガンバ大阪。そんな西の名門が輝いた時代には、常に指揮官の「懐刀」としてピッチ上で意図を体現する名選手たちが存在した。

 最初に黄金期を築き上げた西野朗監督が率いた当時は遠藤保仁や山口智、橋本英郎、明神智和がチームの屋台骨を支えていた。余談だが、2011年のJ1リーグ最終節でガンバ大阪でのラストマッチを終えた西野監督が「僕は選手に恵まれましたね」と口にしたのは紛れもない本音だった。

 そして「昇格即三冠」というJリーグ史に残る偉業を果たした長谷川健太監督の時代は勝負強さをベースに、タイトル争いの常連としてリーグを牽引。欠かせなかったのは「ポジション名はヤット」との名言で長谷川監督が全幅の信頼を寄せたキャプテン遠藤だった。

ガンバ大阪のV字回復を支える「ピッチ上の監督」とは

 シーズン序盤には一時、最下位に転落しながらも5月28日のJ1リーグ、アルビレックス新潟戦で勝利を飾ると、直近のリーグ戦11試合で8勝2分1敗という巻き返しを見せているガンバ大阪は、ダニエル・ポヤトス監督が目指すスタイルを体現しながら、結果を出し始めている。

 復調の要因はいくつかある。昨季とは180度対照的な方向性の落とし込みに時間を要したことや、Jリーグ屈指の外国籍選手がその実力を発揮し始めたことも挙げられるが、見逃せないのはチームの復調後に存在感を増しつつある「ピッチ上の監督」の存在だ。

 まだ就任から1ヶ月も経たない2月7日。吹田市内にあるクラブ練習場で、就任後初めて本格的な囲み取材に応じたスペイン人指揮官はある「予言」を口にする。

キャプテンの宇佐美貴史を支える副キャプテンの一人に山本悠樹を指名したが、その理由を問われたポヤトス監督はこう言い切った。

「悠樹はニュージェネレーションの筆頭」。2月に行われた最初の囲み取材から、ポヤトス監督は山本のポテンシャルを称賛していた(筆者撮影)
「悠樹はニュージェネレーションの筆頭」。2月に行われた最初の囲み取材から、ポヤトス監督は山本のポテンシャルを称賛していた(筆者撮影)

「ガンバの次の未来を作っていくことも私の頭の中にある。そのニュージェネレーションの筆頭として悠樹が本当に次のガンバの顔として頑張って欲しいし、未来を作るということで副キャプテンを任せた」

 1月9日に始動し、沖縄キャンプなどでもチームを作り上げる作業に取り組んでいたポヤトス監督だったが、後に「一目惚れ」だったことを明かしている。

「彼を初日に見た時から、この選手は自分自身のサッカースタイルにバッチリ合うなと凄く思っていた」(ポヤトス監督)。

 このスペイン人指揮官は単なるパスサッカーやビルドアップに固執したサッカーは指向しない。就任から一貫して口にしてきたのは「ピッチのどこにスペースが生まれるのか、生み出すのか」である。

 そして勝っても負けても一貫してブレずに用いてきた4-3-3のフォーメーションについても「中盤の3人が重要で、彼らがゲームを作ったり、チャンスを作ったりすることになる。そこがうまく機能しないとチャンスもなかなか作れない」(ポヤトス監督)。

 シーズン序盤は負傷を抱えながらプレーしていたイッサム・ジェバリの本領発揮が遅れたり、ウイングの人選に時間を要したりしたことも低迷の一因だったが今のガンバ大阪は山本とダワンの両インテリオール(インサイドハーフ)とアンカーのネタ・ラヴィが「黄金の逆三角形」としてチームの心臓部を支えている。

 その中でも山本は4アシストという数字以上の貢献度を見せる。

 「悠樹が中心となって色々なタスクを担い、チームを動かして行ってくれる。一言で言うと『エンドレナドール・デントロ・ド・カンポ(ピッチ上の監督)』だね」(ポヤトス監督)。

 ポヤトス監督は戦術家でもあるが、決してロボットのような動きを選手には求めない。「サッカーでは似ている状況は起きるかもしれないけど、同じ状況は起きない。そこで判断をすることがサッカーで一番難しい要素」と話すように、ピッチ内で選手たちが自発的に解決策を求めることも否定しないのだ。

「ハッシー二世」とでも言いたくなる確かな分析力

 かつて、西野ガンバでは橋本が圧巻の分析力と献身性をベースに、試合中にチームが綻びを見せないように「黒子」として抜群の役回りを見せていたが、今季の山本は「ハッシー二世」とでも言いたくなる、分析力とプレーでの影響力を発揮中だ。

 その象徴の一つが6月11日に行われたホームのFC東京戦。3対1で快勝し、3連勝を手にしたガンバ大阪だったが天皇杯2回戦から中3日の連戦にもかかわらず、山本は両チーム最多の11.4キロを走ったが、驚異的なのは「久しぶりにキツイと思いながら走った。マジでキツかったですよ」と苦笑いしながら振り返った走行距離ではなく、その質の高さ。

「相手のCBにもう少し、ジェバリがプレスをかけて欲しいと個人的に思っていた、CBに運ばれて押し込まれるのは嫌だし、誰かがプレスに行かないと思ったので僕が行った。それにジェバリは点を取って気持ちよくプレーしていたので、あまり守備を言い過ぎない方がいいと思ったので僕が行けばいいかなって。それにFC東京とはルヴァンカップの時も僕が相手のアンカーを切りながらプレスに行くと、うまく行っているイメージがなかったので、それと同じことをしたら多分、相手はうまく行かないだろうと思っていた」。

 宇佐美に代わってキャプテンマークを巻いた山本が見せた「自己犠牲」の精神は、明確な根拠に基づいていた。

 ポヤトス監督は選手には3つのタイプがあると話す。「良い選手だけど何も考えていない選手。良い選手だけど『監督、これはどうしたらいいの』と質問してくる選手、そして3つ目の良い選手というのは頭の中で起こったことを解決する能力がある選手、監督に聞かなくても、『今はこういう状況だ』と周りに伝えて影響を広げていく選手」

 山本が前述した3番目の選手であることは言うまでもない。

 7月16日のホーム、柏レイソル戦の一コマは、その象徴である。

 後半22分、ファン・アラーノがダメ押しとなるPKを蹴り込んだが、アラーノが得たPKの場面でVARチェックが入り、試合は一時止まっていた。そのタイミングを利用して山本はともに右サイドでプレーする高尾瑠と食野亮太郎を集めてハーフライン付近で「青空会議」。その狙いを試合後に明かしてくれた。

「僕が少し下がって亮太郎を内側に入れて、右のスペースに瑠くんを攻撃に上げるのが一番スムーズで、『もっと簡単に攻撃できる』と2人には言いましたし、ダニ(ポヤトス監督の愛称)にも『あれが一番やりやすい』と伝えましたけどね」(山本)。

 大学サッカー界屈指のMFとして2020年にガンバ大阪に加入。課題だった守備の強度や走力もクリアしながら成長してきた山本はプロ4年目の今季、完全なる覚醒を見せ始めている。

「こういういいサッカーをしてくれる監督と出会えて良かった」。指揮官への感謝も口に

「ダニが喜んでいるのを見ると僕自身も嬉しい気持ちになるし、こういういいサッカーをしてくれる監督と出会えて良かった」。

 互いに「相思相愛」の間柄。8月24日の練習後、囲み取材で番記者に囲まれる「ピッチ上の監督」にポヤトス監督は「ナショナルチーム」と茶目っ気たっぷりのイジりを見せたが、クレバーな山本は決して、浮つくことなく、足元をしっかりと見つめていた。

「代表には縁がないと思っているので、そんなに期待していないですね。それよりチームが勝てばいいと思っているので」。

 ガンバ大阪がタイトルを手にし、真の復権を果たした時、必ずその中心に山本悠樹が君臨しているはずだ。Jリーグだけで心と技を磨き上げたかつての遠藤がそうだったように。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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