チャイナマネーが「国際秩序」を買う――ASEAN外相会議一致困難
ラオスで開催されているASEAN外相会議で南シナ海に関する判決を共同声明に盛り込めないように、中国は早くからカンボジアとラオスを抱き込んでいた。南シナ海沿岸国でないASEAN内陸国を狙った中国の戦略を読む。
◆7月14日に落とされていた議長国ラオス
7月24日からラオスの首都ビェンチャンでASEAN(東南アジア諸国連合)の一連の外相会議が開催されている。会議では中国が主張する南シナ海における管轄権は法的根拠を持たないとする仲裁裁判所の判決にどう対応するかを盛り込んだ共同声明を出すはずだった。しかし中国はそれを早くから見越してASEAN諸国分断に向け手を打っていた。
その10日ほど前の7月15日と16日、モンゴルのウランバートルでASEM(アジア欧州会議)が開催されたが、中国の李克強首相は一日早く現地入りして、現地時間7月14日午後、ウランバートルのホテルでラオスのトーンルン・シースリット首相と会見していた。
李克強首相は、中国・ラオス国交正常化55周年記念を新しいスタート地点として、両国の全面的な戦略パートナーシップを強化するため、「鉄道、投資、インフラ、電力、エネルギー源」分野などに関して数多くの新しいプロジェクトに調印した。
その上で李克強首相は南シナ海仲裁判決に対する中国の原則的立場を述べ、トーンルン首相に支持を求めた。
トーンルン首相は、「喜んで中国の立場を支持する」と述べて、李克強首相を喜ばせている。
そもそもラオスは一党支配の社会主義国家。旧ソ連が存在していたときはソ連と仲良くし、中ソ対立をしていた中国とは敵対関係にあった。しかし旧ソ連が崩壊する兆しが見えてきた80年代後半から中国と手を結び、ソ連崩壊とともに中国との緊密度を増している。
中国にとってはラオスもカンボジアも南シナ海の海に接していない「ASEAN内陸国」。
南シナ海で利害が衝突しない「ASEAN内陸国」を狙い撃ちする中国の周到な戦略は早くから始まっていた。
◆7月15日に落としたカンボジア
現地時間7月15日の午前、李克強首相はカンボジアのフンセン首相とウランバートルで会っていた。カンボジアとは「政治的相互信頼関係」と「経済相互補助の両国の優勢」を基軸として、「投資、経済貿易、農産品加工製品、水利、インフラ建設」などに関して多くのプロジェクトに調印した。かつ教育や観光分野などに関して、できるだけ多くの中国人をカンボジアに旅行に行かせたり、多くのカンボジア青年を人材養成のために受け入れることなどを約束した。
その上で、李克強は南シナ海判決に関して、カンボジアが中国側を支持するように求めたのである。
それに対してフンセン首相は、「カンボジアは当事国同士が対話を通して協商することを支持する」と回答している。
カンボジアの場合は、アメリカと旧ソ連との板挟みになり複雑な歴史をたどりながら、(基本的にはアメリカ勢力によって)国外追放になったシハヌーク国王を受け入れたのは中国だった。だからシハヌーク国王の墓は北京にある。
そういう深い関係もあり、中国とカンボジアは、ことのほか親密だ。
◆絶対に中国の肩を持つ国々は?
外交関係では、なかなか「絶対に」ということは言えないが、しかし3カ国を挙げるとすれば「パキスタン、カンボジア、ラオス」を挙げることができる。
ASEAN関連の会議で、ASEAN内陸国のカンボジアとラオスを自国側に引きつけておくことは、中国にとっては戦略的に不可欠だ。
7月24日からラオスのビエンチャンでASEAN外相会議が開催されているが、ASEAN外相会議だろうとASEAN拡大外相会議(ASEAN諸国+日米中露豪EU…などが参加)だろうと、カンボジアとラオスがいる限り、ASEAN諸国が一致して中国に不利な共同声明を出すことはできない。
特にASEAN会議では「全員の一致」が要求されるので、カンボジアとラオスを通して、中国の望みは叶えられるのである。
ましていわんや、今回はラオスが議長国。
今ではチャイナマネーが「国際秩序」をも買ってしまっているのである。
中国の過度なほどの自信と傲慢さの原因は、ここにある。
その中国、実は根幹的な弱点を抱えている。
それは中華人民共和国を誕生させた毛沢東と中国共産党に関する秘密を、中国が隠し通していることである。その秘密を中国人民が知った時に、中国共産党は統治の正当性を失い、中国共産党政権はたちどころに滅びるだろう。
その秘密は、拙著『毛沢東――日本軍と共謀した男』に書いた通りだ。
これを隠し続けていたいために激しい言論弾圧とともに強硬姿勢に出る。
しかし日本の世論には、先の戦争への贖罪意識が働くのか、この「決定的な力を持っている事実」を、正視する勇気はないらしい。
どうも筆者には、中国の顔色を窺っているように思えてならないのだが、あるいは、チャイナマネーが至るところで力を発揮しているのだろうか……。