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「あんなこと」や「こんなこと」があった2018年のテレビ界(上半期編)

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年も残りわずかになりました。「あんなこと」や「こんなこと」があった2018年のテレビ界を、細かな話題で振り返ってみたいと思います。ということで、まずは1月から6月までの「上半期編」です。

「小室哲哉」不倫報道 

2016年1月のベッキーさんの騒動以来、不倫報道が急増したのは、週刊誌という活字メディアがネタを作り、テレビはそれを追いかけるだけでラクに視聴率が取れたからです。一昔前なら“不倫は下世話”と躊躇したはずですが、視聴率を稼げるコンテンツと見たテレビはワイドショーのみならず、報道番組でも扱うようになりました。この2年間は、いわば“不倫報道バブル”といえる状況が続きました。しかし、小室さんの件で、このバブルも天井にさしかかり、冷静になっていったように思います。

有料動画配信オリジナル番組に「吉本興業」も参戦

自主規制が進み、テレビ番組が「窮屈になった」と評される昨今。<臆病なテレビ>と<大胆な動画>という対比で、若い人たちを中心に「ネットでは面白いことをやっているらしい」という認識がすっかり広がりました。『わろてんか』(創業者の吉本せいをモチーフにした朝ドラ)で描かれていた創業の時代から、吉本興業にとって、面白いものに木戸銭を払ってもらうのは当たり前。受け取り手とダイレクトにつながる動画配信事業は親和性が高いはずです。

「松岡修造」平昌五輪で大活躍!?

引退後もタレントとして活躍されていましたが、注目されたきっかけは、松岡さんのテニス教室の映像がテレビで頻繁に流れた時ではないでしょうか。子供たち相手に真剣にぶつかっていく姿に、メディアが“松岡修造”という逸材を再発見したんだと思います。ゲストや司会というプレイヤーとして立つ時の“松岡修造”を。東宝の元社長の父親と宝塚歌劇団のスターだった母親を持ち、ある種、究極のお坊ちゃんですが、嫌味がない。品がある。視聴者は、金持ちの嫌味な部分が少しでもあれば敏感に反応するのですが、松岡さんにはそれがない。逆に子供たちに厳しい言葉を浴びせようが、消せない品の良さを感じさせる。そして、松岡修造がここにいるという贅沢感さえ生まれて、五輪では旬の人になっていました。

「石田ゆり子」ブーム!?

フォトエッセー『Lily─日々のカケラ─』(文藝春秋)はベストセラー。インスタグラムのフォロワー数も開始直後に100万を突破した、石田ゆり子さん。『逃げ恥』以前の出演作で、親友の夫との不倫を描く『さよなら私』や、夫を死なせた男性との恋を描く『コントレール~罪と恋~』でも注目されてきました。石田さんは“清純さとエロスを併せ持つ稀有な存在”。男性は完敗です。彼女は自分の魅力をわかりながら、それを強調することなく自然に醸し出す。そこがまたいいんでしょうけど(笑)。

「有働由美子」NHKを飛び出す

『NHKの有働アナ』は唯一無二の存在でした。明るさ、親しみやすさ、また等身大の自分を見せる潔さで広く受け入れられてきました。たとえば「わき汗」の話題でも、取り繕わず視聴者に伝えていましたよね。決して上から目線にならず、「皆さんと同じ一人の女性ですから」というスタンスが見事でした。アナウンサー出身の女性が、組織運営に関わる理事などのポジションに就いてもいい時代です。正直言って、有働さんには、NHKで働く女性のロールモデルとして道を切り開いてほしかったですね。

「財務次官セクハラ問題」でのテレ朝「初期対応」

記者クラブのような組織に属し、会社の看板を背負うからこそ取材ができるのです。そういったなかで自らが属する媒体で被害を報じれば、同僚が取材現場でなんらかのリミットをかけられることは火を見るより明らか。福田次官の件がそんな相手の立場の弱みを巧みに利用した、卑怯な手口だったといっても、彼女たちもセクハラを受けて、そこで帰ってしまえば、会社から「なにやってんだ」と言われてしまう。女性社員は上司の判断に「(セクハラを)かわしてうまくやれ」というニュアンスを受け取ってしまった可能性があります。本来なら、テレ朝は女性社員とともに闘うべきでしたが、訴えがあった時点でそのような判断ができなかったのは残念でした。

上智大を中退した、Hey! Say! JUMP「岡本圭人」

岡本さんが在籍していた国際教養学部に限りませんが、上智大学は他の大学に比べると規模はそれほど大きくありません。これは校風でもありますが、各定員が少なく、何百人もの学生が入れる大教室もありません。多くても100人、通常は30~40人ほどの教室で、学生それぞれの顔が見える授業を行うことが多いんです。出欠を取る授業も多く、代返など効きません。芸能活動をしながら、というのは、厳しいでしょうね。また最近は特に、出欠には厳しくなってきています。それは国際教養学部ばかりではありません。都心にある大学なので、通いやすいメリットはあるでしょうけど、上智大学には芸能人枠があるわけでもありませんから、仕事との両立はなかなか厳しかったと思います。

カトパンこと加藤綾子アナの「ドラマ進出」

加藤綾子アナ、『半分、青い。』や『ブラックペアン』など人気ドラマへの立て続けの出演で順風満帆に見えましたが、視聴者は滑っても転んでも、どこから見ても「フジテレビの看板を背負っていたカトパン」として見ています。もしこれで女優としての自信を深めて、本格的な“転身”を考えているとしたら、びっくりな勘違いですね。主要キャストではなく、“限定された”役だからこそ許されているわけで、演技が多少ひどいとしても、ゲスト出演的な露出なら視聴者は笑って見ていられます。同世代の女優さんはいくらでもいるわけで、彼女である必要はないんです。あくまで話題作りでにぎやかし。朝ドラではアナウンサー役でしたし、極端に言ってしまえば、演技を求められていなかったわけですから。

ドラマ『ブラックペアン』に臨床薬理学会が抗議

大学病院を舞台にしたTBS日曜劇場『ブラックペアン』に対し、日本臨床薬理学会が抗議しました。劇中に登場する「治験コーディネーター」が患者に多額の負担軽減費を支払う描写などについて、「現実と乖離(かいり)している」というのが主な理由でした。あのドラマは、手術成功率100%の超人的技能と秘めたる野望を持つ天才外科医が主人公。不可能を可能にする手術場面などダイナミックな展開で楽しませるエンターテインメント作品でした。(元フジテレビアナウンサーの)加藤綾子さん演じる治験コーディネーターは原作小説にはなかった脇役の一人。そのキャラクターや仕事ぶりに、他の登場人物と同様、ドラマ的な演出や味付けがなされていたのは当然のことです。物語全体がドラマというフィクションであり、現実に沿った内容に終始するのであれば、医療ドラマだけでなく、刑事ドラマも弁護士ドラマも成立しなくなります。

・・・以上、細かな話題で振り返る、2018年上半期の「テレビ界」でした。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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