マックス・シャーザーの手の粘りは必然だった?!MLB通算194勝元右腕投手が解説するロジンの真実
【今シーズンから粘着物質の不正使用を厳格化したMLB】
4月19日のドジャース戦に先発し、4回登板前に粘着物質の不正使用で退場処分を受けたメッツのマックス・シャーザー投手だが、その翌日にMLBから10試合の出場停止処分が発表され、アピール(不服申し立て)を断念し現在は出場停止状態に置かれている。
MLBではここ数年投手が投げるボールの回転数が劇的に上昇している状況を鑑み、2021年のシーズン途中から投手の粘着物質の不正使用を厳格に取り締まり始め、試合中に審判による検査を定期的に実施するようになった。
この新ルール導入により、審判が粘着物質の不正使用を発見した際は、即座の退場処分と10試合の出場停止処分及び罰金が科せられることになった。つまり今回のシャーザー投手は、ルール通りの処分を科せられたわけだ。
またMLBは今シーズン開幕前に、各チームに対しこれまで以上に検査回数を増やし厳格に対処していく方針を通達しており、今回のシャーザー投手の一件は、チームや投手たちが細心の注意を払って試合に臨んでいたはずの中で起こった出来事だった。
【違法粘着物質ではなく手の粘着性が増したことが処分理由】
ただ処分を受け入れたとはいえ、シャーザー投手は粘着物質の不正使用を認めたわけではない。
彼は退場処分を受けた際、そしてその後のメディアの取材でも、違法粘着物質は使用していないし、審判やMLBオフィシャルの指示に従いアルコールで手を洗浄し、グローブも交換した上で、使用が認められているロジンと汗で手に粘り気が生じたと主張し続けている。
その上で、処分にアピールしたとしても裁定するのが第三者ではなくMLBオフィシャルだという不公平さを指摘し、アピールせずに処分を受け入れたにすぎない。
またシャーザー投手を退場処分にした審判団も処分理由について、違法粘着物質を発見したからではなく、何度も検査で注意しながら最初の検査よりも手の粘着性が増していたための措置と説明している。
【MLB通算194勝のコーン氏が解説するロジンの真実】
そうした両者の言い分が公になる中で、つい先日メッツ対ジャイアンツ戦で解説を務めていた、MLB通算194勝のデビッド・コーン氏が試合中にロジンについて興味深い解説を行っている。
このコーン氏の解説については米メディアも大いに注目しており、コーン氏が解説を務めた試合を中継していたESPNも同氏の解説シーンだけを切り取り、YouTube公式アカウントで動画を公開しているほどだ。
コーン氏によれば、単にロジンを使用するだけでは多少の粘り気しか生じないのだが、ロジンを使った箇所をアルコール洗浄すると、それ以降にロジンを使用しただけでとんでもない粘着性を発揮すると説明している。
コーン氏は自らそれを検証し、アルコール洗浄した後にロジンを使用すると指は糸を引くほどの粘着力をみせ、ボールを普通に握り親指を離しても人差し指と中指にボールが張り付いてしまうことを紹介している。
【アルコール洗浄ではむしろ粘着力が増すだけ】
すでに各所で報じられているように、シャーザー投手は2回終了時点で審判から検査を受けた上で手を洗浄するよう求められ、MLBオフィシャルの監視下でアルコール洗浄を行っている。
そして3回登板前に再度検査され、手の状態に問題はなかったもののグローブ内部に粘着物質があったため、グローブの交換を命じられた。そして4回登板前に行われた検査で、2回終了時の検査よりも手の粘着性が増していたということで退場処分になった。
しかしコーン氏が説明するように、シャーザー投手はアルコール洗浄した時点で、普通にロジンを使用しただけで粘着力はむしろ増していたことになる。つまり4回登板前のシャーザー投手の手が前の検査より粘着性が生じていたことは必然だったと言えるだろう。
【MLBは即座にガイドラインの改正が必要では?】
念のためMLBの粘着物質の不正使用に関するガイドラインを説明しておくと、審判は投手が違法粘着物質の使用を匂わせるような必要以上の粘着性の状態をチェックする一方で、汗の滑りを抑制するために手、手首、腕にロジンを使うことを認めている。
繰り返すが、今回のシャーザー投手は手に粘着性があったことを認めた上で違法粘着物質の使用を完全否定し、合法のロジンと汗で生じたものだと主張している。その一方で審判団は、違法粘着物質の使用を確認できていないが、シャーザー投手の手の粘着性が明らかに増したため退場処分にしたと説明している。
そもそもMLBが粘着物質の不正使用を取り締まるようになったのは、投手がここ数年「スパイダータッグ」に代表される強力な粘着物質を使用することでボールの回転数に大きな変化が見られたため、それを是正するための措置だった。
そうした違法粘着物質の使用を取り締まるのは理解できるが、今回のコーン氏の解説で、合法のロジンを使用しても使い方次第では違法粘着物質に近いような粘着性が生じることが世に示された。
シャーザー投手の一件で明らかになったが、違法粘着物質の使用を排除するという当初の目的からやや逸脱し、現状は粘着物質の合法、違法の確認は二の次で、投手の手に生じた不必要な粘着性だけで判断しているように感じられる。
とりあえずMLBには早急なガイドラインの見直しを期待したいところだ。