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「陽気で明るく美味しい国ウクライナ」が戦禍に。研究者・岡部芳彦さんを駆り立てる“かつての後悔”とは

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、世界が一変した2022年。ウクライナ研究の第一人者として、歴史的な背景の補足や注目すべきポイントをわかりやすくコメント発信し続けた岡部芳彦さんに、Yahoo!ニュース 公式コメンテーター「コメンテーターアワード2022」が贈られました。

「Yahoo!ニュース 個人 10周年感謝祭」で行われた授賞式には、ウクライナの民族衣装ヴィシヴァンカを着て出席
「Yahoo!ニュース 個人 10周年感謝祭」で行われた授賞式には、ウクライナの民族衣装ヴィシヴァンカを着て出席

もともとは発信活動には消極的だったそうですが、現在は大学の講義や研究の忙しい合間をぬって、講演活動やメディア出演など積極的に行っている岡部さん。

「今はウクライナについて聞きたいと言われたらできるだけ対応するようにしています」という言葉どおり、国会議員の勉強会から小さな学習塾での小学生向け講演会まで、聞き手や場所を問わず熱心に取り組んでいます。

岡部さんにこのような大きな心境の変化をもたらしたのは、かつての「後悔と反省」にあったといいます。戦禍に見舞われるウクライナへの思い、そして発信活動への思いを伺いました。

「情報の受け取り手の選択肢を増やしたい」と始めた発信活動

毎年4回ほどウクライナを訪れていた岡部さんだが、新型コロナウイルスの流行以降ウクライナへは渡航できていないという
毎年4回ほどウクライナを訪れていた岡部さんだが、新型コロナウイルスの流行以降ウクライナへは渡航できていないという

――2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。最初に侵攻のニュースを聞いたときは、どのように感じられたのでしょうか?

この戦争が始まる1週間ほど前まで、日本で教えている神戸学院大学の学生50人ほどと、神戸学院大学の交流協定校であるウクライナの3つの大学の学生100人ほどでオンラインフォーラムをしていました。両国の緊張が高まっていることは報道でも伝えられていたので、うちの学生たちが心配して「ロシアは攻めてこないの?」とウクライナの学生に聞いていたんですよね。

オンラインフォーラムには情勢が安定していた西ウクライナの学生の参加が多かったこともあって、ウクライナの学生たちは「全然大丈夫だよ、街中なんともないよ」と言っていたので、侵攻の第一報を聞いたときは僕も信じられませんでした。実際にそのときの「真偽不明ではないか」という僕のメディアでのコメントも残っていると思います。ウクライナに住む人でさえ突然に感じる出来事だったので、情勢を見誤ってしまいました。

ドネツク州マリウポリをはじめロシア側の東ウクライナから首都キーウまで攻撃にさらされた 画像制作:Yahoo! JAPAN(Institute for the Study of Warの発表を基に作成)
ドネツク州マリウポリをはじめロシア側の東ウクライナから首都キーウまで攻撃にさらされた 画像制作:Yahoo! JAPAN(Institute for the Study of Warの発表を基に作成)

侵攻の実情を知るにつれ、ウクライナに知人友人もたくさんいるので心配になりましたし、とても悲しい出来事だったので、メンタルも次第に不安定になりました。一方、メディアでコメントをたくさん求められるようになり、日々忙しく情報発信をするようになっていきました。

――これまでは情報発信をあまり前向きにしてこなかったそうですが、積極的に行うようになったのには、どのような理由があったのでしょうか?

2014年のロシアのウクライナ侵攻の際は、メディアに出ていたのがロシアの専門家の方が多く、日本のニュースでもロシア側のニュースばかり流れてしまったんですよね。当時は今ほどではありませんでしたがロシアではプロパガンダが流れていて、それがそのまま日本でも流れてしまっていました。ニュースを鵜呑みにして判断を誤ってしまった政治家や実業家もいたのではと思います。その反省もあり情報発信を始めました。今回の侵攻はロシア側の情報もウクライナ側の情報もあるので、受け取り手は情報を選択できるようになったと思います。

また、妻に後押ししてもらったことも理由のひとつです。妻はこれまでメディア、とりわけテレビに出ることにあまり好意的ではなかったのですが、今回戦争にまでなってしまったことで覚悟を決めたようで、「この戦争についてはあなたにしか喋れないことがあるから」と後押ししてくれました。彼女もウクライナを訪ねたことがあって、友達もいっぱいいるんです。

2019年の天皇即位の礼では、来日したゼレンスキー大統領と再会した。ゼレンスキー大統領とは複数回会っていて要人とも面会を重ねている(写真:岡部さん提供)
2019年の天皇即位の礼では、来日したゼレンスキー大統領と再会した。ゼレンスキー大統領とは複数回会っていて要人とも面会を重ねている(写真:岡部さん提供)

陽気で明るく美味しい国、ウクライナに恋をして

――ウクライナに興味を持ったきっかけは何ですか?

1992年にロシアに旅行をしたのがきっかけです。1991年8月、ソ連はクーデターに失敗し、崩壊に向かっていました。家で新聞を読んでいたら、今思えば悪趣味ですが、ある旅行会社の「今しかない。ソ連崩壊を見にいこう」といったツアーの広告を見つけ、僕は「これだ!」と思い、父に行かせてほしいと頼み込みました。そのツアーは1月後半から2月にかけてで、当時僕は高校3年生。父からは「受験はどうするんだ」と言われましたが、「受験は毎年あるけどソ連崩壊は一度しかない」と説得しました。父も妙に納得してくれて「それなら行ってこい」と。

ツアーでは、モスクワからサンクトペテルブルクに行き、最後にキーウを訪れました。ソ連崩壊で大混乱のさなかで、キーウも混乱していましたが、「独立できた」という希望があり、ウクライナの人々も優しかったんです。綺麗な街並みにも感銘を受け、ちょっとキザかもしれませんが、そのときから僕はウクライナに恋をしたのかもしれないです。

今はメディアで戦争に関する話題について聞かれますが、本当は美味しい食べ物の話とか、ウクライナの魅力を伝えたいんですよね。メディアに出だした頃は、必ず冒頭に「(本当は)陽気で明るく美味しい国ウクライナなんですけど」と伝えていました。

メディアに出演する際や講演時には、ウクライナにまつわるものを身に着けている。この日の取材ではクリミア半島の少数民族、クリミア・タタール人のシンボルが描かれた蝶ネクタイを着用
メディアに出演する際や講演時には、ウクライナにまつわるものを身に着けている。この日の取材ではクリミア半島の少数民族、クリミア・タタール人のシンボルが描かれた蝶ネクタイを着用

コメントだからこそ「痒いところに手が届く情報」を

――Yahoo!ニュース 公式コメンテーターとして発信することにはどのような思いがありますか?

最初はコメントをどのようにすればよいかわかっておらず、「トラブルにつながってしまったら」と発信するのが怖かったんですよね。あるとき大学で教えているゼミ生に、Yahoo!ニュース 公式コメンテーターをしていると言ったら、テレビ出演のことを話しても驚かない学生たちから非常に驚かれ、尊敬されるということがありました。私にとってはヤフーといえば検索でしたが、学生はヤフーをニュースサイトとして見ているようでした。それもきっかけになり、コメントを積極的に書くようになりましたね。

最初にコメントを書いたのは、東ウクライナのマリウポリという街に被害が出たときでした。何度か行ったことのある街だったので、「新聞には書いていないことを、コメントで書こう」と思ったのがきっかけです。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて最初の投稿となったコメント。現地の暮らしや文化にも精通している専門家ならではのコメントからは、人々の日常や当事者の様子が浮かぶ
ロシアのウクライナ侵攻を受けて最初の投稿となったコメント。現地の暮らしや文化にも精通している専門家ならではのコメントからは、人々の日常や当事者の様子が浮かぶ

新聞やWebの記事には文字数の制限があり、痒いところに手が届かないこともあるので、コメントでは記事に書けないことを補足するという気持ちで書いています。自分が書きたいと思うことについて発信できるのが、コメントの醍醐味です。奈良県にある会社がウクライナ国籍の女性社員にパワハラをしたという記事にコメントを書いたときは、そのコメントを読んで国会議員の方から直接連絡をいただいたこともありました。

ゼレンスキー大統領をはじめウクライナで会った人々との交流について語る岡部さん。「そういえばこんな話もあって…」と、ウクライナ愛にあふれるエピソードは尽きない
ゼレンスキー大統領をはじめウクライナで会った人々との交流について語る岡部さん。「そういえばこんな話もあって…」と、ウクライナ愛にあふれるエピソードは尽きない

――テレビでの発信と、Yahoo!ニュースでの発信で意識的に変えていることはありますか?

テレビは何か事象に対してコメントしますが、Yahoo!ニュースでのコメントは記事がベースにあるので、メインの事象に対してはあまり言及しなくていいわけですよね。そういったこともあってYahoo!ニュースのコメントでは今まで現地に行って実際に見たことや得た知識を中心に発信するようにしています。コメントを読んでくれた方の何かヒントになればいいなと。

――さまざまな情報であふれる中、正しく状況を理解するために、情報を受け取る側はどのような工夫が必要でしょうか?

とにかく情報を受け取るチャンネルを増やして、自分で情報を選択することが大事だと思います。ロシアでも毎日ずっとテレビでプロパガンダが流れているというわけではなく、ファミリードラマも流れていて、バラエティ番組も流れていて、ニュースも半分ぐらい本当のことで、あとの半分でプロパガンダが流れるという感じなんです。ロシアの人がそれを信じてしまうのも仕方なく、自分で情報を選び取るしかないんですよね。

それは、日本人も同じだと思っています。今の時代はネットの翻訳機能を使えばどの国のニュースも手に入るので、各国のニュースを読んでみてもいいですね。そして情報の選択肢のひとつがYahoo!ニュースのコメントだったらいいなと思います。

昨今メディアリテラシーという言葉をよく聞きますが、情報の選択肢がなかったらメディアリテラシー以前の問題なので、僕自身、今後も情報発信を積極的に行っていきたいです。

岡部芳彦(おかべよしひこ)神戸学院大学経済学部教授/ウクライナ研究会会長

政治・経済・文化などのウクライナ研究、日本・ウクライナ交流史が専門。ウクライナ国立農業科学アカデミー初の外国人会員。日本人とウクライナ人の交流史に関する著書を続けて刊行しているほか、ウクライナの詩集や民話の日本語への翻訳も行っている。ウクライナ内閣名誉章、最高会議章、ウクライナ大統領付属国家行政アカデミー名誉教授の称号などを授与される。ロシアへの留学経験もあり。

▼これまで岡部芳彦さんが提供した「Yahoo!ニュース コメント」一覧

https://news.yahoo.co.jp/profile/commentator/okabeyoshihiko

【この記事は、Yahoo!ニュース 公式コメンテーター「コメンテーターアワード2022」受賞記念として、編集部がコメンテーターにインタビューし制作したものです】

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ロシアのウクライナ侵攻(Yahoo!ニュース)

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