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なぜ全体が間延びするとダメなのか? 4-3-3システムで初めて露呈した問題【オーストラリア戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

検証が必要とされるオーストラリア戦

 後半84分から出場した三笘薫による2ゴールで勝利を収めた3位オーストラリアとの大一番。終盤の劇的な展開と三笘のスーパーゴールもあり、日本の7大会連続となるW杯本大会出場は、実にエモーショナルなエンディングとなった。

 とはいえ、最初の3試合で2敗を喫した日本にとっては、過去にないレベルの苦しさを味わったアジア最終予選でもあった。

 そういう意味では、本大会出場を決めたことの評価と賞賛とは別に、なぜ苦戦を強いられたのかをしっかり検証する必要があるだろう。

 とりわけ劇的な勝利で終わった今回のオーストラリア戦は、本大会での戦いを見据えた場合、修正すべき課題が散見された試合でもあった。

 まず、この試合を振り返る前提として、両チームが多くの主力を欠いていたことが挙げられる。

 日本は、これまでの最終予選の全試合でスタメン出場していた不動の1トップの大迫勇也をはじめ、右サイドバック(SB)の酒井宏樹、センターバック(CB)冨安健洋といったレギュラー陣、そしてFWの古橋亨梧と前田大然も不在だった。

 そこで森保監督は、GK権田修一、DFラインは右から山根視来、板倉滉、吉田麻也、長友佑都の4人、中盤3枚は遠藤航を中央に、右に守田英正、左に田中碧、前線は右に伊東純也、左に南野拓実、そして1トップには浅野拓磨を配置した。

 山根は第5節ベトナム戦と第6節オマーン戦で、板倉は第7節中国戦と第8節サウジアラビア戦でそれぞれスタメン出場を果たしていたので、初スタメンとなったのは浅野ひとりのみ。

 ただし、浅野は第3節サウジアラビア戦で先発し、途中出場した第4節オーストラリア戦では勝利の立役者になったことを考えれば、ある意味、石橋を叩いて渡る森保監督らしい順当なチョイスと言えた。

 一方、勝つしかないホームのオーストラリアも、直近3試合のダブルボランチを務めたジャクソン・アーヴァインとアーロン・ムーイが揃って新型コロナウイルス感染で不在となったほか、トム・ロギッチも負傷欠場。

 さらに、試合当日には間に合ったものの、グラハム・アーノルド監督も新型コロナウイルス感染による隔離措置を強いられ、準備合宿で指揮を執れない状況だった。

 そんななか、アーノルド監督は前回対戦時に採用した基本布陣の4-2-3-1ではなく、4-4-2の布陣を選択。注目のダブルボランチには、代表2キャップの3番(コナー・メトカーフ)と、代表デビュー戦となった19番(ジャンニ・ステンスネス)という若手コンビを抜てきし、15番(ミッチェル・デューク)と10番(アルディン・フルスティッチ)で2トップを組ませた。

 すると、チームの心臓部にあたるダブルボランチに、経験の少ない2人を抜てきせざるを得なかったことが、少なからず両チームの戦い方に影響。大一番の試合では珍しく、前半から両チームともに好機を作るなど、かなりオープンな展開となった。

相手のボランチコンビに生じた迷い

 この試合のオーストラリアの守備は、2トップが日本の2人のCBにプレスをかける教科書どおりのやり方だったが、遠藤航を中心とする日本の中盤3人が巧みにポジションをとってボールの出口を作ったこともあり、前からのプレスははまらなかった。

 また、アーノルド監督の隔離措置の影響もあったのかもしれないが、特筆すべき日本対策も見当たらなかった。

 こうなると、迷いが生じるのはオーストラリアの若いボランチコンビだ。特に田中碧と守田英正の立ち位置に振り回されると、お互いの距離が遠くなって中盤のあちらこちらにスペースが生まれた。

 逆に、中盤中央のフィルターが早々に崩壊したのは、日本にとっては好材料。間延びした中盤を通り、複数ルートから容易にアタッキングサードに前進して、多くのゴールチャンスを構築することができた。

 日本が作った前半の決定機は3回で、いずれもサイドをえぐってからのマイナスクロスが効果を示した。

 28分に右ポケットに進入した田中のクロスから南野拓実がDFを振りきってシュートしたシーン、32分に伊東純也のクロスを南野がヘディングシュートしたシーン、37分にゴール前までドリブルで前進した長友佑都の高速クロスを南野が合わせたシーンだ。

 28分のシュートは枠を外れたが、32分と37分は惜しくもバーを直撃したシュートだった。アンラッキーだったとも言えるが、4-3-3への布陣変更後の得点力低下傾向はいまに始まった現象ではない。

 より多くのチャンスを作って、いかにして仕留めるかは、高いレベルの相手と対戦する本番までに改善すべきポイントとして挙げられる。

なぜ日本は全体が間延びしたのか?

 また、この試合では浅野拓磨が1トップを務めたことも、中盤が間延びした状態を助長する要因のひとつになっていた。スピードが武器の浅野はポストプレーよりも裏抜けを得意とするため、その特長を生かすべく日本は相手DFラインの背後を狙ったパスを多用したからだ。

 自陣から供給したロングフィードは前半だけで計8本もあり、そのうち6本が浅野をターゲットにしたものだった(オフサイドになった1本含む)。これは大迫起用時には見られなかったデータであり、攻撃バリエーションを増やしたとも言えるが、それによる守備面の弊害も新たに発生した。

「(日本の左サイドを)相手が狙ってきている感じはありました。何本かそこで起点を作られて、相手も意図的に狙ってきたかたちになったと思う」

 これは、試合後のオンライン会見における吉田麻也のコメントだが、実際、前半30分以降にオーストラリアがパス1本によって日本の左サイド、つまり高い位置をとる長友の背後のスペースを起点にチャンスを5回も作っていた。

 特に35分に3番が放ったシュートを15番がフリックで狙ったシュートシーン、40分に右サイドから10番が供給したクロスをフリーの15番がヘッドで放ったシュートシーンは、いずれも10番が右サイドで起点になってから始まった、ゴールが決まっていても不思議ではないシーンだった。

 安定した守備を考える時、間延びした状態に、広いミッドフィールドを3人でカバーする4-3-3は適していない。

 しかも、簡単に前進できたこの試合の前半は、山根視来と長友の両SBも高い位置でプレーしたため、敵陣でボールをロストした直後は相手の2トップに対して板倉滉と吉田の2枚による対応を迫られた。

 前節のサウジアラビア戦では、敵陣深いエリアでは前からのプレス、ミドルゾーンとディフェンスゾーンでは4-5-1のブロックを作って守るという、2つの方法を使い分けながら守備を安定化できていた日本だが、それはコンパクトな守備陣形が大前提。

 今回の問題は、4-3-3に布陣変更してから初めて露呈した事象であり、コンパクトさを失った状態だと、パス1本で相手に多くのゴールチャンスを与えてしまうことの証明にもなった。

日本は左サイドからピンチを招いた

 さらに言えば、それを目の当たりにしていた指揮官が、その問題を放置していたことにも疑問が残る。

 少なくとも、左サイドを破られた2度目の35分のピンチのあとに、ベンチから何らかの修正指示はあって然るべきだった。これも、W杯本番までに改善すべき課題だろう。

 救いは、吉田が「後半はそこを意識して修正したつもりです」と振り返ったように、長友が高い位置をとらずに修正を図ったことだった。

 実際、64分に退くまで長友が背後を突かれたシーンは1度もなく、立ち上がり47分の直接FKと48分の中央からのミドルで10番がシュートを狙った以外、オーストラリアはゴールチャンスを作れずに終わっている。

 同時に、守備の安定化を意識した日本も攻撃が停滞。三笘による89分の先制点が決まるまでに作ったチャンスらしいチャンスは、ダイレクト3本を含む11本のパスを敵陣でつないでから最後に浅野が狙った62分のシュートシーンと、伊東のパスに抜けた守田のマイナスクロスをニアで南野が合わせた80分のシュートシーンだけだった。

 ちなみに、この試合で記録した敵陣でのくさびの縦パスは計13本(前半6本、後半7本)で、クロス本数は前半13本と後半9本の計22本。ダイレクトパスを3本以上つないで作った連動した攻撃も後半62分の1回だけと、4-3-3に布陣変更してから続いている攻撃面の傾向に大きな変化は見られなかった。

 結局、後半の修正もあり、この試合でもクリーンシートを達成した日本が危なげなく勝利したように見えるが、出入りの激しい展開のなかで何度かピンチにさらされた前半は、いくつかの改善点が存在していたことは押さえておきたい。

三笘起用の時間帯は適切だったか?

 そしてもうひとつ、試合終盤のベンチワークにも気になる点があった。

 この試合は、最終節でベトナムとホームで戦う日本にとって、負けないことが最低ノルマだった。もちろん勝利できればそれ以上のことはないが、0-0のまま時計の針が進むなかで森保一監督が切った交代カードには、少しばかり議論の余地を残した。

 問題は終了間際の84分、体力消耗気味の田中に代えて原口元気を、南野に代えて三笘をピッチに送り込んだ選手交代だ。原口は、攻守両面で中盤にエネルギーを注入する意図が明確だが、三笘の起用からは、あくまでも勝利を目指すという意図がうかがえた。

 逆に、最低ノルマの勝ち点1を確実にしたいなら、左ウイングに旗手怜央や柴崎岳を起用し、もう一度チーム全体に守備意識を高めさせる選択をして然るべきだが、森保監督はそれをしなかった。だとすれば、三笘はもっと早い時間帯で起用すべきではなかったか。

 もちろん、森保監督のなかでは三笘の守備力が向上しているという判断があったのかもしれないが、少なくとも、その後の日本が攻撃的に戦っていたことを見ても、ベンチが勝ちにいくメッセージを送ったと受け止めるのが妥当だろう。

 幸い、三笘が出場約10分間で2ゴールを決めるという神がかり的な仕事をやってのけたので議論の対象にはならなかったが、万が一84分以降に失点を喫していたら、間違いなく中途半端な采配としてクローズアップされただろう。

 W杯本大会では、リスクをかけて勝ち点3をとりにいくのか、勝ち点1を確実に確保したいのか、刻一刻と変わる戦況のなかでシビアなベンチワークが要求される。それだけに、誰もが理解できるメッセージつきの選手交代が肝になる。

 少なくとも、ピッチ上の選手たちにその意図が明確に伝わるベンチワークは、今後のチーム強化を見ていくうえで、注目すべきポイントになる。

(集英社 Web Sportiva 3月28日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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