北朝鮮で「消える家族」が続出、飢えに苦しんだ果てに…
北朝鮮の男性は、学校卒業または兵役満了から、老年保障(年金)を得られるまで、何らかの職場に所属する義務がある。背負子を担ぎ、荷物運びをして手間賃で生計を立てている人も、高級マンションを右から左へ動かして巨万の富を築いている人も、公式には国営企業や行政機関の労働者だ。
北朝鮮の社会の基本は単位(職場)からなり、食糧配給から思想統制に至るまで、すべては職場を通じて行われる。無断欠勤が違法行為とされているのは、そのような統制ができなくなるからだろう。
しかし、現実には上司にワイロを渡して出勤扱いにしてもらい、ほかの仕事をする「8.3ジル」が当たり前のように行われている。何度も取り締まりが行われてきたが、職場がまともな給料も払えず、食糧配給も行えないため、禁止は「餓死しろ」というのも同然だ。だが、それでも取り締まりは行われ続ける。デイリーNKの内部情報筋が伝えた。
北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)のある市民は、何の報告もせずに朝鮮労働党の生活総和(総括)を4回もサボり、1カ月にわたり職場を無断欠勤した。
一般人ならよほど運が悪くなければ大きな問題にはならなかっただろうが、この人は朝鮮労働党の党員だ。通常は生活総和を1回サボっただけでも問題になるのに、4回もサボったことを黙認すれば示しがつかないと上層部は判断、彼には労働鍛錬刑(短期の懲役刑)6カ月の処分が下された。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
かつてはエリート集団だった朝鮮労働党の党員になることは一種のステータスだったが、様々な党生活(党員としての義務)を強いられ、商行為も禁じられ、貧しい生活をしている者が少なくなく、かつてほどの威光はない。
党員以外でも、長期の無断欠勤をする人は増え続けている。それも、表面上は職場との関係を保ち続ける「8.3ジル」ではなく、完全に姿を消してしまうのだ。
極端なゼロコロナ政策が生み出した深刻な経済的苦境が依然として解消しておらず、コロナ対策の緩和でむしろ移動がしやすくなり、住んでいたところを離れる人が増えているのだと、情報筋は説明する。
情報筋によると、ひとつの人民班(20〜40世帯が所属)で、2〜3世帯が長期欠勤をしたり、家族ごとどこかへ行ってしまったりしたという。
「今年の春に、咸興市内のある人民班では3世帯が農村(動員)に行ったまま、未だに帰ってこない。両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)でも、家を留守にして帰ってこない人がいる」(情報筋)
もはや食べるものもなく、現金収入も得られないため家を売り払い、山にこもって畑を耕して暮らす人もいれば、餓死しそうになり、耕せそうな土地を探してあちこちを転々としたりする人もいる。また、借金の返済に行き詰まり、夜逃げする人もいるという。