2020年の総広告費は6兆1594億円…電通推定の広告費動向をさぐる(2021年公開版)
新型コロナで急落する広告費
電通は2021年2月に日本の広告費に関する調査報告書「2020年 日本の広告費」を発表した。それによれば電通推定による2020年の日本の総広告費は前年比11.2%減の6兆1594億円であることが明らかになった。前年比プラスはインターネット広告のプラス1242億円のみで、それ以外はすべてマイナス。プロモーションメディア広告のマイナス5471億円が一番大きなマイナス幅となる。
2020年は3月以降において新型コロナウイルス流行の影響で国内外を問わず人の動きが制限され、経済活動に大きなダメージが生じることになった。広告業界も直接、間接的な影響を受け、広告費は大きく絞られる形となった。総広告費の前年比マイナス11.2%という2ケタ台%の下げ方は、記録が確認できる1986年以降においては、リーマンショックで生じた2009年のマイナス11.5%に次ぐ下げ幅である。
媒体別ではデジタルへのシフトが進み、広告宣伝費の影響を大きく受けた雑誌のマイナス27.0%、イベントそのものが無くなることも多かったプロモーションメディア広告のマイナス24.6%の下げ幅が目立つ。他方インターネット広告は新型コロナウイルス流行の影響によるダメージも少なく、回復も早く(博報堂や経済産業省の特定サービス産業動態統計調査での月次広告費動向で確認できる)、さらにテレビや雑誌など他媒体からのシフトも進み、媒体別では唯一のプラスとなった。
2019年ですでに表れていたインターネット広告の一人勝ち的構造が、新型コロナウイルス流行という特殊環境下で、さらに加速した感は否めない。
1985年以降の動向確認
今資料では1985年以降の主要媒体別の広告費一覧(あくまでも電通の推定によるものだが)も掲載されている。その値をグラフ化したのが次の図。なお2014年分から既存の地上波テレビと衛星メディアが統合されテレビメディアとして扱われることになったため、過去の値も再計算した上で反映させている。
計測基準の変更により、2004年と2005年との間では厳密には連続性は無い(雑誌、インターネット広告、プロモーションメディア広告の3項目で差異が生じ得る)。特にプロモーションメディア広告では変更年前後に大きな差異が生じている。突然、該当広告部門に大規模な変化が生じたわけではないので注意が必要。
中長期の動向をグラフ化すると、(連続性を欠いた部分は別にしても)オーソドックスなプロモーションメディア広告はそれなりに順調な伸びを示していたが、2007年の金融危機勃発以降は下降傾向にあったことが分かる。そして今世紀に入ってから順調に成長を見せているのはインターネット広告のみとなる。テレビメディアは横ばいの動きに見えるし、プロモーションメディア広告は緩やかな下落の動きを示している。
伸び悩んでいる媒体に共通しているのは、1990年代後半(媒体によっては前半)にピークを迎えたあと(広告費の)成長が止まっており、 2002年から2003年あたりから下げ基調を見せていること。この下げ基調の時期は携帯電話やインターネットの普及など、新メディアが世間一般に浸透し始めた時期と一致する。利用者のメディア移行に伴い、広告出稿側も注力・広告費配分のバランス調整を行い、その結果が出たと見るのが無難ではある。
「広告費全体が削られているから4マス、既存メディアの広告費も減っている」との主張がある。しかしそれはさほど筋が通らない。発表資料には総広告費も掲載されており、それによれば総広告費は名目GDPの伸びにほぼ連動する形(起伏率は名目GDPより総広告費の方が大きい)で上昇。1985年と比べると2020年のそれは約1.76倍の増加を示している。
また、この数年の動きをよく見直すと、冒頭でも言及している通り、新メディアの伸長に伴い、広告を出稿する側の企業による各広告メディアに対するバランス調整が行われているのが確認できる。詳しくは別の機会に譲ることにするが、新メディアとして成長を続けるメディアと、相対的・絶対的広告力が漸減するメディアとの間で、各企業による広告費のウェイトが明らかに変化しつつある(経済産業省の特定サービス産業動態統計調査からもその動きは確認できる)。昨今の金融危機や震災、そして新型コロナウイルス流行もまた、それらの動きを加速する一つの出来事に過ぎないと考えれば、この動きも容易に理解できよう。
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