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雪上でこそ分かる、「スバルらしさ」

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

冬になると自動車メーカーの多くが、メディアやジャーナリスト向けに雪上試乗会を開催する。普段はなかなか体感できない雪や氷の上での性能を試してもらうことが狙いだ。今年はすでに三菱やレクサスが雪上試乗会を開催し、この後にはホンダや横浜ゴムも試乗会を予定している。そうした中にあって今週、スバルの雪上試乗会が開催された。

スバルといえばAWD(オールホイールドライブ=4輪駆動)をコア技術とする自動車メーカーだけに、雪上および氷上は他メーカーよりも得意とするフィールドだ。しかし雪上試乗会を開催するのは実に8年ぶりだという。

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「我々にとってはAWDであることが当たり前なだけに、意識して訴求をしてこなかった」と、スバル技術本部車両研究実験第一部長の藤貫哲郎氏はいう。

事実、現在のスバルの生産に占めるAWD車の割合は実に94%にも達しており、残り5%がRWD(後輪駆動)、そして1%がFWD(前輪駆動)という、AWDオリエンテッドなブランドだ。それだけにAWDであることは当たり前のことになっており、その性能が求められる雪上や氷上での性能に関しても高いレベルを維持して当然という、スバルというブランドらしい実直さが、外に向けて声を大にすることを忘れさせたのだろう。

今回、改めて雪上や氷上で走らせると、スバルのAWD車ならではの良さを確かに実感する。

現在スバルには、プロダクトに最適なAWDシステムが4種類用意されており、キャラクターに応じて使い分けがなされている。そうしたシステムを雪上や氷上で試してわかるのは、長年に渡って培ってきた技術と、それを制御する思想や哲学までもが反映されているということ。

例えば最近では、他のブランドでもAWD車が多く用意されており、路面状況や走行状況に応じて電子制御で駆動力を可変させ配分する技術が数多く存在している。そうした中にあってスバルのAWDは、電子制御による駆動力配分を可変させる技術なども当然搭載しているものの、長年の研究から導き出された思想や哲学を下敷きにした技術を盛り込んでいる。

それは簡単にいえば、「制御しすぎない」という逆転の発想だ。例えば路面や走行状況に応じてきめ細やかに制御を行おうとする意思は崇高だ。が、路面や走行状況というのはリアルワールドにおいては刻々と変化していき、結果きめ細やかな制御が追いつかなくなる可能性もある。またはあるシーンに対して最適な制御ができても、その直後に訪れる異なるシーンに制御が最適化されない場合もあるし、そうなった場合ドライバーはクルマの動きに違和感を覚えたりもする。

そうしたことを見越して、大枠で最適な制御を行えるように考えると「制御しすぎない」ことが活きてくる。もっともそれは藤貫氏いわく、「これまで長年の研究と実験の中で、我々も実際にきめ細やかな制御に挑戦してきたからこその判断でもあります」という。そう、AWDを得意とするブランドだけにAWDに関する研究や実験は、他のブランドを凌ぐ数だけでなく、方法論や内容で行われてきており、そうした様々を経た上での答えが今のスバルのAWD技術を支えている。

「世の中的には、スバルのAWDシステムは新しい技術が入っているというイメージは薄いかもしれません。が、実際に毎年毎年、細かな部分を改良したり、制御も常にアップデートしています」と、藤貫氏はいう。

実際に走らせてみると、スバルのAWDは他のブランドのAWDと比べても、そうした知見の深さを感じる制御であると分かる。ひと言でそれは、ドライバーに違和感を覚えさせない「自然な」制御である。それだけに、走らせた時のフィーリングをも邪魔せず、走りの楽しさや気持ちよさを存分に感じられるAWDとなっている。

ブランドによって、AWDによって、そんなに違うものなのか? と思う方も多いだろう。が、実際に比べてみると、雪道などで操作に対して意のままに動いてくれないAWDが搭載されるクルマもある。そしてこうした部分こそが、いざという時にクルマから感じる安心や安全につながっている。雪道の上でスバルのクルマを走らせていると、AWDの老舗ならではの「安心と楽しさ」が実現されていることに気付き、クルマが不安定になりがちな雪や氷の上でもリラックスしてドライビングできるのだ。

「スバルのAWDには、新しい武器や必殺技のような分かりやすさはありません。しかし長年渡って培ってきたAWDだからこその信頼性や安心感といった良さがあると思います」と藤貫氏は言う。長きに渡って築きあげた価値ある、そして信頼できる技術を持ちながらも、あくまで真摯で慎ましくあり続ける辺りに、スバルというブランドの「らしさ」を感じずにはいられない。

今回はスバルのAWD性能を試すために会場を訪れたのだが、結局はAWDを始めとした独自の技術を支える「ブランドとしての心持ち」に、強く共感を覚えた試乗会だった。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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