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対岸の火事ではない!今こそ野球協約のあるべき姿を考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBと選手会は常に協議を重ねながら両者が納得できる解決策を見出してきた(写真:ロイター/アフロ)

大谷翔平選手のMLB移籍に絡み、にわかに注目を集めることになったMLBの労働協約(メディアによっては労使協定と表現)だ。スポーツ紙などでは協約に関する解説記事も扱っていたので、日本でもその仕組みが幅広く認知されることになった。

念のため説明しておくと、協約の有効期間は基本的に5年で、失効前にMLBと選手会が変更点などを含め新協約を協議していく。これはMLBに限らず、選手会がある米国プロスポーツはすべて同様のシステムを確立しており、時にはロックアウトやストライキを経ながら、両者が共存できる道を模索している。

今回は大谷選手の契約に絡んで、外国人選手の契約関連条項だけが取り沙汰されてきたが、今度の新協約合意により、それ以外にもクラブハウス内での食事を含めた環境改善、薬物検査のシステム変更、海外試合実施における選手の待遇面の見直し、試合日程の変更、ドラフト制度の一部変更など、様々な分野で改定されている。いうまでもなくMLBと選手会による真剣な労使交渉の結果だ。

こうして外国の労働協約に関心が高まった今、日本の状況も考えみるべきだろう。NPBにも選手契約の手続き等を定めた「日本プロフェッショナル野球協約(以下、野球協約)」が存在する。現在もこの野球協約を根幹としてNPBは運営されている。

だがMLBとは違い、野球協約の改定には一切選手会が関与していないのだ。1951年に発効した野球協約に対し、選手会が組織されたのは1980年。すでに野球協約の仕組みが確立されていたとはいえ、選手会が誕生して30年以上経過しているのに、今も野球協約の改定に参加できないのはおかしな話だ。一般企業でいえば、労働組合不在のまま経営側だけで労使交渉をやっているようなものだ。

今回野球協定について調べていて初めて知ったのだが、野球協約の有効期間は1年で、毎年何らかの改定が行われている。実は2000年度版以降の野球協約とその年の変更箇所について、選手会の公式サイトで閲覧することができる。一応毎年の変更箇所をチェックしてみたのだが、2009年度に大幅な改定が見られた程度で、基本的には名称変更や解釈変更のみという印象が強い。

しかも野球協約から派生した「フリーエージェント規約」は2009年度に登場以降まったく改定されていないし、ドラフト制に関する「新人選手選択会議規約」も2010年度を最後に改定されていない。繰り返しになってしまうがMLBと選手会が5年ごとに労働協約について討議しているのは、経済状況などの時代背景に合わせ、お互いが最も有益な方策を導き出すためだ。どうしても定期的な見直しが必要になってくる。

それを踏まえた上で、現在の野球協約は現代社会にフィットしているのだろうか?

個人的にはプロ野球を面白くする方法はまだまだたくさんあると思っている。例えばFAの人的補償はプロテクト以外の選手に留めるのではなく、翌年のドラフト指名権も加えるべきだし、ドラフト指名権をトレード対象にしてもいいだろう。

またプロ野球志望届を提出した選手を対象に、12球団合同のショーケースを実施するべきだろう。もちろん参加選手はフィジカルチェックを義務づけられ、各球団はドラフト前に様々なデータを入手できることになる。

さらに3軍制度のないチームが育成選手に均等な出場機会を与えるため、独立リーグや台湾などの外国リーグと業務提携しながら積極的な選手派遣も実施していくべきだろう。

あくまでこれらは私案でしかない。だが選手会の方が自分たちの立場から球界を良くしたいという思い、考えに溢れているはずだ。

NPBが前に進んでいくためにも選手会の意見は絶対不可欠だ。いまこそ野球協約をあるべき姿に変えていくべき時だろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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