北朝鮮の「児童性虐待」、救われぬ現実
北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信が9日、日本社会で児童に対する性的虐待が増えているとして、日本は子供の保護のための制度的取り組みに背を向けた「人権蹂躙国家」だ、とこき下ろす論評を配信した。
この論評はどうやら、「日本の女子生徒の13%が援助交際に関わっている」と発言して物議をかもしたマオド・ド・ブーアブキッキオ国連特別報告者の会見を受けて書かれたもののようだ(同報告者は発言を事実上撤回)。
論評の内容は、2012年に大阪府警の巡査長(当時)が海水浴場で知り合った少女に酒を飲ませて乱暴した準強姦事件(その後、不起訴)や、子どもに対する性的虐待が急増しているとする警察庁のデータに言及。「不倫・背徳がはびこる世紀末的な国である人権蹂躙(じゅうりん)国の日本でのみ起こりうる特大型の反人倫的犯罪」であるなどとしている。
児童に対する性的虐待は、それが存在すること自体が憎悪の対象となるべきものだ。どの国で、どのような状況で起きているかということは、状況の改善に取り組む当事者にとってのみ重要なことであり、外部からとやかく論評する性質のものではない。
しかしここで敢えて、「北朝鮮はどうなのか」ということに言及しようと思う。北朝鮮では体制と社会の閉鎖性のせいで、被害者による告発はおろか、第三者による状況把握すらろくになされていない。だから、せめてこうした機会に問題の存在を指摘しておくことは、意味のないことではないと考える。
北朝鮮にも、児童を狙った性犯罪は存在する。
脱北者たちの証言を信じるなら「横行」していると言った方が良いくらいだが、それを客観的に裏付けるデータは今のところみつからない。
調べる手だても少ない。個々の脱北者からの聞き取りがほとんど唯一の手段で、デイリーNKでも過去に何度か報じた。参考として、文末にリンクを掲げておく。
北朝鮮の国家はこのような状況と、どのように向き合っているのか。
北朝鮮の刑法には、未成年者との性行為に対する刑罰が定められている。刑法第295条「未成年性交罪」には「15歳未満の未成年との性行為は懲役5年以下の労働教化刑に処す。同類の前科のある者は5年以上、10年以下の労働教化刑に処す」と明記されている。
これについて、ソウル大学のイ・ヒョウォン教授はデイリーNKとの電話インタビューで「社会現象を反映する刑法の特性上、罰則規定がある事から、北では未成年性犯罪が頻繁に起きていると考えられる」と話した。
ちなみに、犯人が公開処刑された事例もあるようだが、その件では被害児童が殺害されていた。
上記のように、北朝鮮においても児童を性の対象とすることは違法である。しかし、恐らくそれだけだ。下記の参考記事のように、事件が発覚すれば捜査と処罰が行われるが、男性中心の社会的雰囲気の中で声を上げることもできない被害児童へのケアなど、行政的な取り組みとしては存在しないだろう。
ちなみに冒頭の朝鮮中央通信の論評は、日本政府が北朝鮮の人権侵害を追及する国連決議案の作成に関わっているため、けん制球のつもりで投げつけられたものだ。であれば、日本政府はそれをいったん受け止め、「剛速球」で投げ返してほしい。
国連の場で、北朝鮮の児童の人権状況が重要な問題として扱われ、国際社会の注目が集まることを望む。
※参考記事