【杉並区】開店から半年にして荻窪の呑兵衛たちを唸らせた!期待の新星と称される日本酒酒場とは?
酒と肴 ててて
荻窪駅南口より線路沿いを阿佐ヶ谷方向に2分ほど歩くと、軒先に小振りな杉玉が見えてくる。
紛う事なき日本酒を供する店構えに安堵して暖簾を潜ると、まだ開店してから半年ほどと聞いていたのだが、すでに何年も前からこの場所で営んでいる老舗であるかのような錯覚に陥ってしまった。
店内の手前側には横一文字のカウンターに8席、奥には4人掛けのテーブルが2つ設えられ、濃茶調の木の色合いに抑え気味の照明を当てつつ、和の雰囲気を醸し出している。
オープンしたのは2023年5月27日と、本当にまだ半年ほど前だ。
ちなみに、以前この場所は『虎林(こりん)』という34年間続いた老舗の中華料理店で、『酒と肴 ててて』に改装するにあたり、敢えて前の店の建材をそのまま残した箇所もあるのだそう。
それは、店主の中田浩司さんと妻の女将・成美さんが夫婦二人三脚で営む店へのこだわりの、ほんの序章に過ぎなかった。
まずは気になる店名だが、「造り”手”、飲み”手”、伝え”手”」の3つの”手”が由来なのだそう。
かつて広島『竹鶴酒造』の名杜氏として名を馳せ、3年ほど前に茨城『月の井酒造店』に移籍した石川達也さんと知人を介して縁が生まれ、名付け親になってもらったのだとか。
最初はどこか戯けたように感じた「ててて」の3文字には、日本酒をこよなく愛する三位一体の魂が宿っているのだ。
肴の品書きには酒呑みの正鵠を射た品々が並ぶ。その数は決して多くはないものの、店主が独り厨房で賄うには程良い品数だと言えよう。
中野や荻窪の日本酒酒場で磨いた店主の腕前も確かで、どの料理も丁寧に供されてこの上無しに旨い。
秋田市出身の女将の実家から送られて来る「あきたこまち」も捨てがたい。〆の親子丼や塩むすび、店主の打つ蕎麦も魅力的なのだが、例によって酔街草はなかなか〆まで到達できない酒癖があるため、横目で眺めつつ捲土重来を期する事にする。
独りカウンターで呑むなら「おひとり様限定 酒肴盛り」(1200円)がお勧めだ。
これぞ酒肴たる日替わりの小鉢が5つ、秋田・大館の「曲げわっぱ」の丸盆に載せられて賑々しく登場する。
もちろん、「造り」(一人前3種1050円、5種1750円)も欠かせない。
この日の3種盛りは、鰹、鯵、フエフキ鯛。魚介類は豊洲のみならず、秋田県の西目漁港からも取り寄せているそうだ。
酔街草の好物である「鯵フライ」(時価)に遭遇すると思わず小躍したくなる。店によってタルタルソースに違いがあるのが面白く、酸味役の隠し素材がなんとも興味深い。
『ててて』では、普段は「ぬか漬け」を刻んで入れるそうだが、この日は自家製の「らっきょう」を入れてみたとの事。これまた日本酒との相性は抜群だ!
日本酒(グラス550円〜、一合1000円〜)は、常時50種ほど用意されている。秋田の『春霞』は、女将が一推しの銘酒。
メニューには載っていない時節の銘柄もあるので、女将に遠慮なく尋ねてみよう。
燗酒(一合900円〜)もツボを押さえたラインナップ。女将の燗のつけ加減も絶妙で、肴との相性を”是ぞ!”とばかり引き立たせる。
ぜひ、燗酒の妙も楽しんでいただきたい。
ビールは「赤星 中瓶」(700円)と「ハートランド 小瓶」(600円)。生ビールは置かないという潔さも良し。
このラインナップを見れば、日本酒を至上と仰ぎながらも、酒場としての矜持を保つ姿勢に感服せざるを得ないはず。
酒器にもこだわりが見える。徳利は、京都の鴨川のほとりにある小さな酒器工房『今宵堂』の「白瓷燗徳利」(正一合)を使用。
実は、この徳利の本数を揃えるまで開店を遅らせたという噂もあるのだが・・・。
”栴檀は双葉より芳し”とは、まさにこの店のためにあるような諺ではあるまいか。
開店して半年ほどながら、このまま10年、20年と続いて行けば、間違いなく老舗酒場の仲間入りとなる予感がする。
時には気さくな若夫婦との会話を楽しみながら、美味い日本酒と料理に舌鼓を打つ。日本酒ビギナーや女性独りでも安心して通える店として、注目しておいて欲しい。
さてさて、今宵も大満足、ご馳走様!