サッカーは誰のもの? 欧州にスーパーリーグ レアルやバルサ、マンUが参加表明も「金の亡者」と批判殺到
バイエルンやパリ・サンジェルマンは参加せず
[ロンドン発]欧州の伝統スポーツ、サッカーはアメリカの強欲資本主義にのみ込まれてしまうのでしょうか。UEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグの改革案が話し合われる24時間前に、欧州の主要12クラブが参加して18日、スーパーリーグ(20クラブを予定)の発足を発表しました。
スーパーリーグの創設メンバーにはドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムント、フランスのパリ・サンジェルマンは入っていませんでした。参加した12クラブは次の通りです。
【英プレミアリーグ】リバプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム・ホットスパー、アーセナル、チェルシー
【スペインのラ・リーガ】レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード
【伊セリアA】ACミラン、インテル・ミラノ、ユベントス
さらに3クラブが創設メンバーに加わり、5クラブが毎年資格を得て参加。それぞれの国内リーグの試合を優先して、スーパーリーグの試合は週の半ばに開催されるそうです。来年8月に開幕し、20クラブが2つのグループに分かれてホーム・アンド・アウェー形式で試合を行います。
各グループの上位3クラブと、4位と5位によるプレーオフの勝者計8クラブが決勝トーナメントに進出。翌年5月末に決勝戦を行います。できるだけ速やかに女子リーグも発足させます。創設メンバーの15クラブに対してはコロナ危機による減収を補い、インフラ支援のため35億ユーロ(約4557億円)が提供されます。
米投資銀行JPモルガンが資金提供
35億ユーロは米投資銀行JPモルガンが提供すると英メディアは報じています。参加したクラブには最初のコミットメント期間中だけで総額100億ユーロ(約1兆3019億円)を超える巨額マネーが支払われます。
レアル・マドリード会長でスーパーリーグ初代会長フロレンティーノ・ペレス氏「サッカーは40億人以上のファンを抱えるグローバルスポーツであり、大きなクラブとしての私たちの責任は彼らの要望に応えることだ」
ユベントス会長でスーパーリーグ副会長アンドレア・アニェッリ氏「私たち12クラブは世界中に何十億人ものファンと99個の欧州のトロフィーを手にしている。欧州の競争を変革し、私たちが愛するゲームを長期的な将来にわたって持続可能な基盤に置き、大幅に連帯を強める」
マンU共同会長でスーパーリーグ副会長ジョエル・グレーザー氏「シーズンを通して世界最高のクラブと選手を集めてプレーすることで、スーパーリーグは欧州のサッカーの新しい章を開く。世界クラスの競争と施設を確保し、より広いサッカーピラミッドへの財政的支援を増やす」
コロナ危機で債務を膨らませたクラブの台所事情
コロナ危機で大半の試合が無観客で行われたため、スーパーリーグの創設メンバーに参加したクラブは巨額の純債務を抱えています。
トッテナム・ホットスパー 5億9180万ポンド(約895億円)
マンU 4億5270万ポンド(約685億円)
ユベントス 3億3670万ポンド(約509億円)
インテル・ミラノ 2億7860万ポンド(約421億円)
バルセロナ 2億7420万ポンド(約415億円)
レアル・マドリード 1億4680万ポンド(約222億円)
アトレティコ・マドリード 9590万ポンド(約145億円)
ACミラン 8970万ポンド(約136億円)
アーセナル 6630万ポンド(約100億円)
マンC 4480万ポンド(約68億円)
(KPMGフットボール・ベンチマーク、昨年6月時点)
クラブ経営はスタジアム建設や一流選手の獲得に膨大なカネがかかります。チャンピオンズリーグは32クラブがグループステージを戦います。放映権料が32クラブに配分されるため、視聴率が稼げるトップクラブには不満が溜まっていました。これがコロナ危機による債務増加で一気に爆発してしまったかたちです。
英プレミアリーグの放送権料は、50%は均等に、残りの50%は放送回数や順位に応じて分配されます。スポンサーシップの広告や海外の放送権料は均等に分けられています。このため下位クラブでも良い選手を補強できるため、順位の入れ替わりが激しくなっています。
2017/18年シーズンの優勝クラブと最下位クラブの放送権料収入の格差を比べると、英プレミアリーグは2.18倍、スペインのラ・リーガは6倍、伊セリアAは9.09倍です(KPMGフットボール・ベンチマーク)。リーグを活性化させるためには英プレミアリーグのようにある程度、均等に分配した方が良いのです。
英プレミアリーグからUEFAチャンピオンズリーグに出場できるのは基本的に上位4クラブのみ。チェルシーやリバプール、トッテナム・ホットスパー、アーセナルは圏外です。アーセナルはとても強豪とは言えません。15クラブを固定するスーパーリーグでは健全な競争を期待できないでしょう。
「サッカーの夢を奪うな」批判殺到
スーパーリーグは利害が衝突するUEFAやFIFA(国際サッカー連盟)だけでなく、選手やサポーター、政治指導者からも「強欲な金儲けのためにサッカーの夢を奪うな」と総スカンです。
ボリス・ジョンソン英首相「スーパーリーグの計画はサッカーにダメージを与える。優れたグローバルブランドになったクラブも歴史的には地域社会から生まれた。スーパーリーグ計画が現在提案されている方法で進まないことを確実にするため、サッカー当局と私たちができるすべてのことを検討する」
エマニュエル・マクロン仏大統領「フランスは既存の大会を守るためサッカー当局がとるすべてのステップを支持する」
元ポルトガル代表のMFルイス・フィーゴ氏「この貪欲で冷酷な動きは、私たちの草の根、女子サッカー、より広いサッカーコミュニティーにとって惨事になる。ずっと前からサポーターのことを気にかけなくなった利己的なオーナーのためにだけ利する企みだ。スポーツのメリットを完全に無視している。悲劇だ」
パリ・サンジェルマンで元マンUのMFアンデル・エレーラ選手「スーパーリーグ計画が進むと、夢は終わる。私はサッカーが大好きで、沈黙を守ることはできない。改善されたチャンピオンズリーグは信じられても、人々が作り上げたものを金持ちが盗むことは信じない」
スーパーリーグに参加した選手はワールドカップに出場できないと圧力
FIFAやUEFAは対抗措置として、スーパーリーグに参加した選手はワールドカップや国際大会、欧州大会に代表選手として出場することや国内リーグでプレーすることを拒否される可能性があると圧力をかけています。スーパーリーグも一歩も譲らず、欧州の裁判所で訴訟手続きを進め、正面突破する構えです。
それでなくても欧州のサッカーリーグは日程が過密で、UEFAチャンピオンズリーグとスーパーリーグの共存は不可能です。リバプールもマンUもアーセナルもアメリカ資本。JPモルガンが巨額資金を提供していることからも分かるように今回、アメリカ資本が裏で糸を引いているのは間違いないようです。
英イングランドのサッカー競技人口は約200万人で、プレミアリーグをトップに20レベルのピラミッドが構築されています。サポーターは実際にスタジアムに足を運んで試合前後はビールを飲んでサッカー談義に花を咲かせます。
夜は英BBC放送のサッカー番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」を見て翌朝は新聞でサッカーの記事を読み漁ります。
プレミアリーグで最も高いアーセナルのシーズンチケットは2013ポンド(約30万4400円)。サッカーの試合を視聴できる有料チャンネルの代金も合計で月60ポンド(約9千円)近くします。
スーパーリーグの放送権にFacebook(フェイスブック)やディズニーも触手を伸ばしていると報じられており、有料チャンネルの代金がさらにかさむ恐れもあります。これを強欲資本主義と呼ばずして何と呼べば良いのでしょう。反スーパーリーグの一揆が起きないか心配です。
ドイツのブンデスリーガのように投資家が持てるクラブの権利を49%に抑えて、51%はサポーターが持つような仕組みが必要なのかもしれません。
(おわり)