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日本人ストライカーは九州から生まれる? 高木、城、大久保、大迫・・・。

小宮良之スポーツライター・小説家
選手権を沸かせた長崎のFW安藤(写真:アフロスポーツ)

 第96回全国高校サッカー選手権大会。1月8日の決勝戦は、千葉県代表の流通経済大柏と群馬県代表の前橋育英のカードが組まれている。どちらも順当な勝ち上がりだろう。

 しかし大会で異彩を放ったのは、長崎総科大附のFW安藤瑞季かもしれない。前年度王者の青森山田戦で見せたゴールは圧巻だった。マークをはずしてギャップでパスを受けると、すべるようなターンから前を向き、ボールをつつくドリブルで敵陣に近づき、強度と精度十分のミドルシュートを豪快に叩き込んでいる。

 安藤のゴールには、豪放磊落さが滲む。すでにJ1セレッソ大阪へ入団が内定。高校生ナンバー1ストライカーと言ってもいいだろう。

 またも、九州から優れたストライカーが出てきたか――。

ケモノ感のあるプレー

 九州出身のストライカーは体躯に恵まれ、足腰の強さがある。大陸の選手に近いシルエットで、骨格的に頑健。基本的に運動能力が高く、コンタクトプレーでアドバンテージがある。ボールに対する当て勘にも優れ、ヘディング、ボレー、ミドルシュートなどディフェンダーともつれあいながらも、球体の芯を捉えられる。

 一言で言えば、ケモノ感がある。

 風土も関係しているのか、性格的に野放図で、あっけらかんとしたところがある。失敗を忘れられるだけに、次のチャンスで気持ちが委縮しない。覚悟を決めて勝負に挑むのだが、それは克己心のようなストイシズムではなく、ひたすら目の前の相手に勝つか負けるか、というゲームのようにも映る。そのゲームという感覚が独特で、遊びとも訳せるが、博打のようでもある。

 体格的にも、性格的にも、ストライカーに適しているのだろう。

歴代の日本代表にも九州のFWが

 歴代の日本代表を振り返っても、九州出身FWの名前が並ぶ。90年代前半は高木琢也(長崎)、90年代後半は城彰二(中学から鹿児島)、2000年代は久保竜彦、大久保嘉人(ともに福岡)、巻誠一郎(熊本)、そして大迫勇也(鹿児島)。ほとんど欠かさず、代表の主力には九州育ちのFWがいた。久保裕也も山口出身で、文化圏としては九州に近いだろうか。

 Jリーグを見渡しても、その数は少なくない。興梠慎三(浦和レッズ)、渡邊千真(ヴィッセル神戸)、永井謙佑(FC東京)、田川亨介(サガン鳥栖)、平山相太(ベガルタ仙台)。いずれも、九州で生まれ育ったFWたちである。

 中でも最大の成功者は、2度のワールドカップに出場し、Jリーグで3度得点王を受賞、さらにJ1歴代最多得点記録を更新する大久保だろうか。

鬼に見えた大久保

「オレは30才になったら、サッカー選手やっていないと思う。そんなん無理」

 22才の頃の大久保を密着取材していたとき、彼はそう言って笑っていた。勝負に対して100%で挑む。それを実行していた大久保にとって、次を考える余裕はなかったのだろう。図らずも、サッカー選手としての死生観を持っていた。

 スペインでのデビュー戦、大久保は相手選手のスパイクの金具で膝を踏みつけられ、皮が破れ、肉が切れ、骨が出たままでもプレー続行を望み、文房具のホチキスで肉と肉をつないで出場を続けている。一戦必勝。死中に活を求めることで、得点は生まれた。

 ピッチに出るときの大久保はツノをむき出しにした鬼にも見え、やんちゃを通り越して悪鬼羅刹だった。試合中、デイビッド・ベッカムに放送禁止用語で口汚く罵声を浴びせ、鼻白まれたこともある。褒められない言動だったかもしれないが、眩しいほどに本能的で純粋だった。

九州サッカーの伝統

 大久保ほど激情を露わにする選手は多くはない。しかし、九州出身ストライカーはどこか腹を括っている。それは真面目さ、責任感という説明よりも、勝負師の度胸と言えるか。あるいは、なにひとつ考えていないようにも映るのだが、足下に入ったボールをネットに叩き込む、という熱量は圧倒的に多い。剽悍に、怯まず、直感のまま力を出し尽くせる。

 そういうストライカーたちを旗頭に、国見や鹿児島実業が日本高校サッカーの歴史に名を残したのは必然なのだろう。

「蹴るだけのサッカー」

 言われなき批判を受けたこともあったが、前線のストライカーが蹴ったボールを収め、ネットに打ち込む。それが戦術軸だった。合わせて、早く強いクロスボールを放り込むような選手やサイドを崩せるドリブラーも育っていったが、中盤のパサー、プレーメーカーはほとんど大成していない。

 日本全体でつなぐことが正義とされる中、これは瞠目に値する。

日本らしいサッカーの限界

「日本らしいサッカー」

 それを追い求める流れがあるが、はたしてそれは正解なのだろうか。

 例えばスペインは複合民族国家で、マドリード、バスク、カタルーニャ、アンダルシアだけを比較しても、各州ではサッカー観がまったく異なる。様々な地域文化の選手が融合することで、強固なチームが生まれている。それぞれの力を結集することで、ようやく世界に伍する戦いができるはずだ。

 その点、やはり九州のストライカーは注目だろう。

 セレッソを率いるユン・ジョンファン監督はストライカーを覚醒させるスペシャリストである。不調に喘いでいた豊田陽平、杉本健勇を見事に復活、成長させた。長崎出身、山村和也のFWとしてのポテンシャルまで見いだしている。

 高校生ルーキー、安藤がセレッソで羽ばたけるのか――。それは案外、今後の日本サッカーの未来を占うのかも知れない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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