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マエケンはが目指すのはメジャー「移籍」であって「挑戦」ではない 

豊浦彰太郎Baseball Writer
初年度から中心選手としての活躍が求められる前田に「挑戦」という表現は適切ではない(写真:ロイター/アフロ)

広島球団は前田健太投手のポスティング要望を受け入れたようだ。早速スポーツメディアに「マエケン、メジャー挑戦」という見出しが躍っている。しかし、この表現は不適切だと思う。

今回の前田のケースも含め、日本人選手がメジャーを志す場合、本人もメディアも「挑戦」と表現することが多い。「挑戦」には格下の世界に身を置く選手がより上位のリーグで「自らの力を試してみたい」とするニュアンスが強く含まれている。日本人的な謙虚な表現だ。

しかし、前田のようなスターの場合、首尾よく移籍が成立した後は初年度からローテーション投手としてそれなりに活躍することが求められている。また、年俸もいくらになるかは現時点では不明だが、今季の3億円の数倍になる可能性が高い。これでも「挑戦」だろうか。

たしかに以前はメジャーを目指すことは「挑戦」だった。野茂英雄の場合はもちろん、2000年オフにイチローがポスティング移籍を表明した際ですら、ここまでの大活躍を予想した専門家は少なかった。

金銭面でもそうだった。佐々木主浩は横浜での最終年の1999年には5億円の年俸を得ていたが、マリナーズでの初年度は400万ドル(当時の為替レートで約4億円)だった。イチローと同時期にメッツへFA移籍した新庄剛志は、年俸が3億円から50万ドルへとほぼ1/6に激減した。

彼らにとって、メジャーでプレーすることはNPBでの閉塞状態からの脱出であり、最もレベルの高いリーグでプレーしたいという、アスリートにとってごく自然な自己実現だった。そのためには、一時的に年俸が大きく低下することも辞さなかった。やはり「挑戦」だったのだ。

しかし、その後のイチローや松井秀喜、ダルビッシュ有、田中将大らの活躍で状況は大きく変わった。最初から途方もないサラリーを手にするケースも珍しくなくなった。いつしか実態は「挑戦」から「移籍」に変化していた。

昨年オフ、阪神からFAとなった鳥谷敬はメジャー「挑戦」を表明しつつも、満足できるオファーがなく最後は阪神と5年20億円で再契約した。このことなどは、鳥谷が目指したのは、メジャーへの「移籍」だったことの証明だ。2010年のオフにポスティングに掛けられアスレチックスが独占交渉権を得た当時楽天の岩隈久志も契約が成立せず破談となったが、これも同様だろう。

メディアはもっと語彙を増やすべきだ。いつまでもステレオタイプに「メジャーを目指す」=「挑戦」という手垢のついた表現を用いることから脱却せねばならない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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