ソニーがカメラ搭載衛星の開発を始動「宇宙エンタメ」映像を映画やMV制作にも
2020年8月5日、ソニー、東京大学、JAXAは共同でソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星の共同開発を開始すると発表した。数年以内の宇宙実証を目指し、クリエイターが地上から衛星を操作して自由視点の映像を取得できるシステムを構築する。将来は、ソニーの持つ映画、アニメ、音楽などのコンテンツ事業に映像を活用することも視野に入っている。
ソニー、東大、JAXAの提携は、JAXAが進める「JAXA 宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」プログラムに基づくもの。ソニーは「ミッション機器」と呼ばれる人工衛星の主要な機能の開発とシステム構築を担当する。ミッション機器にはソニー製カメラが採用され、リアルタイムで遠隔操作可能な人工衛星システム、及びユーザー操作システムなどの技術実証を目指す。
ソニー製カメラ搭載衛星は、地上から遠隔操作して宇宙空間の撮影を可能にする。特徴的なのは、クリエイターを主要なユーザーとして想定している点だ。ソニーが持つ映画、アニメ、音楽など多様なコンテンツ事業と連携することを目指しており、「ミュージックビデオへの活用、バーチャルライブの開催など」(ソニー広報部コメント)も将来の用途として考えられるという。
衛星のカメラ部分はソニーの担当だが、構体や電源など衛星を成立させる基本機能のバス部開発には、東京大学が参加する。2014年にJAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」と共に打ち上げられた超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」開発を担った船瀬龍准教授、小泉宏之准教授らの研究室が担当する。
衛星の機能の詳細、宇宙実証の実施時期、目標の軌道などの詳細はまだ公表されていない。だが、PROCYON開発チームの実績から考えれば、衛星は100キログラム以下の超小型衛星、またはキューブサットと呼ばれるさらに小さな衛星で、能動的に姿勢を制御する機構や推進装置(エンジン)を備えたものになる可能性がある。「衛星から捉えた宇宙空間、そして地球の映像」(JAXA発表より)という言葉から、衛星の向きを反転させ、宇宙望遠鏡のように遠い宇宙を捉える、地球に向けて移り変わる地上の様子を撮影するといったことが可能になると考えられる。
ソニー関連の宇宙技術として、2019年に国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」に取り付けられ、今年3月にレーザ光による双方向光通信リンクの確立に成功した光通信装置「SOLISS」がある。現時点では、ソニーによる衛星ミッション機器開発とソニーコンピュータサイエンス研究所による光通信装置開発は異なる事業であり、衛星にSOLISSのような光通信装置を搭載するというものではないという。将来、連携する可能性はあるとのことで、映像のような大容量のデータを高速に送信できる光通信技術の応用先としても期待される。
これまで、地上からユーザーが観測リクエストを送ることができる民間宇宙望遠鏡として、小惑星からの始原採掘を目指した米プラネタリー・リソーシズによる超小型衛星「Arkyd」などの構想があった。しかしArkydは教育目的であり、また運用企業のプラネタリー・リソーシズが資金難から買収された後に事業が進んでいない。また、動画を撮影できる地球観測衛星もあるが、用途は安全保障や研究などが中心となり、撮像リクエストは運用企業や衛星画像販売の代理店を通じて送る場合が多い。クリエイターが自由に「新たな宇宙エンタテインメントの創出」を目指す衛星開発は珍しく、多様なユーザーを確保することが期待できる。