注意すべき手足口病の特徴と対処法 - 皮膚科専門医が詳しく解説
【非定型手足口病とは?特徴的な症状と発症メカニズム】
手足口病は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルス71型などのウイルスが原因で発症する感染症です。典型的な症状として、手のひらや足の裏、口の中に水疱ができることが知られていますが、近年、非定型的な症状を示す「非定型手足口病」が世界的に増加傾向にあります。
非定型手足口病の特徴は、典型的な手足口病とは異なる部位に皮疹ができることです。例えば、顔面、体幹、お尻などに水疱やびらんができることがあります。また、皮疹の形態も多様で、ジアノッティ・クロスティ様発疹、コクサッキーウイルス性湿疹、点状紫斑、水疱性発疹などが報告されています。
非定型手足口病の原因ウイルスとして最も多いのはコクサッキーウイルスA6型(CVA6)です。CVA6は遺伝子の組み換えや変異を起こしやすく、これが非定型的な症状の出現に関与していると考えられています。CVA6による手足口病は、典型例と比べて皮疹がより広範囲に広がりやすく、重症化のリスクも高いため注意が必要です。
【非定型手足口病と鑑別すべき皮膚疾患】
非定型手足口病は、症状が多様であるがゆえに、他の皮膚疾患と間違えられやすいという問題があります。例えば、ジアノッティ・クロスティ症候群、伝染性膿痂疹、水痘、水疱性類天疱瘡などとの鑑別が必要です。
ジアノッティ・クロスティ症候群は、ウイルス感染に伴って生じる皮疹で、非定型手足口病と同様に四肢や顔面に紅斑や丘疹が多発します。しかし、ジアノッティ・クロスティ症候群では口腔内の水疱は少なく、皮疹の分布も非定型手足口病とは異なります。
伝染性膿痂疹は、ブドウ球菌が原因の皮膚感染症で、水疱やびらんを生じます。非定型手足口病との違いは、発熱がないことや、水疱の内容物が化膿しやすいことです。
このように、非定型手足口病と他の皮膚疾患とでは、皮疹の性状や分布、随伴症状に違いがあります。診断には、皮膚症状だけでなく、発熱の有無や経過、ウイルス学的検査などを総合的に判断することが重要です。
【非定型手足口病への対策と治療】
非定型手足口病の予防には、手洗いやマスクの着用などの一般的な感染対策が有効です。また、患者との接触を避け、汚染された場所の消毒を徹底することも大切です。
現時点では、非定型手足口病に対する特異的な治療薬はありません。対症療法が中心となり、発熱に対する解熱剤や、二次感染を防ぐための抗菌薬などが用いられます。皮疹が広範囲に及ぶ場合は、外用ステロイド剤を使用することもありますが、使用にあたっては皮膚科医の指導が必要です。
多くの場合、非定型手足口病は1~2週間で自然に治癒します。しかし、稀に中枢神経系の合併症を起こすこともあるため、症状が遷延する場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
非定型手足口病は、近年増加傾向にある新興感染症であり、皮膚症状が多彩であることから、診断に苦慮することも少なくありません。本稿では、非定型手足口病の特徴と鑑別疾患、対策について解説しました。皮膚に異常が現れた際は、早めに皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
参考文献:
- Chen Y, et al. Vaccines. 2023;11(2):405. https://doi.org/10.3390/vaccines11020405
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