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「5類感染症にしたら全ての医療機関が新型コロナを診るようになる」が生む誤解

倉原優呼吸器内科医
筆者撮影

「5類感染症にしたら全ての医療機関で新型コロナを診るようになる」と言われていますが、少し誤解があるかなと感じます。たしかに「機能上はどこでも診てよい」ことになるのでしょうが、何が誤解なのか詳しく解説したいと思います。

「5類」になっても院内の隔離は必要

まず、「インフルエンザと同程度の重症化率・致死率だから、もう隔離対策の必要がない」という誤解があります。院内の隔離は、新型コロナとインフルエンザのいずれでも必要です。

隔離可能なベッドがないと、「空床がないので受けられない」と救急搬送を断らざるを得ないケースが増えます(図1)。

図1. 地域の中核病院の医療逼迫構造(筆者作成)(イラストは、ピクトアーツ、シルエットイラストより使用)
図1. 地域の中核病院の医療逼迫構造(筆者作成)(イラストは、ピクトアーツ、シルエットイラストより使用)

「過去のインフルエンザシーズンでこんな医療逼迫はなかった」とよく言われますが、インフルエンザの流行は短期間でどうにか乗り切れることが多かったためで、コロナ禍前から「隔離できるベッドがないため入院できない」という現象はありました。

現在の救急医療の逼迫は、新型コロナの1つ1つの波がインフルエンザより長く、また数か月おきにやってくることが1つの要因です。

現在、地域の中核病院のほとんどが新型コロナを受け入れています。何なら、精神科系の病院やがんセンターも自治体に協力の声をあげて、診てくれています。

「5類感染症」にして確保病床の要請をなくせば、物理的に入院で新型コロナを診られるベッド数が減るので、さらに入院難民が増加することが懸念されます。

現在の日本の救急医療と入院医療は、基本的にキャパシティの上限にあると理解いただくほうがよいと思います。

医師1,000人へのアンケート調査

2023年1月11日にCareNetが医師1,017人に実施したアンケート調査によると、実に全体の82.9%の医師がすでに新型コロナを診療しています。

一部の診療科の医師は機能的に新型コロナを診療しないので、納得できる数値です。

新型コロナ診療していない医師へのアンケートでは、「5類感染症」に変更したとしても、3人に2人は「診療できない」と回答しています(図2)。

図2. 「5類感染症」に変更した場合、現在新型コロナを診療していない人の動向(CareNetに転載許諾を得て参考資料1より引用)
図2. 「5類感染症」に変更した場合、現在新型コロナを診療していない人の動向(CareNetに転載許諾を得て参考資料1より引用)

「新型インフルエンザ等感染症」であれば、「診てください」という強い要請ができるかもしれませんが、「5類感染症」にスイッチすると「コロナ病床を確保してください」「発熱外来を開いて新型コロナを診てください」という強い要請を出す法的根拠はなくなります。

「現状診られる中核病院はすでに診ている(診ざるを得ない)」「5類感染症に変更しても現在診療していない医師の3人に2人は診療できない」という2点から、「全ての医療機関が新型コロナを診るようになる」というのは誤解を生みやすい表現かなと思います。

まとめ

医師のアンケートでも中期的に「5類感染症」に移行していく形で賛成が多いですが、一気にやってしまうと弊害が大きい印象です。

そのため、「どの対策を残すのか」という議論が必要です。

国・自治体が連携をとり「形式上は5類感染症だが地域の医療を守る策」を維持する必要があると考えます。

(参考資料)

(1) CareNet(医療者向けサイト):コロナ5類変更に賛成は何割?現在診ていない医師は診られるか(URL:https://www.carenet.com/news/general/carenet/55761)(会員限定ページ)

※1月25日(水)より会員外からもアクセス可能。

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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