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新型コロナが、別の感染症流行の引き金とならないように

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
はしかと風しんの予防接種を受ける男の子。ミャンマーにて。2019年11月(写真:ロイター/アフロ)

先月から厚生労働省は、「遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診」と題して、予定されている予防接種を必要な時期に子どもに受けさせるよう呼びかけを続けている。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行が続くなかで受診を控える動きが続いているが、予防接種が遅れると免疫がつくのが遅れてしまい、重い感染症になるリスクが高まる。厚生労働省や関係機関は不安を覚える保護者に次のように対策を説明しながら、接種は「不要不急」ではなく、受けそびれてしまった場合も含め、速やかに接種を受けるよう働きかけている。

  • 医療機関や健診会場は感染防止対策を実施中
  • 予防接種はできるだけ事前に予約し、機関によっては一般の受診患者と別の時間や場所で受けられる場合もある
  • 受診の前には利用者も体温測定など体調に問題がないことを確認し、帰宅後は赤ちゃん・保護者とも手洗いなどの感染対策を徹底
リーフレット「遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診」(厚生労働省)
リーフレット「遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診」(厚生労働省)

世界でも、新型コロナで他の感染症の予防接種率が低下

新型コロナの影響による他の感染症の予防接種率の低下は、世界でも課題の一つとなっている。今月、世界保健機関(WHO)とユニセフ(UNICEF)は、ジフテリア・破傷風・百日咳のワクチン(DTP3ワクチン)の接種率が、この28年間で初めて低下に転じたと伝えた。

WHO/UNICEFの予防接種推計値の資料(2020年7月発表)*筆者日本語注記
WHO/UNICEFの予防接種推計値の資料(2020年7月発表)*筆者日本語注記

DTP3ワクチンの予防接種は1980年から1990年にかけて、南・東南・東アジアとオセアニアを中心に大幅に拡大され、世界全体の接種率も大きく向上した。その後も、各国・国際社会の尽力のもと、接種率の伸びは小さいものの、増加傾向を維持してきた。

WHO/UNICEFの報告書(英語)によると、予防接種率低下の背景には、医療者が新型コロナ対応や移動制限で予防接種に従事できない場合や、防護具が不足している場合、また、子どもに予防接種を受けさせる保護者側も、日本同様、外出を控えたり、移動制限や経済的困窮で移動ができなかったりと、複数の要因が重なっている。現在、世界各地で予定されているはしかの予防接種キャンペーン(一定地域で一定期間に集中的に大規模予防接種を行うこと)のうち、少なくとも30の実施が危ぶまれ、今年あるいは来年以降に、はしかの流行が再燃する可能性が懸念されている。

はしかもDTP3同様、予防接種率が向上してきたものの、2010年頃から85%程度で停滞が続いている(95%以上が目標)。2019年は上半期に世界各地ではしかの大流行が起き、ウクライナ、マダガスカル、インド、ブラジル、パキスタン、イエメン、コンゴ民主共和国で深刻な事態に陥った。また、米国などもともと予防接種率が高い国でも感染が拡大し、ニューヨークでは3月に非常事態宣言が発令された。感染者数は下降してきているものの、今回の予防接種率の低下で、新たな状況悪化が懸念されている。

予防接種や治療で救えるはずの命がこれ以上失われないように

医療が存在する国でも、圧倒的に足りない国でも、患者さんの増加は医療体制に負荷をかけ、医療を受けられる機会を脅かしかねない。新型コロナの影響で手術の延期が起きたように、治療の機会が左右されるのは感染症に限ったことではない。感染症が他の感染症拡大の引き金にならないように、また医療ニーズが拡大し、医療への負荷が増大して、予防接種や治療で救えるはずの命がこれ以上失われないように、私たちの感染予防と医療の継続を支えるための協力が欠かせない。

私たちは今、新型コロナのワクチンができるのを待っているけれど、はしかのワクチンも、DTP3ワクチンも、使う準備はできている。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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