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人の流れの活性化はひと段落感、一方で物価高への懸念続く…2023年6月景気ウォッチャー調査は現状下落

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
新型コロナウイルスの新規感染者数は再び増加の動きを示している(写真:つのだよしお/アフロ)

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2023年7月10日付で2023年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、緩やかに回復している。先行きについては、5類感染症への移行も終わり、改善テンポに一服感がみられるものの、緩やかな回復が続くとみている」と示された。

2023年6月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス1.4ポイントの53.6。

 →原数値では「変わらない」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは53.6。

 →詳細項目は「サービス関連」「住宅関連」以外の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外すべて。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.6ポイントの52.8。

 →原数値では「変わらない」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは53.6。

 →詳細項目は「サービス関連」「住宅関連」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外の全項目。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年6月では人の動きの回復動向はひと段落ついたように見えることと、物価高の影響が大きく、前月比で下落することとなった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2023年6月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安が高まりを見せている。特に今後さらに電気料金をはじめ多様なサービスや商品の値上げが予定されていることから、それへの不安が大きなものとなっている。また、新型コロナウイルスの新規感染者数急増の影響への不安も見受けられる。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2023年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2023年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の6月は前回月から転じる形で下落。ここ数か月の上昇が天井感を覚えるものであったことを裏付ける形となってしまった。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2023年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2023年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張り、下落している。特に電気料金の値上がりへの懸念が大きい。また新型コロナウイルスの新規感染者数急増も懸念材料となっている。

人の流れの回復と物価高と

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・新型コロナウイルス新規感染者数の増減はあるが、ほとんど意識することがなくなり、旅行申込みは新型コロナウイルス感染症発生前に戻った。ここに来て団体旅行の実施、計画も増えており、夏休みやお盆にかかわらず旅行は増加の一途をたどっている(旅行代理店)。

・今まで韓国中心であったインバウンドが、クルーズ船の寄港などによって様々な国の観光客の姿がみられるようになり、特に週末は活気付いている。梅雨に入り、通勤手段としての利用も増えている(タクシー運転手)。

・来客数の伸長が鈍化している。天候の影響もあるが、前年同期と比べると来客数がマイナスとなっている日もあり、脱コロナの影響も薄れつつある(コンビニ)。

・前年度と比べ特にエアコンの販売台数が伸びておらず、前年を下回っている(家電量販店)。

■先行き

・夏、秋祭りなどのイベントが4年ぶりに通常開催を予定しており、街に活気が戻ってくるとみている(商店街)。

・新型コロナウイルス感染症の分類が5類感染症になったことで、外国の客が増え、インバウンド需要はかなり上向いている。物価高は続くと思うが、少しずつそれが当たり前の状態になりつつある(家電量販店)。

・新型コロナウイルス感染症による行動制限が緩和され、慎重であった人が動き出している。景気が今以上によくなることはないが、しばらく現状が維持されると予想している(商店街)。

・エネルギー価格の高騰は他の物価にも連鎖するため、支出は更に制限されると考える(衣料品専門店)。

人の流れの増加実情や期待によるポジティブな意見もあるが、その増加がピークを迎えたのではとの不安を覚える声もある。物価高を受けた消費者の買い渋りの話も見受けられる。また消費者の節約志向がさらに強まるのではとの指摘もある。

企業動向でも物価高への影響が見受けられる。

■現状

・自動車メーカーは、部品調達不足もほぼ解消し、増産体制に入っている(輸送用機械器具製造業)。

・材料費や購入品の値上がりの影響か、発注元や親会社からの発注が抑え気味に感じる(一般機械器具製造業)。

■先行き

・お中元ギフトシーズンでもあり、当県のトップシーズンでもある8月に向けて更ににぎやかになりそうだが、一方で県内の新型コロナウイルスの新規感染者数急増による影響も懸念される(食料品製造業)。

・円安による調達コスト上昇に加え、消費行動がモノからコトへ移ってきていることから耐久消費財の販売が伸び悩んでいる(電気機械器具製造業)。

原材料不足解消との喜ばしい話もあるが、物価高で需要が落ち込んでいるとの意見もある。「消費行動がモノからコトへ移ってきている」とは興味深い話ではある。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状

・新規求人数が増加に転じている。求人数は、宿泊業・飲食サービス業で増えている。製造業では食料品・飲料製造で増加しているが、電子部品・機械器具製造では減少している(職業安定所)。

■先行き

・一部業種の企業業績は上向いているが、一方で、地方では賃金はなかなか上がっておらず、景気上昇の底上げはまだである(新聞社)。

雇用情勢は特定業種における人手不足の話が目にとまる。他方、業績が上がっても賃金が上がらないとの興味深い意見もある。その上で、物価が上昇を続けるならば、スタグフレーションのリスクが生じるからだ。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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