小中のエアコン設置 いまだ半数 暑くても設置率1割未満の自治体も 莫大な予算が課題
猛暑がつづいている。室内にいても、エアコンなしには過ごすことができない。
ところが、今日もまた全国の約半数の公立小中学校では、エアコンがない教室で、子どもと先生が授業時間をいっしょに過ごしている。しかも、エアコンが完備されている自治体と、ほとんど設置されていない自治体があり、子どもの教育環境に大きな不公平が生じている。
■いまだ全国の半数の教室にとどまる
エアコン(冷房)の設置状況については、文部科学省が公立校を対象に、おおよそ3年に1回ずつ全国調査をおこなっている(文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果について」)。
普段子どもが授業を受ける普通教室のエアコン設置率は、公立小中学校の場合、1998年は3.7%にすぎなかったのが、最新の2017年の調査では49.6%にまで上昇している[図1]。温暖化が進むこの20年の間に、普通教室のエアコン設置率は、大幅に高まった。
ただそれでもまだ設置率は、全国の教室の半数にとどまっている。汗だくの教室が、全国のあちこちにあるということだ。
■都道府県の格差
さらに深刻なのは、設置率の都道府県格差が激しいことである。
小中学校における普通教室の設置率をグラフに示してみると、都道府県によって設置状況が大きく異なっていることがわかる[図2]。
設置率がもっとも高いのは東京都で、99.9%(27,118室のうち27,116室)と、ほぼすべての教室にエアコンが備え付けられている。次に高いのが香川県で、97.7%(3,467室のうち3,387室)と、こちらもほぼ完備と言える。他方で、同じ四国でも愛媛県は5.9%(4,745室のうち278室)と、ほとんどの教室がエアコンなしである。
■高校は格差が小さい
公立小中学校における都道府県格差の大きさは、公立高校の場合と比べると、よりはっきりと見えてくる[図3]。
公立高校における普通教室のエアコン設置率は、全国で74.1%に達している。東京都や京都府、大阪府、鳥取県、高知県、沖縄県は100%である。
グラフの凸凹に着目すると、小中学校と高校とのちがいは明瞭である。
小中学校の場合は、都道府県によって棒グラフの高低がばらばらである。だが高校の場合は、一部の地域をのぞけば、全国的に各都道府県の棒グラフの高さがわりと安定している。
高校の都道府県格差に比べて、義務教育段階の小中学校の都道府県格差は、かなり大きいと言える。
■最高気温が高いにもかかわらず
さらに小中学校については、暑い地域であってもエアコンの設置率が低いことがある。
先ほど示した小中学校の都道府県別設置率のグラフを、最高気温[注]の高さ順に並べ直すとその状況がよくわかる[図4]。
過去5年間の県庁所在地の月間最高気温(平均)がもっとも高いのは京都府で、そのエアコン設置率は84.0%(全国5位)である。最高気温が2番目の大阪府も、エアコン設置率は77.3%と比較的高い(全国9位)。
だが、最高気温が上から6番目の愛知県は、エアコン設置率は35.7%にとどまっており(全国25位)、つづく7番目に暑い奈良県においては、エアコン設置率はわずか7.4%である(全国40位)。
そして図1に戻って2014年度から2017年度への増加分に着目してみると、奈良県や愛媛県などは、エアコン設置率がかなり低くかつ最高気温が上位にありながらも、2014年度から2017年度にかけて設置率がほとんど増加していない。過酷な状況がつづいている。
なお、小中学校のエアコン設置率ならびに最高気温の数値と順位の詳細は、本記事下部にまとめて掲載したので、適宜参照してほしい。
■全国的な猛暑のなかで
最高気温が高い自治体であっても、エアコンがほとんど整備されていないことがある。しかも、全国的に設置率が高まるなかで、依然として整備が進まない状況も見えてきた。
ただし、くれぐれも最高気温が47都道府県のなかで低いとしても、それが「夏は涼しい」を意味するわけではない。最高気温は相対的に小さい地域に住む人であっても、「この地域だって暑い」と言うことだろう。実際に地域を問わず、オフィスや商業施設に入ればエアコンがしっかり効いている。
そもそも日本全体が、絶対的に暑いということに留意すべきである。したがって、基本的に学校にはエアコンの設置を前提とすべきと、私は考える。
■エアコン設置が進まない理由:多額の財政負担
毎年暑い夏がやってくるにもかかわらず、いくつかの自治体でエアコン設置が進まない背景には、財政的な事情がある。
言うまでもなくエアコンは1台設置するだけでも高額な負担が生じる。ましてや、学校の場合、たとえば3年1組の教室だけを特別扱いするというわけにはいかない。学校内の全教室に設置することが求められる。
これは学校内だけにとどまらない。たとえば、同じ市内において、A小学校にはエアコンがあり、B小学校にはエアコンがないと、これは両校の保護者の間に不公平感を生み出す。
そもそも教育行政上、公立学校の設置者は市町村である。したがって、公平性の観点から同一市内においてエアコンがある学校とない学校をつくるわけにはいかない。
■教育環境の公平性
市町村としては、自治体内のすべての学校のすべての教室に、一斉にエアコンを導入することが求められる。そのために億単位の予算を計上することも多々ある。しかも設置と同時に、毎年多額の電気代負担も生じることになる。
設置のための莫大な予算が短期間に必要とされ、しかも多額の電気代が長期的に必要とされる。この財政的負担が各市町村に与える影響は大きく、それがエアコン設置の障壁となっている。
現在、国は「学校施設環境改善交付金」としてエアコンの設置には3分の1の額を補助している。そうは言っても、自治体の負担はかなり大きい。
義務教育段階においては、自治体内だけでなく日本社会全体において基本的には同質の教育環境が公平に保障されるべきである。このことを考えれば、エアコン設置の都道府県格差は、国の問題でもある。国からのより積極的な支援が必要である。
公教育という名のもと、ある地域では子どもも先生もオフィスと同様のエアコンの効いた空間に身を置き、別の地域では今日もまた汗だくになって授業時間を過ごしている。こんな状況を放置していてよいのだろうか。
エアコンはもはや贅沢品ではなく、必需品である。子どもたちが適度な室温で授業が受けられる環境を、一刻も早く整える必要があり、これは地域住民さらには国民全体で考えていくべき課題である。
[参考資料:各都道府県におけるエアコン設置率ならびに最高気温の数値と順位]
- 注:総務省統計局が毎年刊行している『統計でみる都道府県のすがた』に、「最高気温」という指標が掲載されている。その2014年版から2018年版までの5年分の数値を参照し、その平均を、本記事における「最高気温」とした。『統計でみる都道府県のすがた』における都道府県別の「最高気温」とは、都道県庁所在地における「日最高気温の月平均の最高値」を意味し、具体的には「毎日の連続的観測記録のうち、1日の最高気温から、月平均の日最高気温を求め、それらの月平均気温のうち、年間を通じて最高の月平均気温」を示している。観測値は都道県庁所在地のものであるが、東京都は千代田区、埼玉県は熊谷市、滋賀県は彦根市における気象台の観測値である。