ツラい不妊治療を再開することを考えると再婚に踏み出せません(「スナック大宮」問答集28)
「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京・西荻窪、愛知・蒲郡、大阪・天満のいずれかで毎月開催している。2011年の初秋から始めて、すでに100回を超えた。お客さん(読者)の主要層は30代40代の独身男女。毎回20人前後を迎えて一緒に楽しく飲んでいる。本連載「中年の星屑たち」を読んでくれている人も多く、賛否の意見を直接に聞けておしゃべりできるのが嬉しい。
初対面の緊張がほぐれて酔いが回ると、仕事や人間関係について突っ込んだ話になることが多い。現代の日本社会を生きている社会人の肌からにじみ出たような生々しい質問もある。口下手な筆者は飲みの席で即答することはできない。この場でゆっくり考えて回答したい。
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「結婚していたとき、不妊治療で体外受精を6回も行いましたが子どもに恵まれませんでした。夫は知らないうちに浮気をしていたようです。女性へのメールを書いていたのを偶然見つけてしまい、問いただしたら離婚を切り出されました。今後、再婚したいという気持ちもありますが、男性は結婚したら子どもが欲しいという方が多いと思います。もし再婚しても、ツラい不妊治療を再開することになるかもしれない、と考えると足踏みしてしまいます。また、不妊治療、流産、離婚と様々な経験をしてきたせいか、一人でいる気楽さ、自由さが居心地よくなりました。あと何十年したら後悔しそうですけど」(30代後半の独身女性)
「男性は結婚するとみんなこうなる」は思い込みに過ぎない
筆者は新卒で新興の小売企業に入社した。店舗現場は軍隊的な規律で統制されている会社だ。休暇で外界に触れる時間があまりなかったこともあり、影響の受けやすい性質の筆者はあっという間に洗脳されてしまった。店舗作業に優れた人が「偉い人」で、自分を含めたその他はダメ人間だという序列。「人間の価値は洋服をたたむ速度だけでは決まらない」と気づいたのは、会社を辞めてしばらく経ち、他の業界で働き始めてからだった。
人の価値観への影響の強さでは、会社と家庭は双璧をなすと思う。特に、寝食を共にして人生を分かち合う配偶者の存在は大きい。思いやりのない不誠実な男性と長く結婚生活を過ごした場合、「男性は結婚するとみんなこうなる」と思い込んでしまうのだろう。
実社会はもっと多様だ。子どもを欲しくなくても結婚したい男性もいるし、心優しく誠実な男性もいる。妻が不妊治療で苦しい思いをしているときに浮気をして、露見したら開き直って離婚を迫るような人はむしろ少数派だ。
子どもが欲しいという場合でも、どの程度までの不妊治療を受けるのかは人それぞれだ。「授かりものなのだから自然に近い形で妊娠しなければあきらめる」という考えのほうが一般的だろう。年齢を重ねて体が衰えるのはお互い様で、不妊の原因は女性にだけあるわけではない。その程度の知識はたいていの社会人男性なら持っている。
自分が元気になる環境を確保し、あとは時間の流れに身を任せる
あなたに必要なのは時間しかない。一人暮らしの気楽さを満喫するのはとても良いことだと思う。安心と自由が両立できる環境に身を置いていると、悲しく悔しい記憶は薄れていき、身も心も少しずつ元気になっていく。すると、同じように心身が健全な人と出会うことが増え、仲良くなる。友だちになるだけでも楽しいし、場合によっては恋愛関係に発展するかもしれない。
その相手と一人暮らしのまま付き合うか、同棲や結婚という形をとるのか。結婚したら子どもを望むのか。すべてあなたと相手の自由だ。相手がまともな大人であれば、2人の関係性を話し合うことも楽しい時間となるはずだ。
まずは自分が元気になるための環境を確保すること。それさえ実践していれば、あとは時間の流れに身を任せればいいと思う。きっと良き人間関係に恵まれる。それから振り返れば、苦しかった初婚の思い出も貴重な人生体験だったと思えるはずだ。