日本の一人負けを分析する
先週、米半導体工業会が2013年2月における世界の半導体売上高を発表した。それによると、前年比1.4%増の232億5000万ドルだった。米国が1.6%増の44億8000万ドル、アジア太平洋が6.7%増の132億4000万ドル、欧州は1.5%減の26億8000万ドルであったのに対して、日本は何と15.7%減の28億5000万ドルで一人負けだった。
スマートフォンが今は成長分野であるから、韓国や台湾などのアジア太平洋や米国はスマホ向けの半導体や部品、製造サービスで稼いでいるのに対して、日本はスマホ向けが全く弱い。せいぜいコンデンサや抵抗、コイルなどの受動部品がマシなだけだ。日本のスマホメーカーが世界では全く売れないからである。なぜ日本のスマホは世界から遠く離されてしまったのだろうか。
かつての携帯電話は、iモードで見られたように世界でもトップを行っていた。しかし、誰も付いていけないほど自分勝手な仕様であり、相手と一緒に決めることもしなかった。その根底にあるのは、技術最優先の考え方だからではないだろうか。
例えば、国内の携帯電話メーカーが昨年まで売り物にしていた防水機能。今年のMobile World CongressではOリングのしっかりした構造を作り、アクセサリのケースをかぶせるだけでiPhoneやGallaxyに防水機能を付けられるというケースがあちこちから出てきた。水深2mでもOK、1mの高さから床に落としてもOKという。防水機能を携帯電話機自体に付けなくてもよいのである。
2007年にiPhoneがアメリカで発表され、日本に上陸する前に触らせてもらった。2本指で拡大縮小のジェスチャーを認識したり、指でページをめくる動作を読んでくれたりしたことにとても感激した。触って楽しい電話だ、と思った。ところがある技術雑誌は、新しい技術が何もない、これまでの技術の寄せ集めにすぎない、と切り捨てた。日本のエンジニアに取材した結果なのだろう。
しかし、私はこの電話の楽しさと任天堂のWiiの楽しさは共通するものがあると思った。共にヒット商品だった。共に楽しさを表現した。タッチパネルの操作も従来の1本指ではなく2本指で、しかもその動きまでも認識できていた。従来のタッチセンサではXYマトリクスの交点を認識するだけだったから単なる受動的なボタンにすぎなかった。iPhoneのタッチパネルはこれまでのタッチパネルとは全く違っていた。X、Yそれぞれを時間軸に沿ってスキャンするというタッチコントローラを導入して初めてできる技術であった。Wiiもバーを振ることで、その動作を表現した。
しかし、日本のエンジニアはこの「楽しさ」を理解できなかった。ここに問題の本質がある。ネットスケープの元となるモザイクというブラウザを発明したイリノイ大学の学生だったマーク・アンドリーセン氏は、楽しいブラウザを開発しようと考えていた。ノートパソコンの原型を50年前に考案したアラン・ケイは、楽しさを表現できるマウス、プルダウンメニューを発明した。
技術を極めることはユーザが求めることなのかどうか、エンジニアは考えているだろうか。自分が使って楽しいものなら、他人が使っても楽しいはずだが。実はここにヒントがある。マーク・アンドリーセンにせよ、アラン・ケイにせよ、楽しさを追求すると、新しい技術開発につながることを見出した。
スマホには楽しさを表す技術としてMEMS(Micro Electro Mechanical System)加速度センサがある。画面を傾けると絵が90度傾く楽しさだ。重力加速度を検出しているのである。傾いた時にX、Yの加速度の強さが変わることを利用している。さらにジャイロスコープは写真を撮る時の手ぶれ防止に使われている。また、Wiiのようにバーを回転させると画面も回転するのも同じジャイロのおかげだ。
ただし、こういったMEMSセンサは単なるセンサだけでは意味を持たない。MEMSセンサからの電気信号がどのような動作や命令につながるのかを判断・分離できるように信号波形が意味のあるアルゴリズムと対応させることも実用化には必要である。日本のエンジニアはとかくMEMSセンサの感度を上げたり、検出範囲を広げたり、モノを極めることにしか頭が行かず、信号を何にどう表現するかというところまで至らないことが多い。
しかも、極めたハードウエアが広く使ってもらえるようにするための、標準化やインターオペラビリティ(相互運用性)には関心を示さない。さまざまな国、さまざまな人に使ってもらえるようにするためには、部品やモジュール同士をつなぐ入出力インターフェースを標準化しなければならない。しかもA社の製品もB社の製品もC社の製品もみんなつなげることを確認するというインターオペラビリティを確保しなければならない。A社の製品同士しかつながらなければ製品は広がらない。NTTドコモの3Gの最初の失敗はまさにインターオペラビリティの欠如だった。世界中の製品が3Gで使えるようにするという視点が全くなかった。
スマホはこれから先ももっともっと伸びて行く。だからスマホに使うべき半導体を考えたり、スマホという、常にオンして常にネットにつながっているコンピューティングデバイスにどのような機能を載せると楽しいのか、ということを考えよう。スマホとテレビをどうつなげると楽しくなるか、スマホとクルマをつなげるとドライブがもっと楽しく安全になるか、こういったアプリケーションをブレーンストーミングしよう。そうすれば、日本からも楽しい「売れる」スマホが出てくる。
使うシーンを想定せずにひたすら技術を追求することに何の意味もないのである。
(2013/04/09)