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【女子バレー世界選手権】今夜ブラジル戦、妹も「最強」と太鼓判を押す横田真未のクイックに注目!

田中夕子スポーツライター、フリーライター
中国戦でも存在感を見せた横田。しっかり「叩く」A、Bクイックに注目だ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

“王道”で点を獲る期待のミドルブロッカー

 相手より多く得点を獲る。バレーボールの勝敗を分けるポイントは実にシンプルだ。

 と言いつつ、ではいかに点を獲るかを考えると、これはなかなか複雑だ。

 サーブ、ブロック、スパイク。単語にすればシンプルだが、1つ1つを紐解けばローテーションによってサーブも狙う位置が変わり、ゾーンやターゲットをどのように狙うか。ブロック時も前衛3枚で相手の攻撃を防ぐべく、どうやって攻撃を絞らせるか。相手の傾向からクロス、ストレート、どちらを締めて、よりブロック力に長けた選手をどこに配置するか。

 相手ブロックがディフェンス優位の状況をつくろうとする中、攻撃側も枚数を増やし、前衛、後衛の選手が入る位置をずらしてブロッカーを動かす。スパイク技術に目を向ければ、強打でブロックの間を抜くのか、当てて飛ばすのか、はたまた軟打を落とすのか。その前にセッターがブロックを欺く策を練り、より選択肢を増やすべく1本目のパスをする選手もできるだけセッターが上げやすい位置、質で返すべく、「崩す」ことを目的にしたサーブに「崩されない」よう踏ん張る。

 時間にすれば数十秒、ないし数秒。ラリーが続けば1分に近いこともあるが、そのわずかな時間で繰り広げられる攻防の中、実はさまざまなやり取りが繰り広げられていて、すべてが連動するのは、簡単なようで簡単ではない。だから、バレーボールは難しい。

 だが、そんな背景など知らずとも攻撃がズバーンと決まれば、誰が見ても爽快だ。特に個人的にはBクイック、少し専門用語を使うとスロット3からファーストテンポで放たれる31の攻撃が大好きだ。実に気持ちがいい。

 しかしながら、近年女子バレー日本代表でこの攻撃を武器とする選手はあまり多くない。東京五輪を含む4大会に出場した荒木絵里香さん、世界選手権に出場中の島村春世、山田二千華も打ってはいるが、どちらかと言えばライト側(スロットBやC)へ走りこんで打つブロードと呼ばれる移動攻撃のイメージが強い。

 世界でも上位に入るブラジル、イタリア、さらに一昨日(28日)ストレートで敗れた中国のミドルブロッカーは当たり前にセッターの前側、後ろ側からラリー中にもごく当たり前に入り、打ってくる。

 日本にもここでAクイック、Bクイックをハードヒットできる選手がいたら面白いのに。長年抱き続けた願望を、見事な形でかなえてくれた選手がいる。今年度日本代表に初選出された横田真未だ。

世界選手権の壮行会を兼ねた日本代表の紅白戦でも横田(写真前列右端)は存在感を発揮した
世界選手権の壮行会を兼ねた日本代表の紅白戦でも横田(写真前列右端)は存在感を発揮した写真:YUTAKA/アフロスポーツ

妹・紗椰香も驚く「ジャンプからヒットまでのスピード」

 愛知県豊田市出身で、高校は宮城の古川学園に進学し、春高、インターハイなど数多くの全国大会に出場した。当時は「卒業したらVリーグへ」と考えていたが、企業ではなく横田が選んだのは、関東一部に所属する東海大。藤井壮浩監督のもと「自分自身で考えて行動することを学んだ」と言うように、練習メニューも選手同士で考え、問題点を共有しながらチームをつくる。その過程で磨いてきた“個”の武器となるスキルが、片足ではなく両足で踏み切るA、B、Cクイックだった。

 片足で踏み切るのではなく、助走から両足で踏み切ることで、よりジャンプに力が加わり、高い打点でしっかり叩くことができる。横田の強みを誰より知るのが、妹で今季から姉と同じデンソーエアリービーズに入った横田紗椰香だ。

「お姉ちゃんのA,B,Cクイックは本当にすごい。日本代表だけでなく、デンソーで見ていても他のミドルと比べて、1人だけ跳んでからヒットまでが速いんです。両足で踏み切ることでパワーも乗っているし、ハードヒットできているからブロックもはじく。ヒットする瞬間までいい意味で力が抜けているのも、お姉ちゃんの武器だと思います」

 姉妹共に同じミドルブロッカー。古川学園、東海大、デンソーと進路は常に同じで、傍目で見れば仲間でもありチーム内のポジションを争うライバルでもあるが、紗椰香曰く「性格も、プレースタイルも全く違う」。

「私はとにかくばんばん行く、ガシャガシャした性格の突っ走るタイプなので、冷静沈着でどんな時でも落ち着いているお姉ちゃんは憧れです(笑)」

 世界選手権が開催されているオランダのみならず、日本代表として海外遠征が続く姉と、両親、自身の4人でグループラインをつくって連絡し合うが、要件はいつも他愛ないことばかり。

「私の誕生日が近い(30日)ので、お姉ちゃんから『何か欲しいものある?』とか、バレーの話はしないです。世界バレーの試合中も、両親と私が3人でビデオ通話をつなぎながら一緒に応援しているし、今は選手同士というよりも普通の家族で、お姉ちゃんと妹。元気に帰ってきてほしいし、世界バレーでもいっぱい試合に出て、頑張ってほしいです」

姉と同じ東海大へ進み、主将を務めた昨年の全日本インカレを制した横田紗椰香。代表で戦う姉を「すごい」と称え、妹として誰より応援している
姉と同じ東海大へ進み、主将を務めた昨年の全日本インカレを制した横田紗椰香。代表で戦う姉を「すごい」と称え、妹として誰より応援している写真:アフロスポーツ

「意志を持って戦いたい」

 互いに2勝同士で対戦した中国にはストレートで敗れたが、アウトサイドヒッターの古賀紗理那、井上愛里沙にブロックが集まる中、セッターの関菜々巳がうまくミドルを使い、横田のサーブや攻撃も高い決定率、効果率と強い印象を残した。

 2次ラウンド進出をかけ、日本代表は30日に世界ランク2位のブラジルと対戦する。昨夏も1次ラウンドで対戦して敗れた東京五輪と同様に、負傷した古賀の出場も危ぶまれる中、攻守両面においてバランスに長け、ガブリエラ・ギマラエスという世界トップとも言われるエースを擁する相手にどう戦うか。冒頭で記した以上に綿密な策を練り、遂行すべく挑む戦いで、間違いなく大きなウェイトを占めるのがミドルブロッカーであるのは言うまでもない。

 サイドばかりでない、と相手に強く印象付けるべく、いかに攻撃参加できるか。そしてハードヒットしたスパイクでどれだけ得点をもぎ取れるか。さらにそこで残した印象で相手ブロッカーを引き付け、どれだけ味方のスパイカーをマークの少ない楽な状態で打たせることができるか。

“点取り屋”と呼ばれるオポジットや、エースポジションとされるアウトサイドヒッターと比較して、ミドルブロッカーは脚光が浴びることは少なく、一見すれば地味なポジションにも見られるが、いやいや侮るなかれ。ミドルに注目するだけでバレーボールが数倍、数十倍楽しくなる。そしてミドルが機能すれば、勝利の確率も同様に増えるはずだ。

 初めてつかんだチャンスを活かし、まずは今大会で目標と掲げるベスト8進出を果たすべく。横田は誓う。

「(バレーボール部の)人数が多かった東海大時代、コートに立てるのは7、8人。同期の中にも1年生の頃からサポートに回ってくれたメンバーもいました。日本代表として14名に選ばれた今も、大学時代にサポートしてくれたメンバーのように、いろいろな人たちの気持ちを日本代表として背負い、自分の意志を持ってしっかり戦いたいです」

 いざ、ブラジル戦。ミドルからの爽快な攻撃に期待、そして注目だ。

家族の応援、支えてくれている人たちの思いも背負い、横田真未は日本代表のミドルブロッカーとして世界に挑む
家族の応援、支えてくれている人たちの思いも背負い、横田真未は日本代表のミドルブロッカーとして世界に挑む写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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