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「手術直前までタバコ楽しむ」実は危険行為 絶対に禁煙してほしい理由

山本健人消化器外科専門医
(写真:アフロ)

手術を受けることが決まった患者さんの中には、

「入院するとタバコがしばらく吸えなくなるから、手術の直前までたっぷりタバコを楽しんでおきたい」

と考える方がいます。

こうした患者さんに出会った時、私たち外科医は慌ててこう言います。

「あまりに危険な行為です。手術が決まった以上、すぐに禁煙してください」

喫煙者の場合、術前4週間以上前からの禁煙が理想的です。

病院によっては、手術直前の喫煙が発覚した場合、一旦退院、手術は延期、としているところもあります(もちろん患者さんに事前にそのように説明し同意を得た上で、です)。

なぜ、これほどまで喫煙は危険なのでしょうか?

喫煙は、術中・術後に多くの問題を引き起こすリスクがあるからです。

喫煙がもたらす危険性

日本麻酔科学会が発行する「周術期禁煙ガイドライン」では、多くの研究結果が取りまとめられ、喫煙が術中・術後にさまざまな問題を引き起こすことが報告されています

「喫煙者では禁煙者や非喫煙者に比べ、呼吸器系、循環器系、創関連、感染などの合併症が多く、死亡率が高い」といった報告もあります。

これを分かりやすく言い換えると、

「タバコを吸っている人はそうでない人より、術後に肺や気管、心臓や全身の血管にトラブルを起こしやすく、傷口が膿むなどの問題を起こしやすい上、死亡する確率も高い」

ということです。

こうした、術後に起こる問題のことを「術後合併症」と呼びます。

喫煙していない人でも合併症は起こり得ますが、喫煙しているというだけでこの確率が高まってしまう、ということが分かっているのです。

また、喫煙者は痰が多いため、術後に苦労されるケースがよくあります。

痰が絡んで咳が出ると、ただでさえ痛いお腹や胸の傷に響き、辛い思いをすることになってしまうのです。

禁煙は必須

さまざまな研究から、こうした合併症の確率は禁煙によって低下することが分かっています。

禁煙は、手術を受ける方にとって、自らの身を守るための必須の準備だと言えます。

術前の禁煙は長ければ長いほどいいのですが、「いつから始めても意義はある」とされています。

くれぐれも、「しばらく吸えなくなるから直前までタバコを楽しむ」といった危険な行為は避けてください。

どうしても自力で禁煙が難しいと感じる方は、一人で悩まず医師に相談してください。

必要な場合は、専門の外来を紹介することもあります。

手術は外科治療の「入り口」

医療ドラマでは、手術が終わった後に医師が「手術は成功しました」と話す場面をよく見ますね。

人気ドラマの決め台詞には「私、失敗しないので」というものもあります。

しかし実際は、手術が終わった時点で「成功か失敗か」を患者さんやご家族に伝えることはできません。

患者さんにどんな術後合併症が起こるか分からないためです。

外科医がどれほど腕を磨いても、合併症をゼロにすることはできません。

術後は、合併症の兆しがあればすぐに対処できるよう、患者さんを慎重に診療しなければならないのです。

その点で、手術そのものは「長い外科治療の始まりに過ぎない」と言っても過言ではありません。

私たち外科医はいつも、

「患者さんにベストな医療を提供できるよう最大限努力したい、だから患者さんもベストなコンディションで手術を受けられるよう意欲的になってほしい」

と強く願っています。

どれほど外科医が努力しても、患者さんの協力なしでは手術はうまくいかないからです。

喫煙者にとって禁煙は、こうした協力の一つだと考えていただきたいと思っています。

なお、医療ドラマの手術は実際の手術とどんな風に違うのか、詳しく知りたい方は以下の記事もご参照ください。

>>医療ドラマの手術と実際の手術とはどこが違うのか?

(参考文献)

周術期禁煙ガイドライン/公益財団法人 日本麻酔科学会

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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