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プライマリー・バランスが黒字になるとの試算

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 内閣府は29日、国と地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス、PB)が2025年度に初めて黒字になるとの試算をまとめた(29日付日本経済新聞)。

 これは好調な企業業績を背景にした税収の上振れで改善したものの、黒字幅は1兆円に満たない。

 つまり、大型補正予算を組んだりすれば、黒字化は困難になる。それでもプライマリー・バランスの黒字化が見えてきたことの意義は大きい。

 大量に発行されている国債が円滑に消化されているのは、その多くが国内資金で賄われていることに加え、財務省による国債管理政策などが有効に機能していること、また、巨額の国債を売買できる市場が存在し、円滑に取引が行われていることなどもあげられる。

 最も重要なのは日本国債への信認が維持されているということになる。国債の信用を維持するためには、政府が財政規律を守る姿勢を示すことが重要となり、財政規律を守るために必要なのが基礎的財政収支の均衡と、さらにその黒字化に向けての政府の姿勢とされる。

 基礎的財政収支とはプライマリー・バランスとも呼ばれ、社会保障や公共事業などの政策的経費を新たな借金をせずに毎年の税収などで賄えるかどうかを分析する指標である。

 つまり税収等と政府の支出から国債の利払費・償還費を除いたものを比較するものであり、プライマリー・バランスがプラス(またはマイナス)の場合には、プライマリー・バランスの黒字(または赤字)と表現する。

プライマリー・バランス=税収等-(政府支出-利払費・償還費)

 プライマリー・バランスが均衡化すれば、毎年度の税収等によって、過去の借入に対する元利払いを除いた毎年度の歳出をまかなうことになる。つまり、国債の元利金払いに充てる国債費と、新規に発行する国債の金額がほぼ同額となればプライマリー・バランスが均衡し、その上で金利と名目成長率がほぼ同じとなればあらたな借金は増えないことになる。つまり税収以内で一般歳出を補うということになる。

 しかし、一般歳出が税収より大きくなると、税収に加えて国債発行による収入を充てることになるため、プライマリー・バランスは赤字の状態となる。

 プライマリー・バランスを均衡化するのは並大抵のことではないが、そこまでしても、なぜプライマリー・バランスを均衡させる必要があるのか。

 日本政府に対する信任が続く限りは国債を最終的に償還せずに、借り換えの繰り返しで、ある程度赤字財政を維持していくことは可能となる。この持続可能性のことを「サステナビリティ」とも呼んでいる。

 国の財政赤字を維持可能とさせるためには、サステナビリティを維持させて、プライマリー・バランスの黒字化目標にむけて政策を進め、国債残高そのものを減少させていく方向に向けて努力する必要がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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