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「僕のホームコースがロシア軍に占拠され、滅茶苦茶にされている」ウクライナのゴルフ少年の悲痛な叫び

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
R&Aは「ウクライナのゴルフ」を全力でサポートすると発表している(写真:Action Images/アフロ)

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、せっかく根付き始めた「ウクライナのゴルフ」が失われようとしている。

 欧州ゴルフの総本山「R&A(ロイヤル・アンド・エインシャント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース)」がロシアとベラルーシからのゴルファーをR&A主催のすべての競技、およびランキングやハンディキャップのシステムから排除し、今後の参加やエントリーをすべて拒絶とする発表したのは3月2日のこと。

 その際、「R&Aはウクライナ・ゴルフ連盟を全力でサポートする」と声明の中で綴っていた。

 ウクライナのゴルフ連盟には5つのゴルフクラブが加盟している。そのうちの1つに所属し、同国のトップジュニアとして活躍している15歳の少年の悲痛な叫びが、米ゴルフダイジェスト誌によって報じられた。

「僕のホームコースは、クラブハウスがロシア軍によって占拠され、コースは滅茶苦茶にされている」

 この少年は、つい数週間前まで米国内のジュニア大会に出場しており、その後に控えていた欧州内のジュニア大会出場に備えるため、ウクライナに一時帰国。

「ある朝、隣町に出かけていた父からの電話で、戦争が始まったことを僕は知った。すぐに母とスーパーに走ったけど、食糧を買い込む人々で長蛇の列。銀行に行って現金を引き出そうとしたけど、やっぱり長蛇の列。結局、母と僕は何一つできないまま家に戻った」

 それが、少年が屋外に出た最後の日だったそうだ。

 ゴルフの腕を磨き、大会に挑み、プロゴルファーになる日を夢見ていた少年に、ある日、突然、襲い掛かった悪夢のストーリー。これは、決して他人事ではないと受け止めるべきなのだと思う。

【ウクライナのゴルフ】

 その昔、旧ソ連の下にあったころのウクライナでは、ゴルフは「敵のスポーツ」と見なされ、禁止されていたという。

 しかし、1991年にウクライナが独立してからは、ゴルフクラブを握る人々が少しずつ現れ、1997年にウクライナ・ゴルフ連盟が創設された。

 その連盟はウクライナのナショナルチームを創設した。最初のうちは、チームに所属したゴルファーは40歳代から50歳代ばかりだったそうだが、ルスラン・ガーカベンコさんという33歳の「若きゴルファー」が登場し、欧州の下部ツアーにも参戦。そのころから、状況は一変した。

「ウクライナのゴルフのサステイナブルな成長のために必要なのは、ジュニアゴルファーの育成だ」

 ガーカベンコさんが筆頭となって、ウクライナにはジュニア・ゴルフ・アカデミーが次々に創設され、ここ数年で500人超の子どもたちがゴルフクラブを握るようになった。

 世界アマチュア・ランキングのトップ1000以内にウクライナ人ゴルファー4人がランクイン。それは、ゴルフの歴史がいまなお四半世紀にも達しておらず、ゴルファー人口がわずか4000人のウクライナにとっては、途轍もないスピード成長を意味している。

 その「世界トップ1000」にランクインした4人のうちの1人が、悲痛な声を米ゴルフダイジェスト誌に届けた15歳の少年だ。

 彼は6歳からゴルフを始め、ウクライナ国内のあらゆるジュニア・タイトルを獲得し、すでに世界各国へ出向いて、さまざまな大会に挑んできた。

 昨年は全米ジュニア・アマチュアにも出場。ウクライナのゴルフと米国ゴルフの違いに驚き、「ロッカールームを見ただけでも仰天させられて、自分が場違いな気がして、とても緊張した。でも、それがいい勉強になった」。

 その後、彼はフロリダで毎年開催されるオレンジボウルなどで上位入りするほどの成長ぶりを見せ、次は欧州で上位入りするのだと意気込んでいた。

 ロシアによる侵攻は、その矢先に起こった。当たり前にゴルフができた日常を突然奪われた少年は、今、生き延びることに必死だ。

 ゴルフをこよなく愛する子どもの純粋な想いが絶たれ、ゴルフ場が占拠され、破壊され、先人たちが一生懸命に築き上げてきた「ウクライナのゴルフ」が失われようとしている。命さえ、おびやかされている。

 R&Aが声明で綴った「ウクライナ・ゴルフ連盟を全力でサポートする」の意味は、そうやって失われかけている彼の地のゴルフと人々を、その貴重な命を、なんとかしてサポートしたい、助けたいという意味だったことが、ようやく理解できた。

 日本のゴルファーとゴルフ界に、何かできることはないのか――。

 これまで想像したこともなかった「ウクライナのゴルフ」のことが、今、頭から離れない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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