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NASA長官、星出宇宙飛行士の2020年ISS滞在延期について言及

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
2019年9月に来日したNASAのジム・ブライデンスタイン長官。撮影:小林伸

2019年10月25日、米宇宙開発情報メディアSPACEFLIGHT NOWは、アメリカの民間有人宇宙船開発の遅れに伴う国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士滞在予定の変更についてNASAのジム・ブライデンスタイン長官へのインタビュー記事を掲載した。ブライデンスタイン長官の発言によれば、2020年春からISSには日本人宇宙飛行士が滞在する予定だったが、アメリカ人宇宙飛行士に変更される可能性が高いという。昨年、JAXAは星出彰彦宇宙飛行士がISS船長として2020年5月から滞在すると発表していたが、この予定が2020年後半になるとみられる。

SPACEFLIGHT NOWのインタビューは、遅延が続くアメリカの民間有人宇宙船(USCV)の開発スケジュールとISSへの宇宙飛行士輸送に関するものだ。SPACEFLIGHT NOWのインタビューでブライデンスタイン長官は次のように述べた。

質問:ロスコスモスから、さらにソユーズのシートを購入しなければならない可能性は高いですか?

ブライデンスタイン長官:間違いなくそうする必要があるでしょう。これはNASAとROSCOSMOS(ロシア国営宇宙公社)との交渉ですが、他の関係者もいます。とはいえ、私たちの目的がさらなるソユーズのシート購入であることは確かです。ISSの運用開始から20年以上の時間が経過し、その間ずっとアメリカ人が搭乗しています。その記録は破りたくありません。アメリカ人が搭乗している、ということを確実にしておきたいのです。リスクはとれませんし、2組のパートナー(ボーイングとスペースX)が2020年前半にISSへアメリカ人宇宙飛行士を輸送できない場合、アメリカ人宇宙飛行士が不在になるというリスクが高まってしまいます。うまく行ったとしても、NASAとROSCOSMOSとの間には1970年代のアポロ-ソユーズ計画に遡る実りゆたかな良き関係があります。(中略)

コマーシャルクルーがうまくいったとしても、ロシアのソユーズロケットでの打ち上げに関心がありますし、相手はコマーシャルクルーロケットでの打ち上げに関心を持っています。コマーシャルクルー成功の上でもパートナーシップを継続したいのです。どうなるにせよ、ご質問は「追加シートを購入しようとしているか?」ということですよね。それとも、将来のシートに他のパートナーをという意味でしょうか? それによって返答が異なります。

質問:それは、来年のソユーズシートを購入するROSCOSMOSとの交渉はまだ途中だということでしょうか?

ブライデンスタイン長官:まだです。アメリカ人宇宙飛行士は2020年の10月に帰還する予定です。それから交代となりますが、予定はまだ完全に決まっていません。

質問:アメリカの宇宙飛行士は来年のミッションで日本の宇宙飛行士と交代するのですか?

ブライデンスタイン長官:そうです。これは、アメリカのシートだということです。われわれはJAXAとの間に素晴らしいパートナーシップを築いていますし、JAXAがわれわれと共にあることを好ましいと考えていますが、コマーシャルクルーの準備はまだ整っていませんし、アメリカ人宇宙飛行士不在というわけにもいきません。これはアメリカ国民が納めた1000億ドルの税金に対する問題です。われわれがアメリカ人宇宙飛行士不在を容認することはできません。優先順位というものがあり、1番はアメリカ人宇宙飛行士不在を回避するということ、2番目はその上で国際パートナーに機会を提供するということです。

出典:SPACEFLIGHT NOW『Q&A with NASA Administrator Jim Bridenstine (members only)』

インタビューはアメリカで開催されていた第70回 国際宇宙会議(IAC2019)の中で行われたもので、遅延が続く民間有人宇宙船開発の詳細を問うものだった。2011年のスペースシャトル退役後、ISSへの宇宙飛行士はロシアのソユーズ宇宙船に頼っている。ボーイング、スペースXの2社による民間有人宇宙船開発は当初予定の2017年運用開始から大幅に遅れている。

3月に無人打ち上げ試験を成功させたスペースXのクルードラゴン宇宙船だが、2019年内の有人打ち上げ試験はないものとみられる。Credit: NASA TV
3月に無人打ち上げ試験を成功させたスペースXのクルードラゴン宇宙船だが、2019年内の有人打ち上げ試験はないものとみられる。Credit: NASA TV

現在の予定では、ボーイングのスターライナー宇宙船は射点での緊急飛行中止試験を11月に実施し、12月には無人でのロケット搭載、打ち上げ試験を実施する。スペースXのクルードラゴン宇宙船は12月半ばに高高度飛行中止試験を予定している。どちらも有人飛行試験の実施は2020年にずれ込む見通しだ。

開発中のボーイング CST-100スターライナー宇宙船 Credit: Boeing
開発中のボーイング CST-100スターライナー宇宙船 Credit: Boeing

NASAは今年7月に度重なるUSCV開発の遅延リスクとして、「商業宇宙輸送の開始が2020年2月以降まで遅れた場合、ISSの米国部分を2人の宇宙飛行士で、また4月以降は1名の宇宙飛行士で運用を余儀なくされるリスクがある」と発表していた。また、米会計検査院(GAO)は2020年9月以降にもUSCVが運用開始していない場合に備えた計画を策定するべきとしている。

ブライデンスタイン長官の発言はこうしたリスクの存在を追認し、対策としてソユーズ宇宙船でアメリカ人宇宙飛行士をISSへ送ることを優先させるという表明だ。独自の有人宇宙輸送手段を持たない日本は、こうしたアメリカの都合に伴う予定変更は受け入れざるを得ないだろう。

JAXAの野口宇宙飛行士は、USCV搭乗に向けて訓練を行っているが、宇宙船開発そのものが遅れているため、早期の搭乗予定は不透明だ。このことから2020年前半に日本人宇宙飛行士がISS滞在する可能性は低いと考えられる。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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