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選手権出場のJリーグ内定選手全11名紹介。主役になった男、なりきれなかった男達。

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
決勝で前橋育英を5−0で破り、初優勝を果たした青森山田のMF高橋壱晟(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

青森山田の優勝で幕を閉じた第95回全国高校サッカー選手権大会。この大会に実に11人のJリーグ内定選手が出場をした。初戦で負けた者、ベスト4に辿り着けなかった者、栄冠を掴んだ者。悲喜こもごもの結果に終わった彼らの今大会の出来を振り返ってみる。

彼らを紹介するにあたって、当然彼らはまだ発展途上の高校生。文章の最後にはすべて『これからさらに成長をして欲しい』という想いを添えた。悔しさを、歓喜を今後のサッカー人生にどう反映して行くのだろうか。それはすべて彼ら次第となる。

廣末陸(青森山田→FC東京)

まさに今大会の主役だった。高橋を攻撃のMVPとするならば、守備のMVPはまさしく彼だろう。こだわりのシュートストップはギリギリまで相手の動きを見て、完全に相手のモーションを読み取って、正確に反応する。初戦の鵬翔戦の開始早々のビッグセーブでチームを波に乗せると、決勝の前橋育英戦ではこれも16分の相手と1対1となるシーンでもビッグセーブを披露し、その後の先制点に繋げた。まさに勝負を動かすプレーを何度も見せ、ハイボール処理の安定感も披露。何度も観客をどよめかせた正確無比なキックは、決勝で2ゴールの起点になった。守備だけでなく、攻撃面でも起点となった大車輪の活躍。プロでもよりオールラウンダーなGKとしての飛躍を期待したい。

高橋壱晟(青森山田→ジェフユナイテッド千葉)

初戦の2回戦から決勝まで5試合連続のゴール。ゴール前の勝負強さに目を見張ったが、それ以上にしっかりと守備をこなしてからの攻撃参加であることを忘れてはならない。「青森山田に入って、守備の重要性を学んだ。3年生になって特にそれを学んだし、その上で攻撃でも結果を出さないといけない。しんどい1年だったけど、いろいろ考えることが出来て、大きな実になった」と語ったように、献身的な守備を見せながら、『ここぞ』というところでは、一気に攻撃にフルスロットルを握って、バイタルエリアにパワーを持って侵入し、冷静にゴールを射抜く。今後、攻守に関わり続けられる力をじっくりとプロの舞台に磨いて行けば、より持っている可能性は広がって行くだろう。

高江麗央(東福岡→ガンバ大阪)

東福岡にとっては悔いしか残らなかった大会だっただろう。特に守備陣は初戦から準々決勝までの3試合トータルで相手のシュートをたった2本に抑えたにもかかわらず、その1本が選手権の終わりを告げるゴールになってしまった。チームとしての連携が芳しくなかった今大会、プロ内定トリオの中で、高江はそれなりに持ち味は出せた。シャープなスイングから放たれるライナー性の右足キックの精度は高かった。だが、中央の崩しという面では、本来の力を発揮出来ないまま終わった。独特のリズムのドリブル、キックセンス、パスセンスは十分だけに、G大阪で更なる飛躍を果たして欲しい。

小田逸稀(東福岡→鹿島アントラーズ)

抜群の身体能力、空中戦の強さは見せた。だが、チーム全体の連携面の悪さを最後までカバーしきれなかった。守備面では1対1の対応や裏への対応もしっかりしており、堅い守備を支えた要因になったが、攻撃参加の面では、初戦の東邦戦こそトップスピードで左サイドに飛び出すと、正確なセンタリングで決勝弾をアシストしたが、それ以降はゴールに直結するクロスを上げることは出来なかった。彼なりにどう自分が流れを変えられるかを考えながらのプレーとなったが、噛み合ない歯車を元に戻すことが出来なかった。だが、これも経験。常勝・鹿島で勝者のスピリットと、持ち前の身体能力に磨きをかけ、日本を代表するサイドバックになるための土台を築き上げて欲しい。

藤川虎太朗(東福岡→ジュビロ磐田)

最後の大会もプレーを見る限り、調子は万全とは行かなかったようだ。昨年度の選手権では大会前の負傷が影響し、準決勝からのスタメン復帰になった。それでも中盤の起点として、巧みなワンタッチプレーやシュートでたった2試合でも存在感を発揮した。しかし、今大会は初戦からスタメン出場だったが、大会を通じてキレが悪かった。運動量が少なく、パスを出しても次のアクションが少なく、東福岡の生命線でもあるパス&ムーブが機能しなかった。昨年のチームが持っていた中央をこじ開けるような攻撃を見せられないまま、準々決勝で連覇の夢は潰えた。東海大仰星の出来もよかったが、それ以上に東福岡の攻撃が噛み合わず、彼のプレーのキレの悪さが浮き彫りになってしまった。だが、これで彼の能力が否定された訳ではない。磐田では持ち前の高い技術とクリエイティブさに磨きをかけて、この屈辱をバネに成長をして欲しい。

原輝綺(市立船橋→アルビレックス新潟)

やるべきことはやった。しかし、結果はついてこなかった。2年連続で3回戦0−0からのPK負け。早々に姿を消してしまったが、彼らの守備は間違いなく今大会ナンバーワンだった。鋭い球際と、周りの陣形、相手の陣形を読み取って、的確なポジショニングとプレスの角度まで気を配ってプレーが出来ていた。随所にインテリジェンスの高いプレーを見せていた。2回戦敗退だが、無失点のまま大会を去って行ったことは評価に値する。彼は高2から高3にかけて劇的に伸びた。頭の回転のスピードが上がり、守備の予測のスピードが格段に増した。U-19日本代表にも滑り込みで選出され、昨年10月のAFCU-19選手権で試合を締める存在として、内山篤監督から絶大な信頼を得た。今年は新潟でのプロ1年目の他に、5月にU-20W杯が待ち構えている。U-19日本代表では既に主軸候補になっているし、新潟でも即戦力候補に挙がるだろう。彼に相応しい舞台が用意されており、更なる成長が期待される。

杉岡大暉(市立船橋→湘南ベルマーレ)

原と共に堅守を構築した杉岡の冬も2回戦で幕を閉じた。鋭い出足のインターセプト、対人の強さ、そして正確な左足のキックを持ち、機を見た攻撃参加も出来る。さらに彼の最大の武器は高い戦術眼。状況を見て守備陣形を変えたり、チャレンジ&カバーを変化させるなど、オーガナイズ能力に長けている。そんな彼にとって、原の成長は良い意味で大きな刺激を受けた。それまでは『市船の守備=杉岡』だったが、原がU-19日本代表に入り、AFCU-19選手権に出場。自分は落選と言う形となっただけに、「注目が原に行っているのが分かる。それは僕の実力不足だし、しっかりと練習をして成長をしたい」と、向上心に更なる火を点けた。選手権は2回戦で終わったが、火がついた彼はさらに成長の過程を踏んで行くだろう。将来の湘南のディフェンスリーダーとなるべく、1年目からの出場を狙う。

高宇洋(市立船橋→ガンバ大阪)

市船の3年間で磨いた献身性を最後の選手権でも惜しげも無く見せた。もともとはトップ下でパスで相手を崩して行くようなプレーヤーだったが、朝岡隆蔵監督によって高い守備意識を叩き込まれ、高3になるとボランチにコンバート。パスセンスを発揮しつつも、相手のチャンスの芽を未然に摘み取る目と判断力、そして球際の激しさを身につけた。特に彼のプレスバックの質は非常に高く、タイミング、連続性、そして奪い切る力、そこから前を向いて得意のゲームメイクと、プレーの幅が着実に広がった。G大阪では攻守の質をさらに磨いて行けば、安定したボランチ、トップ下として、息の長いプロ生活を送れるかもしれない。

タビナス・ジェファーソン(桐光学園→川崎フロンターレ)

存在感を示しきれぬまま、長崎総合科学大附属との初戦で敗戦を喫してしまった。1対1の強さこそ見せたが、結果的に決勝点となった1失点目は彼の目測ミスから生まれてしまった。最後の選手権でその力を示し切ることが出来なかったが、彼のスプリント力、球際の強さ、そしてプレーの連続性、そして身体能力はかなり魅力的なものに間違いないだけに、川崎では更なるスケールアップを図って欲しい。ガーナ人の父とフィリピン人の母を持つ彼は、日本生まれの日本育ち。20歳の誕生日に帰化をすることを希望しており、東京五輪、A代表の夢も広がる存在だ。

茂木秀(桐光学園→セレッソ大阪)

遅れて来たGKはタビナスと共に初戦で涙した。195cmの恵まれた高さを持っている彼は、サッカーを始めたのが中学から、GKを本格的に始めたのが中学途中からと経験が足りず、昨年までの2年間はひたすらGKとしての基礎を植え付けられた。その作業を請け負ったのが、これまで林彰弘、櫛引政敏、渋谷飛翔を育てて来た現・桐光学園のGKコーチである湯田哲生コーチ。湯田コーチと共にステップワークや踏み切り、セービングやキャッチングなどの基礎を反復練習で習得し、「まだまだ課題は多いけど、徐々に良くなっている。未完成な選手だけに、可能性はある」と、プロの扉を開くところまで成長を遂げた。今大会ではタビナス同様に満足の行く結果とは行かなかったが、C大阪で更なる経験を積んで成長をして行って欲しい。

岩崎悠人(京都橘→京都サンガ)

初戦敗退の憂き目にあってしまったが、高校ナンバーワンストライカーの名に恥じない爪痕を残し、大会を後にした。初戦でいきなり優勝候補筆頭の市立船橋と当たったという不運だったが、彼は日本一堅いと言われる守備をこじ開けるため、何度もショートスプリントを繰り返し、時には強烈なミドルシュートを放ってポストに当てるなど、最後まで相手の脅威となり続けた。FKのシーンは今大会のハイライトの一つで、得意の右足でスピードとコースも申し分無いキックを放ったが、来年は間違いなく目玉選手の一人になるであろう市立船橋の2年生GK長谷川凌のファインセーブに阻まれた。卒業後は京都サンガに進むが、あるスカウトが「即戦力のレベル」と語ったように、彼のポテンシャルは凄まじく、開幕スタメンも十分に考えられる。

サッカージャーナリスト、作家

岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞めて上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作(共同制作含む)15作。白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯27試合取材と日本代表選手の若き日の思い出をまとめたノンフィクッション『ドーハの歓喜』が代表作。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼務。

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