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「不要論」が過熱も。本田圭佑はハリルJAPANに必要である

小宮良之スポーツライター・小説家
勝利を祝う本田圭佑とハリルホジッチ監督(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「本田不要論」

日本代表のエースに対する風当たりは、日増しに強まっている。

30才になる本田圭佑は、所属するACミランで出場機会が激減。今年に入ってからは数分しかピッチに立っていない。試合勘が鈍くなる一方、代表では久保裕也や原口元気ら若手の台頭が目立っている。

「本田が選ばれて、試合に出ている選手が選ばれないのでは競争原理が働かない」

それは真っ当な意見だ。

しかし、ハリルJAPANに本田は必要ないのか?

ブラジルW杯や2015年アジアカップの戦犯だが

不要論の根本には、感情的なものがとぐろを巻いている。

本田はビッグマウスで大きな目標を口にし、それを実現に近づける中、本物の力をつけてきた。その姿は人々を惹きつける力があったが、同時に嫌悪する人たちも少なくなかった。自分の道を貫くために取材制限をし、実業家としても活動するなど、一人高みにいた彼に対し、忸怩たる思いを抱いてきた人間は多いのだろう。

「実力が落ちたら追放する」

こうした流れは、世界のトップレベルでも珍しい話ではない。スペイン代表のエース格だったラウール・ゴンサレスやイケル・カシージャスも偏屈な人物だったことで、レベルダウンした瞬間、"滅多刺し"にされている。

そして、本田がブラジルW杯や2015年アジアカップの戦犯だったことも事実だ。

ブラジルでは、アルベルト・ザッケローニ監督が長いボールや速い攻撃を使う道も提示したにもかかわらず、本田は断固として従わなかった。「自分たちらしさ」というお題目で、パス戦術を過信した。また、アジアカップ決勝トーナメントのUAE戦も、本田は同じ轍を踏んでいる。ハビエル・アギーレ監督が豊田陽平ら長身選手を投入し、クロスでの攻撃が指示されたが、彼は"地上戦"にこだわって一敗地にまみれた。

我の強さが、裏目に出た形だった。ただ、その強い主張が南アフリカでの成功を生み、2011年アジアカップ優勝をもたらしたのも事実だろう。

では冷静に見て、本田はハリルJAPANで「不要」と断罪されるほど、プレーの質を落としているのか?

最近の代表戦では、簡単にボールを失う場面があり、判断に鈍さが出て、かつてのキープ力もなくなっている。昨年10月のオーストラリア戦で決定機を空振りするなど、試合勘の欠如は見られる。ベストコンディションには程遠いだろう。

それでも、オーストラリア戦は1トップとして戦術的にほぼ完璧に機能した。得点は決められなかったが、抜け目なくポジションを取っている。けなされるようなプレーではなかった。

本田のゴールへ向かうアクションは非凡だ。

昨年11月のサウジアラビア戦は後半から出場すると、ポゼッションをもたらし、左サイドの長友佑都と連係して決勝点を叩き出している。今年3月のUAE戦も残り時間少ない中、ポゼッションを落ち着かせる一方、相手ボールを絡め取って、岡崎慎司に預けてから弾けるように飛び出した(最後は岡崎がシュートを左に外した)。続くタイ戦も、左サイドでパスを引き出して深みを作った。左足で際どいシュートを放ち、左足クロスで惜しいシュートを演出。終盤にヘディングパスをダイレクトで裏にパスし、リターンからゴールを狙ったシーンは瞠目に値した。

慣れないポジションや交代出場で、すぐ順応できる能力は捨てがたい。

ハリルは「サイドのストライカー」として本田を起用

本田は必要なピースであることを、直近の2試合で証明した。

「本田はポゼッションをもたらし、カウンターでも機能。ゴールに対する意欲でプレーを旋回させ、決定的な仕事に絡んでいる。左利きのアドバンテージもある」

中立の立場で見られるスペインのスカウトや記者たちに最近の映像を見せると、軒並み高い評価を与えている。

左利きアタッカーのアドバンテージというのは、「逆足」(左利きが右サイドでプレーし、切り込んで利き足シュート)だけでなく、リズムが違うため、相手に打撃を与えられる。欧州のトップクラブは必ず左利きアタッカーを擁している。世界王者レアル・マドリーはベイルだけでなく、ハメス・ロドリゲス、マルコ・アセンシオらも控える。日本サッカー界ではあまり重く見られず、左利きのアタッカーそのものが希少なのだ。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が左利きの本田を重用しているのは必然だろう。

そして、ハリルホジッチが求める条件がもう一つある。

「ヴァイッドはサイドの選手に得点力を求めている。(本田)圭佑はその点、結果を残してきたし、持っている能力も高い」

そう明かすのは、"ハリルを連れてきた男"で昨年末まで代表ダイレクターを務めていた霜田正浩氏だ。

「ヴァイッドは選手の自立を促している。指示はするが、一方通行は嫌い。不満なら、なぜ言ってこない、という人で聞く耳は持っている。その点、圭佑は国際経験があり、積極的にコミュニケーションも取れる。ヴァイッドは、圭佑が言葉も通じない中で結果を残してきたことで、世界で戦う競争力を感じているんだと思う。ピッチ内での実力を信頼しているし、(予選の戦いを見ても、先発かは別にして)メンバーから外す理由はない」

本田を外すとしたら、ハリルホジッチが4-2-1-3から4-4-2へ戦術変更をするときだろう。サイドで崩し、2トップで仕留める形にするなら、本田にポジションはない。スキルとスピードで1対1に勝てる齋藤学(横浜F・マリノス)、乾貴士(エイバル)がサイドで有力なオプションになるだろう。

サイドアタッカーとしての本田はスピードに欠け、凡庸だ。それは、ミランでポジションを譲っていることからも明らかだろう。ボールを運ぶスキルとスピードに特長のあるスソ、ニアン、デウロフェウに劣る。決して崩し役ではない。

しかし、ハリルJAPANで求められるのはサイドアタッカーではなく、サイドのストライカーなのである。齋藤、乾が指揮官の信頼を勝ち得ない理由は「ゴール数の少なさ」(関係者)にあるという。もっとも、齋藤は昨季二桁得点を記録し、シュート精度も高めているのだが・・・。

個人的には、齋藤、乾に2トップという選択肢も確立すべき、という意見だが、現状、ハリルホジッチが本田を外すことは考えられない。

「圭佑には、『いつも見守っているが、クラブ内での立場を改善して欲しい』と伝えた。もっと長い時間、試合に出て欲しい。他にもいくつかの助言をし、今後のことを話した」

ハリルホジッチはタイ戦直後に本田と二人で話したことを明かしている。その信頼は厚い。今の不遇が続けば、いつか代表招集外となるが、代表に呼んで貢献している間は必要な選手なのだろう。

考え方によっては、本田は集団が緩まないための"必要悪"とも言える。

かつて若手だった本田はエース中村俊輔に挑むことで、南アフリカW杯で頼もしい存在になった。本田を完全に屈服させるような選手が現れるまで、競争を続けさせるべきだろう。久保、原口は有力候補だが、タイ戦は終盤に動きの質が落ちていたし、クラブでの実績も足りない。

本田の存在はチームに緊張感を与える。違和感であるが、刺激でもある。外圧も受け止めてくれる。少なくともロシアW杯出場を決めるまでは――。本田はハリルJAPANに必要である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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