5日のクラッシュを巡る二つの疑問
8月5日の東京株式市場では日経平均が4451円安となり、ブラックマンデーの下げ幅を上回って過去最大の下げ幅となった。この日のドル円は141円台を付けるなど急速な円高ドル安も進行し、日本国債は大きく買われた。
これは日銀の利上げを受けて、ヘッジファンドなどの円キャリートレードの解消が入ったことが要因とされている。本当にそうであるのか。個人的に二つの疑問が生じた。
ひとつが、日銀の利上げのせいにするのであれば、どうして7月31日の利上げを決めた当日にクラッシュが起きず、その数日後に起きたのか。
もうひとつが、日銀の利上げを要因とするのであれば、なぜ日本の国債は買われたのかである。
国債の価格が上昇すれば、利回りは低下する。日銀が短期金利を引き上げたのに、長期金利が急低下したのである。
これについては、例えば噂で売って事実で買う、日銀の利上げを見越して日本国債をショートしていた向きが買い戻すとの理由も浮かぶ。株価の急落を受けてのリスク回避の買いが入ったためとの解釈もできなくない。しかし、それにしては買い方が尋常でなかった。
これらから考えられるのは、日銀の利上げは要因のひとつではあったが、別の要因による影響が大きかったのではないかということである。
米国市場では7月11日の米消費者物価指数の発表を受けたあたりから、FRBの利下げ観測が強まった。そこで起きたのが米長期金利の低下とそれを受けての円高ドル安である。
FRBの利下げ観測はインフレトレードの解消も促した。これにより、米国株式市場の相場上昇の原動力となっていた半導体関連などを主体とするハイテク株が調整局面を迎えた。これに日経平均株価も影響を受けて、ナスダック指数とともに下落基調となった。
そのような矢先に迎えたのが7月31日であった。この日に日銀は0.25%への利上げとともに今後の追加利上げの可能性を示唆した。そしてFOMCでは金融政策は現状維持としたが、9月の利下げの可能性を示唆した。
これまでの日米の中央銀行の金融政策が、それぞれ逆方向に動くことが示された。これはつまり政策金利でみれば、日米金利差の今後の縮小が意識された。
これもひとつのきっかけとなり、米長期金利の低下とともに円高ドル安に拍車が掛かった。
5日のクラッシュのきっかけはドル円の居所であったのか、何か別の要因があったのかは不明ながら、大きめのヘッジファンド数社がポジション解消売りに動いた。
そのポジションは円キャリートレードと呼ばれたものであり、円を借りて、その資金をどこかに振り向けるものとなっていた。資金の振り向け先の主体は日本株であったとみられ、円キャリートレードの解消にともなう円買いも相まって、5日の東京株式市場が急落した。
さらにヘッジファンドによっては、日銀の金融政策を睨んでの日本国債のショートを仕掛けていたものもいたとみられる。それもかなり大きなポジションであったようで、その解消による日本国債の買い戻しも入った。こちらも日本国債の居所というよりも、円キャリートレードが維持できないとみたポジション調整であった可能性が高い。
いまのところ、ふたつの疑問についての現状考えられる答えが以上である。
日銀の利上げは確かにきっかけのひとつではあるが、FRBの利下げ観測による影響も大きい。それを意識したインフレトレードの解消によって、すでに相場が大きく動いており、その動きが31日の日米の金融政策を決める会合を受けて加速。ポジション調整を迫られる水準までドル円が動いたため、クラッシュが起きたというのが見立てとなる。