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【派遣法改悪】今出されている派遣法案を通しちゃいけない5つの理由

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
厚労省「「非正規雇用」の現状と課題」より 正規・非正規の賃金カーブの対比

政府・与党は、6月5日に衆議院厚生労働委員会を開き、派遣法改正案の審議をし、そのまま委員会採決を狙っているようです。

ここで通れば、通常国会の延長を見込めば、派遣法改正案の成立は目前ということになってしまうでしょう。

集団的自衛権に関連した法案の陰で報道がやや少ないですが、今出されている派遣法改正案は、日本の雇用のあり方を根本から変えてしまうかもしれない、とてつもない法案なのです。

*何とか6月5日の委員会採決は見送られたようです。(6月5日追記)

*ところが、維新の党が採決に応じるとの報道があります。やはり危機的状況です。詳しくは→「やばい!維新の党が徹底審議の方針を転換したため派遣法改悪案が衆院通過の危機!!」をお読みください。(6月8日追記)

以下、大小様々ではありますが、この法案を通してはいけない理由5つを書きました。

理由1 「『10・1問題』ペーパー」事件~違法派遣会社を救済するのが立法目的

まずはジャブから。

みなさん、「『10・1問題』ペーパー」事件をご存知ですか?

これは、厚労省のお役人の方々が、派遣業者の意向を酌みとって、国会議員に、「今国会で派遣法が通らないと大変なことになるよ」という書面を配って回った「事件」をいいます。

内容を説明すると長くなるので、こちらの渡辺輝人弁護士の記事に譲りますが、まぁ、ひどいものです。

違法な派遣企業を救済するための派遣法改正法案だった

誤解を恐れずに超簡単に言えば、10・1問題ペーパーの趣旨は次のとおりです。

・10月1日までに派遣法改正案が施行されないと派遣社員が大量失業しますよ!

・理由は10月1日から違法派遣の直接雇用強制が始まるからですよ!

・直接雇用強制になる場合として期間制限違反がありますが、これの訴訟がたくさん起こされます!

・そうなる前に派遣法改正して、違法なものを合法にしてしまいましょう!

えーっと・・・

「お前は派遣業界の回し者か!!」

と言いたくなりますよね。

私は音声に発しては言いませんでしたが、心の中では叫びましたよ。

いや、小さくは発声した可能性は否定しませんけどね。

もちろん、この大量失業はウソです。あとで大臣が謝罪しています。

そもそも、10・1問題と言ってますが、施行までに3年の猶予を設けているんですから、その間に是正しない派遣業者が悪いわけで、そのために法案を通すなんてあり得ない悪い冗談なのです。

最初はしらばっくれていた局長も、途中で自らも配っていたので自白に転じます。

派遣法の不適切資料、局長も配布 「記憶ない」から一転

また、塩崎大臣も謝罪です。

不適切資料を謝罪=派遣法改正案で―塩崎厚労相

しかし、こんな動機で提出されている派遣法改正案を通すなんて許されてはなりませんね。

理由2 正社員化促進はウソ

ちょっと長くなったので、次からは短めに。

2つ目の理由です。

安倍総理は、施政方針演説で

正規雇用を望む派遣労働者の皆さんに、そのチャンスを広げます。派遣先企業への直接雇用の依頼など正社員化への取り組みを派遣元に義務付けます。派遣先の労働者との均衡待遇の確保にも取り組み、一人ひとりの選択が実現できる環境を整えてまいります。

出典:「安倍首相の施政方針演説全文」から

と述べています。

しかし、派遣元に義務づけると言っても実効性ゼロです。

安倍首相が強調している派遣会社に義務付ける雇用安定措置は、派遣元の義務であって、派遣先が派遣社員を正社員として雇用する義務ではありません。

まぁ、法案を作った厚労省のお役人の方々も、本気でこの程度を派遣元に義務づけたところで、正社員化が進むと思っている人はいないでしょう。さすがに。

安倍総理の頭の中では、

派遣元「3年経ったので、派遣社員のAさんの直接雇用をお願いしますね!」

派遣先「直接雇用? OK!」

Aさん「やったーヽ(^。^)ノ」

ということになるのでしょうが、こんなこと起きるわけないですね。常識的に考えればわかる。

現実には、

派遣元「3年経ったので、派遣社員のAさんの直接雇用をお願いしますね!」

派遣先「直接雇用? 無理っす」

派遣元「分かりました(頼めばいいんでしょ。これで義務は果たしたもんね。フフフ)」

Aさん「(:_;)」

こうなる。

ちなみに、現行派遣法にも、期間制限に抵触する派遣労働者に対する直接雇用申込義務というのがありますが、期間制限を超える抵触日を通知しないなど、あの手この手を駆使して、派遣先の知らぬ存ぜぬが通るようになっており、実効性がほとんどない規定となっております。

そりゃ、派遣先に何らかの義務付けを罰則付きでやらないと、派遣社員を直接雇用する例が増えるはずはありません。

でも、これが派遣法改正の雇用安定措置の「目玉」なんですからね・・・。

騙されていはいけませんね。

理由3 正社員が減って派遣社員が増える

3つ目。

これについては、私が2回目の派遣法案が提出された時にこちらに書いているので見て下さい。

今、提出されている派遣法改正案が成立すると派遣社員が激増する理由

簡単に言いますと、今回の法案は派遣先が派遣社員を使うためにあった期間制限を取っ払うものです。

派遣先としては、期間を気にせず派遣労働者を使い続けられます。

こうなっては、もう一時的でも、臨時的でもありません。

派遣元としても、派遣社員を送り続けられれば、売り上げアップ!

派遣先も派遣元もウィンウィン!

ということになるでしょう。

まぁ、労働者だけが派遣という不安定な立場に据え置かれ続けるのですが・・・。

そもそも、派遣というものを臨時的・一時的な労働に限らないと正社員は増えません。

これは、学者も指摘するところです。

(私の視点)派遣法改正案 間違った雇用安定化策だ 高橋賢司

ここで、派遣社員が増えて何が悪いの?と思われる方もいるかもしれません。

しかし、派遣という働き方は究極の不安定雇用です。

そもそも「雇用の調整弁」扱いなわけですから、景気変動の際の最初の人減らしの標的となりますし、また、いつでも派遣先と派遣元の契約が終われば切られる立場ですから、立場が弱く、ハラスメントも受けやすいのです。

その上、賃金も上がらないときているのです。

こうしてみれば、派遣という働き方が雇用形態の中心にあるようでは、安定した持続的な社会は実現できないと言っていいでしょう。

理由4 キャリアアップもしない

4つ目です。

推進側は、よく「派遣社員のキャリアアップを」と言います。

しかし、これでキャリアアップするんであれば、今でもキャリアアップをはかることが実現できるでしょうね。

そもそも、3つ目の理由でも言いました通り、仮にキャリアアップしても、世の中の雇用形態が派遣ばかりになれば、結局は派遣社員になるしかないのです。

そして、派遣社員は賃金が増えないのは、統計が示すとおりですから、キャリアをアップしても、アップした質の向上した労働は派遣先会社がおいしくいただきますが、その対価である賃金は増えないままということになるでしょう。

派遣社員のキャリアアップを本当に実現したいのなら、今回の改正案のように、派遣労働の期間制限を撤廃することをせず、キャリアアップ措置をとることのみを派遣元や派遣先に義務づければいいのです。

期間制限を撤廃する危険性に比べると、「キャリアアップ」というものは、極々小さなものに過ぎません。

理由5 働き方の選択肢は増えない

最後です。5つ目。

よく、派遣法改正推進派は、働き方が選択できる社会になる、とおっしゃります。

しかし、今でも十分に派遣法は規制緩和をされ続けて、労働者は派遣という働き方を選びたければ選べる状態です。

なのに、なぜ、さらに派遣労働者の数を拡大させる施策を取るのでしょうか。

これは、労働者にとって働き方の選択肢を増やすものではなく、経営者にとって働かせ方の選択肢を増やすのが真の狙いなのです。

これを裏から言うと、労働者にとっては、安定した雇用で働く選択肢が減る、ということでもあります。

多様な働き方、という耳触りのいい言葉がありますが、現実は、多様な働かせ方が実現し、労働者の選択は狭まるわけです。

最後に

以上が今出ている派遣法案を通しちゃいけない5つの理由です。

なかなか報道に出ませんが(特にテレビ)、是非ご注目ください。<m(__)m>

なお、本日、日本労働弁護団は派遣労働ホットラインを開設しています!

もしこれを見ている派遣社員の方がおられましたら、ご相談ください!

「6・2派遣労働緊急ホットライン」実施のご案内 - トピックス | 日本労働弁護団

6月2日(火)14時30分~21時実施

【ホットラインの電話番号】03-3251-5363、03-3251-5364

たくさんのお電話、ありがとうございました!

ちなみに、全国各地で常設のホットラインも開いていますので、ご利用下さい。

*地域によって開催曜日・時間帯等が異なるので、ご確認の上、お電話下さい。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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