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米国のデフォルトの可能性とその影響

久保田博幸金融アナリスト

米政府機関の一部閉鎖は1週間が経過し、2週目に入った。政府機関の一部閉鎖は短期間かとの見方も裏切られた格好となった。米議会が債務上限引き上げで合意しなければ、米国は資金調達手段が17日に尽き、22日から31日の間に資金が枯渇するとみられている。もしそうなると、世界最大の債務国による初の債務不履行(デフォルト)が発生する可能性がある。

少し前の資料となるが、内閣府が2010年11月に発表した「財政再建の成功と失敗:過去の教訓と未来への展望」には、過去の財政政策運営の失敗事例がピックアップされていた。

これによると、歴史上の財政政策運営の失敗事例は、19世紀以降のソブリン・デフォルトだけでも310件以上存在するとされており、その中にはデフォルトを繰り返している国もあるという。

「例えば、ギリシャは、19世紀以来5回のソブリン・デフォルトを経験しており、独立以来、約半分の期間はデフォルトしていた。ポルトガルも19世紀以降6回デフォルトを経験している。」

ソブリン・デフォルトとは国の債務不履行または債務返済のリスケジューリングのことを示す。債務不履行についてはいろいろと解釈もあるが、元利金が当初の約定通りに履行されない状態との認識でとりあえず良いと思われる。

総務省の資料によれば、ソブリン・デフォルトの大量発生の波は、世界的な金融危機の後に起こることが多いとされている。ただし、これは新興国にそのような可能性が強まることで、米国のような先進国に起きていたものではない。

実際に戦後のソブリン・デフォルトは、発展途上国や新興国で発生しており、先進国では見当たらない。ただし、デフォルトには至らなかったものの、財政政策運営の失敗が危機を招いた事例として、内閣府の資料では英国のIMF危機やロシアのデフォルトの事例を取り上げている。

さて問題の米国であるが、こちらは資金繰りに窮しているわけではない。与野党の対立において、まさに政争の具というか政争の愚として用いられているものである。意地の張り合いが世界経済を危険に晒すことになりかねない状況にある。

デフォルトが発生したとしても、あくまでこれは技術的な問題であり、すぐに2010年のギリシャのような信用不安が発生するようなことは考えづらい。しかし、それが長期化するとなれば影響が出てくることも予想される。

米国債の元利金の支払いがストップすれば、市場の警戒心が強まる。これまでのところ債務上限引き上げの期限とされる17日前後に償還期限を迎える米財務省短期証券が売られているものの、米国の長期債はむしろ安全資産として買われていた。しかし、デフォルトが現実化してしまうと長期債もいずれパニック売りに脅かされる懸念がある。また、デフォルトとなれば、政府はすぐに歳出を約3分の1縮小させる必要がある(ロイター)ことで、金融市場ばかりでなく世界経済への悪影響も懸念され、欧州の信用危機以上の危機を招く可能性もありうる。

ただし、この危機は回避可能なものであり、仮に起きたとすればまさに人災といえる。必要のない危機を招くような真似はしてほしくないし、するべきではない。さすがにデフォルトまでは引き起こさないと願いたいが、数日間で終了とみられていた政府機関の閉鎖も1週間経っても解決の糸口は見つからない。念のため最悪の事態にも備えておく必要があるかもしれない。あくまで心の準備ということではあるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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