Yahoo!ニュース

「みんなに合わせてがまん」は命のリスク―熱中症対策に大事な「個の論理」

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
ペットボトルの水(写真:アフロ)

熱中症対策に欠けている「心理的視点」

連日水分・塩分の補給の必要性がメディアで流されている中で熱中症による死亡者が増えている。水分・塩分補給やエアコン使用、屋外活動の注意はもちろんだが心理的な視点を対策に加えないと熱中症は防げない。それは「個の論理」である。

例えば屋外活動をしているとき、のどが渇いても周りのみんなが大丈夫なら自分一人がつらいと言い出しにくい。水を飲みたくても給水の時間が決まっていればそれに合わせるように我慢する。集団行動ではみんなと同じ行動をとれない人はわがまま、といわれてしまうものだ。

水を飲むのはわがまま?幼稚園脱走事件

個人的な体験をお話ししたい。私は幼稚園のころ、夏の屋外活動をしているときのどが渇いて幼稚園の先生に水を飲みに行ってもいいですか、と尋ねたことがある。先生は「今みんなでお遊戯をしているからもうしばらくがまんするように」と答えた。当時は今よりもっと集団行動に合わせることがよしとされていたから当然の反応だと思う。ただ私はどうしても水を飲まなければがまんできない、という切迫感がありその場を脱走。幼稚園の門をあけて家まで逃げ帰ろうとして捕まり、水は飲ませてもらえたが、以来「わがままで、がまん出来ない子」という評価を受けることになった。とはいえそのとき水を飲まなければ熱中症になっただろう、と振り返って思うことがしばしばだった。

教師・親・大人に知ってほしい「個の論理」

大多数が大丈夫でも大丈夫でない子どもがいる。集団に合わせられないのはわがままととらえないでほしい。身体の場合は命に直結する危険を伴う。アレルギーなどを例にとれば容易に理解できるだろう。大部分の人が問題なくてもそれで命を落とすことにつながることはたくさんある。熱中症もその一つだ。

多くの人が大丈夫だから大丈夫、と安心してはいけないのだ。身体には個性がある。子どもの出すサインを見逃してはいけない。またつらい、苦しい、と言い出しにくい雰囲気を作らないことが最も必要だ。「集団行動できない子」という気分で接することが言い出しにくさを助長する。

「自分」にとって必要な対策を意識する

大人でもその日により体調が変わる。前の晩、遅くまで仕事で寝不足、という時は熱中症のリスクが高くなる。女性も生理中などは体調が変わる。その日の体調や状況に敏感に気がついてみんなと同じでなくても自分に必要な対処をすることが熱中症予防に不可欠といえるだろう。

被災地のボランティア活動をなさる方も水分補給や休憩は自分の体調に気を配り周囲と比較して「自分ももっと頑張らなければ」と無理をせずに活動していただきたいと思う。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

海原純子の最近の記事