日本版オープンデータ(官民データ活用推進基本法)から抜け落ちる政治と政治資金の情報公開
少々時間が経ったが、今月冒頭、官民データ活用推進基本法が成立した。
「官民データ活用推進基本法」が成立、AIやIoTも法律で初めて定義 | 新・公民連携最前線 PPPまちづくり
さまざまな社会問題の解決にあたって、「官民データ」を効率的に活用することを目指した、いわゆる日本版オープンデータ、オープンガバメントのための基本法といえる。
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/pdf/detakatsuyo_gaiyou.pdfより引用。JPEGにファイル形式を変換)
オープンデータ、オープンガバメントとは何か。オバマ大統領は就任直後、ITとその機能特性を積極活用した施策を実施すべく、いくつかの覚書、指令を公開した。そこでは、オープンガバメントを次のように定義している。
- Government should be transparent. (政府の透明性の向上)
- Government should be participatory.(政府(政治)への参加促進)
- Government should be collaborative.(政府との協働の促進)
(ホワイトハウス(https://www.whitehouse.gov/the_press_office/TransparencyandOpenGovernment)より引用)
ある意味、連邦政府(と権力)に対する懐疑が根底にあるアメリカらしい、そしてオバマ大統領らしい宣言だった。
当時、これを受けて、日本でもオープンガバメント、オープンデータへの注目が集まった。
オープンガバメントとは、インターネットを活用し政府を国民に開かれたものにしていく取り組みです。ソーシャルネットワークなどのWeb2.0のサービスを利用することからGov2.0と呼ばれることもあります。電子政府の推進では、以前からサービス提供者視点ではなく利用者視点でのサービス提供(Citizens-centric)が求められてきましたが、更に進めて、市民参加型のサービス実現(Citizens-Driven)が求められています。新しい公共などの取り組みも進められていますし、新しい民主主義の方法という人もいます。
(「オープンガバメントラボ」(http://openlabs.go.jp/whatis/)より引用)
しかしながら、冒頭の概要も改めて見てほしいが、官民データ活用推進基本法はビジネスでの利活用に特化した内容になっていて、透明性の改善、参加の促進、協働の促進といった観点が抜け落ちている。なかでも、「官民データ」という表現にもよく現れているが、日本の国政、地方政治で長く問題になっている政治と政治資金にはまったく触れられていないものになっている。
ここには幾つかの問題が残されている。オープンガバメント、オープンデータを評価するランキングには複数あり、日本も高く評価されているものと、評価が低いものに分かれている。詳細は、近くネットでも公開されるはずの計画行政学会の学会誌『計画行政』のオープンデータ特集に寄稿した拙稿「日本のオープンデータと『新しい公共』――現状とその課題、協働促進のプラットフォームに向けて」で論じたが、要は日本が高く評価されているランキングでは行政情報の公開は現状でも高く評価されている。そのため、今さら行政情報の公開に主軸を置いた法律には疑義が残る。これは行政機関情報公開法等との兼ね合いでも同様である。逆に日本が評価されていないランキングでは前述の政治の透明化や参加に関する指標が低く評価されている。むろんランキングありきではないが、従来の日本型オープンデータ、オープンガバメントの課題は改善されないままだ。
そもそもオープンデータやオープンガバメントが本当にイノベーティブな経済効果を生むのかという問題もある。アメリカでこのオープンデータやオープンガバメントをIT企業が強くロビイングしていたことからもわかるように、IT業界への公共投資を促進するものといえる。官民データ活用推進基本法も次のような施策を要請している。前述の「概要」からの引用では、以下のようなものを列挙することができる。
- 行政手続に係るオンライン利用の原則化・民間事業者等の手続に係るオンライン利用の促進(10条)
- 国・地方公共団体・事業者による自ら保有する官民データの活用の推進等、関連する制度の見直し(コンテンツ流通円滑化を含む)(11条)
- 官民データの円滑な流通を促進するため、データ流通における個人の関与の仕組みの構築等(12条)
- 地理的な制約、年齢その他の要因に基づく情報通信技術の利用機会又は活用に係る格差の是正(14条)
- 情報システムに係る規格の整備、互換性の確保、業務の見直し、官民の情報システムの連携を図るための基盤の整備(サービスプラットフォーム)(15条)
- 国及び地方公共団体の施策の整合性の確保(19条)
これらを見るだけでも、計画策定のためのコンサルティング、基盤整備のためのシステム部門等々、すぐさま大小のIT企業への投資促進が必要になることが推測できる。とはいえ、それらは必ずしも、当初いわれていたようなイノベーティブな部門というわけでもないだろう。実際、オープンデータの実証実験が行われていて、それらはたとえば総務省のサイトから概要を読むことができる。そこではアプリを作成したといった「成果」が列挙されているが、必ずしも地域経済への効果が明示的に示されているとはいえない(総務省「オープンデータ実証実験」(http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/opendata03.html#p3-2))。そもそも、市場化困難な部門を引き受けている行政が蓄積した情報を公開したとして、それだけでイノベーティブな新ビジネス創造が容易だとは思えない。
OECDなどは、オープンデータ、オープンガバメントを汚職を払拭するための施策としても位置づけているが、こうした議論が日本で鑑みられることは少ない。新聞社の政治部関係者や市民団体などが手書きで書かれた政治資金規正法上の公開情報をアナログで収集して突き合わせたりしている有様だ。こういった政治情報と政治資金情報が置かれたまったく非合理的な状況の改善こそが、日本のオープンデータ、オープンガバメントで求められていた/るのではないか。それが信頼性や透明性の改善につながるだろうし、国際的なランキングの改善にも貢献するはずだ。政治資金規正法の改正等が必要だろうが、注目すべき事項としては総務省は「反復継続的に開示がなされた情報等の提供について」という決定を行っている。これらは政治情報についても向けられるものではないかと思われるが、どうか。日本のオープンデータ、オープンガバメントは、改めて政治の透明化と信頼性の改善を考えるべき時期を迎えているように思われる。