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<緊急インタビュー>北朝鮮住民は大物外交官の亡命をどう見たか

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
金正恩氏と妻の李雪主氏。2014年5月付労働新聞より引用

駐ロンドン北朝鮮大使館で公使を務めていたテ・ヨンホ氏が、妻子を連れて韓国に亡命した事件。今年に入り公表された亡命・脱北事件の中では、4月に中国寧波市の北朝鮮食堂の従業員13名が亡命した事件に並ぶ衝撃が金正恩政権内に走ったはずである。

韓国入りした脱北者は累計約3万人に及ぶ。金正恩政権は、国境警備の強化、北朝鮮に残された家族に対する処罰の厳格化、韓国入りした脱北者の不遇を宣伝・教育するなど、脱北防止に躍起になっているが、合法的に海外に出た労働者集団や外交官までが逃亡する事態に直面している。

参考記事「脱北者の家族は3代絶滅させる」秘密警察が住民対象の講演会で強調

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テ公使の韓国亡命情報は世界中で大きく報道されたため、平壌の政権周辺の高位層のみならず、一般住民に伝わるのも時間の問題だ。北朝鮮の人々は、高級外交官一家の亡命事件をどのように受け止めるだろうか? アジアプレスでは北朝鮮国内の取材協力者に、テ公使亡命を報じた韓国メディアの記事をあらかじめメールで送り、8月19日にインタビューした。アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮国内に搬入して連絡を取り合っている。この協力者は、北部地域に住む40代の女性。中国を通じて入って来る外部情報には日頃から接している。生活水準は中の上程度である。

――テ・ヨンホ公使のような高級外交官の亡命をどう思いますか? テ公使は、間もなく北朝鮮に帰国することになっていたそうです。

(逃げようとするのも)当然でしょう。朝鮮に戻ったら、もう家族揃っては出られないでしょうからね。外国に出ていた人間で、いったい誰が朝鮮に帰って暮らしたいと思いますか? (戻ったら)捕まる心配をしなければならないのに。

――捕まる? どういう意味ですか?

外国に長く出ていたなら資本主義の水を飲んでいたわけでしょ。朝鮮では、それを何事もなかったと放って置くわけがありません。何か口実を探し出して「革命化」しようとするはずです。(それがわかっているから)誰が帰国したいと思いますか?

注 「革命化」=体制、指導者に対する不服従や規律違反に対する代表的な処罰。政治犯収容所送りから、懲罰労働、思想教育、左遷まで多様だが、多くの高位級幹部も一度は経験する。

――公使夫婦に二男一女がいたそうで、子供の将来のために亡命したと報じられています。

それも当然でしょう。親が一生懸命働いて稼ぐのも、すべて子供の将来のためではではないですか。最近の朝鮮の若者たちが、どれだけ覚醒しているか知っていますか? 私の居住地でも、若い子たちは、皆韓国ドラマを見ていて、韓国のことを実によく知っています。若い子たちの考えには親もついていけないんですよ。(テ公使亡命は)子供たちが北朝鮮に帰るのを嫌って韓国に行きたいと言ったのではないですか。

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「13人集団脱北」は金正恩式恐怖政治の副作用だ]

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アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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