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無賃乗車で警官が発砲、流れ弾で乗客が危篤に【アメリカで事件に巻き込まれそうになった時の心得】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NY市地下鉄のイメージ写真。(写真:アフロ)

約400円の運賃をケチったことが発端となり発砲事件に発展

アメリカ・ニューヨークの地下鉄で警官が発砲し、容疑者を含む4人が負傷した事件で、当時の状況を伝えるボディカメラ映像が20日、NYPD(ニューヨーク市警察)によって公開された。

事件が発生したのは今月15日。NYPDが公開した映像によると、容疑者のデレル・ミックルズ(Derell Mickles、37)は、駅の改札口に見張りの警官が立っているにも拘らず、大胆にも改札バー(ゲート)を飛び越え、駅構内に侵入した。警官2人に追い出された容疑者の右手にはナイフのようなものが見える。

その後も男は懲りず、非常口から(警官の目の前で堂々と)駅構内に侵入した。警官は男を追跡し、プラットフォームへ向かった。

無賃乗車による損失は990億円規模に

この「改札バーを乗り越える」もしくは「非常口から中に入る」手口は、ニューヨークに住んでいれば誰もが日常的に目にする不正乗車犯罪の一つであり、社会問題になっている。

地元メディアによると、不正乗車によるMTA(メトロポリタンエリア交通局)の運賃収入の損失は6億9000万ドル(約990億円)規模に上るという。

(注:損失額はバスも含む、2023年までの数字)

ここ数年、市内各所の駅で見張りをしている警官の姿をよく見るようになった。しかしすべての駅で徹底されているわけではなく、犯罪者にとってはいくらでも抜け穴があり、市の対策はそれほど功を奏していないようだ。

補足:ニューヨーク市の地下鉄運賃について

コロナ禍以降の深刻なインフレにより、食品やガソリンなどさまざまなものの価格が高騰する中、地下鉄の乗車料金も例に漏れず、昨年8月に1回の乗車券が2.75ドル(約390円)から2.90ドル(約410円)に上った。インフレにより家計圧迫を訴える人が多いのは事実で、この数百円程度の運賃を出し渋る人が後を絶たない。フェアフェアズという低所得者向けの割引プログラムもあるのだが、うまく機能していない。

NY市地下鉄のイメージ写真。
NY市地下鉄のイメージ写真。写真:アフロ

さてこの事件に話を戻すと、警官に追跡された男はナイフを手に停車中の電車内に逃げこんだ。警官に「ナイフを捨てろ」と何度も警告されたが従わなかった。男はテーザー銃で撃たれたが効果は発揮されなかった。その後、男はホームに逃げ、2人の警官に囲まれ発砲された。地元メディアによると警官2人が発砲したのは合計9発だったという。

うち、弾はこの男を含む4人に当たった。男は負傷し歩行が不可能な状態にあるという。暴行未遂、武器の不法所持、脅迫、不正乗車の罪に問われており、警官暴行未遂罪で有罪判決となると懲役7年から20年を科せられる可能性がある。

ほか3人も負傷した。仕事に向かうために現場に居合わせた49歳の男性が流れ弾で頭部を撃たれ危篤となり、予断を許さない状態だという。ほかにも26歳の女性と警官一人も流れ弾に当たったが、容態は安定していると伝えられる。

アメリカで事件に巻き込まれそうになったら...

ここからはニューヨークに旅行に来る人に向け、アドバイスも含めた情報をお伝えする。

筆者が公開された映像を観て驚いたのは、事件そのものもそうだが、複数の乗客がこのような一触即発の状況の中でも相変わらずシートに腰掛けていることだった。車両内で警察が介入するもめ事が起こっているのに、映像で知る限りは一人の乗客がその場を去ったが、ほかの乗客はその場にいたままだった。筆者も地下鉄やバスを日常的に利用する身として、日々のいざこざに慣れきっているニューヨーカーたちのこのような判断は分からなくもない。しかし、うっかりこの手の事件に巻き込まれて怪我を負わないためには、いざこざが発生したならば、その場を一刻も早く離れることが重要だ。

うまく機能しなかったテーザー銃に関してもつけ加えるとするならば、市内では同様の事件が以前も発生している。NYPDが銃に加えテーザー銃を携帯するようになったのは10年ほど前からだが、この間に警官によって使用されたテーザー銃の40%が不発に終わっていると、前述の地元メディアは伝える。このような事実からも、警察が介入するいざこざが発生した場合、銃が発砲される可能性が高まることを心得ておかなければならない。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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