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星野リゾート(大阪)とあいりん地区(南海電車高架下から飛田本通商店街辺り)

瀧澤信秋ホテル評論家
開業前の様子(2022年1月筆者撮影)

ブランドと立地のギャップ

2022年4月「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」がオープンしました。星野リゾートのOMOブランドは、提供するサービスの幅を1・3・5・7と数字で示していますが、7はレストラン等も擁するフルサービスタイプのホテルという位置づけです。

新規開業といえば何かと話題になる星野リゾートの施設ですが、今回の大阪進出は特に際立っていました。開業のかなり前からメディアに大きく注目されてきましたが、その理由としてまず挙げられるのが、“星野リゾート”というワードに加えて“7のような高スペックホテル”と“立地”のギャップといえます。

JR大阪環状線と南海電車が交わる新今宮駅(筆者撮影)
JR大阪環状線と南海電車が交わる新今宮駅(筆者撮影)

JR大阪環状線「新今宮駅」の北側、まさにホームから道路一本隔ててホテルはあります。地元のタクシー運転手との会話で「あの土地は大阪市のものでずっと空き地だった」「星野さんもなんでこんな場所選んだのか」と話していたことが印象的でした。

宿泊施設という点でいうと新今宮駅周辺は簡易宿泊所が密集するエリア。簡易宿泊所といえば、日雇い労働者等の利用者も多々みられる宿泊施設ですが、近年(コロナ禍前のインバウンド活況時)では、バックパッカーをはじめとしたリーズナブルな旅を求める旅行者からの需要が高まり、スタイリッシュにリニューアルされるケースも増えました。

ちなみにそうした宿泊所が密集するエリアを“ドヤ街”と呼んだりしますが、これは宿=ヤドと呼べるほどのものではないという意味から、“ドヤ”と逆さに呼称されたといいます。東京の山谷や横浜の寿町、そして大阪のあいりん地区などが知られています。

OMO7大阪 by 星野リゾートとあいりん地区

ホテルは新今宮駅の北側ですが、南側はいわゆる「あいりん地区」といわれるエリアです。旧来から治安に問題がある場所として知られ、OMO7大阪 by 星野リゾートの開業が話題になったのも、“あいりん地区に隣接する高級ホテルの開業”しかも“あの星野リゾート”という点でした。

一歩深掘りしてホテル評論家的立場で言うと、そもそもOMOブランドは“街歩きや地域の飲食店を案内する企画の実施”をテーマにしており、あのエリアを案内するというイメージがいまひとつ掴めませんでした。

ホテルの客室から望む新世界方面(筆者撮影)
ホテルの客室から望む新世界方面(筆者撮影)

周辺で言えば、以前はディープな場所として知られた「新世界」も、いまや観光地として人々が闊歩するようになっていますがこれも環状線の北側。ホテルそのものへの興味はもとより、「せいぜい新世界あたりまでを案内するくらいだろうか?」「環状線の南側も含まれるのだろうか?」「だとしたらどこまで網羅するのだろうか?」といった点が気になりました。

確かに環状線の南側、特に南海電車の高架下から飛田本通商店街(通称:動物園前一番街・二番街)のアーケード辺りまでの一帯は観光、街歩きというイメージとは一線を画す場所です。以前に比べると治安は改善されたというものの、やはりディープなイメージの一帯といえます。

筆者自身、以前周辺の簡易宿所取材中に「この辺りは違法薬物の売買が多い」となぜか職務質問を受けたこともありましたが(人生の職質経験はここと新宿歌舞伎町ラブホテル街の2回)、違法と思われる露店や不法投棄も散見されるだけに、北側とはやはり雰囲気が異なります。

ホテルへ行ってみた

このような思いを抱きつつ、大阪のテレビ局から開業したばかりのOMO7大阪 by 星野リゾートでのロケ仕事をいただき訪問が叶いました。ロケではホテルそのものの紹介というアプローチでしたが、個人的にはやはり街歩きや地域案内をどこまでやっているのかという点に興味を抱いていました。

ドでかOSAKAボード(筆者撮影/ボカシ:筆者)
ドでかOSAKAボード(筆者撮影/ボカシ:筆者)

その答えはホテルロビー(OMOベース)の入り口壁面に大きく掲げられた地図にありました。この地図は幅約6m/高さ約4mの「ドでかOSAKAボード」というもので、大阪エリア全体と共にボード下部にはホテル周辺、徒歩圏内のエリアを中心にスタッフが実際に足を運んだおすすめ飲食店などの情報が記されていました。

すなわちこの地図上で、大阪環状線の南側までフォーカスされているのか否かが筆者の興味への答えという点でポイントになりますが、南側、あいりん地区の飲食店などもしっかりと記されていました。

(筆者撮影/ボカシ:筆者)
(筆者撮影/ボカシ:筆者)

OMO7はホテル内にレストランを設けていることを冒頭に書きましたが、ホテルの客室数に比べると限られたスペースです。すなわち、ホテル内で飲食を完結せず宿泊ゲストも街へ出ることが想定されています。エリア特性を鑑みてもホテルと地域の連携はより重要になってきます。

ブランド力で担保

無論、治安に不安の要素があるエリアということは星野リゾートも十分承知しているはずでしょう。他方、観光客が単独でディープな観光を堪能するという点ではハードルが高い中で、星野リゾートという有名ブランドがご当地にフィーチャーすることは、ある種安全性の担保につながるともいえます。

これまで自分たちだけでは行きづらかった場所でも 星野リゾートの案内なら安心できるということは、星野リゾートのブランド価値や知名度がより生かされるのかもしれません。

環境にも配慮したホテル造り(筆者撮影)
環境にも配慮したホテル造り(筆者撮影)

その立地とブランドのギャップで大きくフォーカスされてきたOMO7大阪 by 星野リゾートの開業でしたが、少なくともOMOというブランド、街歩きや案内というテーマについてより周知性を高めることに現時点では成功していると分析できるでしょう。

共存はテーマ

一方で都市観光という点から考えると、住民と観光がどのように共存していくのかは今回のケースに限らず、インバウンド活況時から提起され続けているテーマです。

あいりん地区は、生活に困窮した人々の“逃げ場”としての側面もある場所であり、簡易宿泊所の利用者に加え野宿されている方もいるかもしれません。コロナ禍を経てきて世界的な情勢も不安視されるいま、経済状況が不安定という中で今後もそうした人々が集まる状況が続くであろうことは想像に難くありません。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

そうした大阪のディープエリアは、インバウンド活況時から訪日外国人旅行者に人気の出てきた側面もありましたが、さらに開業した人気ブランドホテルという点ではより観光地化が進んでいくことでしょう。

さらにいま、インバウンド解禁という時勢の中で増加が予想される訪日外国人観光客と“住民”共存のバランス/ホテルとエリアの共存のバランスはセンシティブなテーマです。脚光を浴びてスタートしたばかりのホテルの今後がますます注視されます。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

ホテル評論家の辛口取材裏現場

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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