コロナ危機で医療専門サイト「m3.com」の時価総額が210%も増えたワケ
[ロンドン発]新型コロナウイルスの猛威が世界を襲った2020年の「勝ち組企業」はどこなのでしょう。英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)がこの1年間の市場価値(S&P グローバル)の成長率で評価した時価総額100億ドル(約1兆円)以上のトップ100を発表しています。
中国から36社がトップ100入りして30社のアメリカを上回りました。トップ10は次の通りです。
(1)テスラ(アメリカ)
時価総額6690億ドル(787%増)、電気自動車を開発・製造・販売
(2)シー・グループ(シンガポール)
同1020億ドル(446%増)、オンラインゲーム、電子商取引、デジタル決済
(3)ZOOM(アメリカ)
同960億ドル(413%増)、テレビ電話会議サービス
(4)ピンドウドウ(中国)
同2180億ドル(396%増)、電子商取引プラットフォーム
(5)BYD(中国)
同780億ドル(359%増)、電気自動車メーカー
(6)クラウドストライク(アメリカ)
同470億ドル(357%増)、サイバーセキュリティー会社
(7)サンセイ・シンホワツン・フェン・ワイン・ファクトリー(中国)
同500億ドル(346%増)、アルコール飲料メーカー
(8)ロンギ・グリーン・エネルギー・テクノロジー(中国)
同530億ドル(296%増)、太陽光発電メーカー
(9)ピンタレスト(アメリカ)
同410億ドル(291%増)、写真共有サービス
(10)Twilio(アメリカ)
同510億ドル(279%増)、クラウドコミュニケーションプラットフォームサービス
日本からは4社がトップ100に入りました。
(21)M3(エムスリー)
同640億ドル(210%増)、ソニーが支援する医療従事者向けポータルサイトの運営企業
(51)ネクソン
同270億ドル(130%増)、オンラインゲーム会社。韓国の金正宙氏が創設
(67)日本ペイント
同350億ドル(111%増)、汎用塗料の製造販売会社。シンガポール塗料大手ウットラムグループの塗料事業を取得
(95)日本電産(Nidec)
同740億ドル(81%増)、世界最大の精密小型モーターの開発・製造会社。電気自動車用駆動モーターに傾注
エムスリー大躍進の秘密
筆者はジャーナリストとしてメディアに関わっているので、医師会員28万人以上が利用する医療従事者専門サイト「m3.com」を運営するエムスリーの大躍進に注目しました。コロナ危機では筆者自身「m3.com」を目にする機会が格段に増えました。
FT紙によると、年間売上高は13億ドル(1342億円)ですが、時価総額は日本では15番目の640億ドル(約6兆6千億円)です。同社の有価証券報告書から売上収益を拾ってみました。
「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」が同社のモットー。エムスリー(M3)は医療(Medicine)、メディア(Media)、変容(Metamorphosis)を表しています。インターネットの力を活かして医療の世界を変えていくのが設立の志です。
コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーで医療・保健業界に長く携わってきた谷村格現社長がインターネットを活用した医療関連事業を行うため2000年に設立。MR(製薬会社の医薬情報担当者)による医師への情報提供をサポートするコミュニケーションツール「MR君」のサービスを開始します。
海外でも医療従事者専門サイトを活用した医療関連会社マーケティング支援や調査、キャリア、臨床試験支援などのサービスを提供。
アメリカの「MDLinx」やイギリスの「Doctors.net.uk」のほか、中国の医療従事者向けウェブサイトに登録する医師会員数は300万人を突破、韓国の「MEDI:GATE」には医師の7割以上が集い、インドでも合弁事業を開始しました。
世界中で約600万人の医師が登録
エムスリーグループが世界中で運営する医療従事者向けウェブサイトや医師パネルに登録する医師は約600万人にのぼっています。
アメリカの「MDLinx」では1日1千件の記事や論文を専門の編集者チームがチェックして、自分の専門領域の最先端情報を5分で把握できるそうです。こんなツールが普及すると製薬会社のMRの仕事は将来、どうなってしまうのか、心配してしまいます。
インターネットの登場で、情報の流通を独占していた伝統の4マス媒体(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌)の優位性は崩れました。より専門性の高い的確な情報やエンターテイメントを必要な人にリアルタイムで届けるサービスとして生まれ変わることができなければ4マス媒体が生き残るのは難しいでしょう。
コロナ危機におけるエムスリーの大躍進と逆に半期で419億円もの大赤字を出した朝日新聞の衰退はメディアにおける残酷な交代劇を浮き彫りにしているのかもしれません。
(おわり)