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就活で増える「意識低い系」~男子が「化粧は15分」女子に勝てない理由

石渡嶺司大学ジャーナリスト
合同説明会に並ぶ学生。実はコートや鞄の持ち方などが見られていることも

そもそもは「意識高い系」が注目されていた

『「意識高い系」という病 ソーシャル時代にはびこるバカヤロー』(ベスト新書)が刊行されたのは2012年12月。

著者はこのYahoo!個人の執筆者でもあり、現在は千葉商科大学専任講師の常見陽平さん。働き方などを発信されている方です。

もともとネットスラングだった「意識高い系」は同書の刊行・ヒットで完全に定着。

その後、NHKドラマにもなり、2017年2月には文春新書から『「意識高い」系の研究』(古谷経衡)も刊行されました。

さて、就活での「意識高い系」とは、自己PRをやたらと盛る、自慢が多い、就活に熱心であることをやたらとアピール、このあたりが特徴です。

まあ、就活に熱心であるのは本来悪い話ではありません。

この「意識高い系」というキーワードがあまりにも広まりすぎたために、学生によっては、

「就活をしろ、と言われてしてみれば、『意識高い系』と叩かれて」

「早く就活をすると、『意識高い』と言われるからやめておく」

と誤解してしまう方もいます。

おかげで私が就活関連の講演をするときは、

「就活への意識を高く持ち~」

と話したいところ、

「就活へのモチベーションを高く持ち~」

と言いかえる羽目に。あまり根本的な解決にはなっていませんが。

「意識高い系」ではなく「意識低い系」男子が大量に増殖

さて、2012年ごろから注目された「意識高い系」ですが、就活熱心という点で評価する意見も採用担当者からはありました。

が、本稿ではその辺はちょっと省略します。

売り手市場に転じた2014年ごろから現在まで、採用担当者からよく聞くようになったのが、「意識高い系」の逆。

すなわち、「意識低い系」の増殖です。

「意識高い系」は男子学生が中心で女子学生にもそれなりにいる、とされていました。

この「意識低い系」はその大半を男子学生が占めています。

「意識低い系」の特徴は鼻毛、フケ

「意識低い系」男子学生の定義ですが、要するに、身だしなみがだらしなく就活への意識が極端に低い(としか見えない)、ということです。

学生本人は、決して悪気はありません。それなりに就活への危機感も持っています。

が、はたから見れば就活への意識が低いとしか見えません。

その典型が鼻毛とフケ。

私は学生時代から卒業後3年間、日用雑貨の実演販売を仕事にしていました。人前に出る、と言うこともあり、清潔感、特に鼻毛の手入れは、やたらとこだわっていました。

この習慣は現在に至っています。

それもあって、男子学生の鼻も自然と見てしまいます。就職氷河期だとほぼ全員きちんと手入れができていました。今年だと、男子学生100人のうち、5人ないし10人くらいは「えっ」と言いたくなるくらい伸びています。

鼻毛に似たところでは、フケ。鼻毛・フケはセットになっている男子学生もいます。昨年、ある就活イベントで見かけた学生は肩まで真っ白。思わず、

「今日、雪でも降った?」

と聞いてしまいました。しかも、これがイヤミとは最後まで気づいていないご様子。

服装で言えば、ネクタイをきちんとしめていない、Yシャツがズボンからはみ出ている、靴は革靴でなくスニーカー、靴下は白…。

「君さあ、田舎の高校生だって、もうちょっとちゃんとした格好しているんじゃないの?」

と苦言を呈したくなる、これが「意識低い系」男子の外見です。

ペットボトルは出すのも飲むのも平気

女子学生も少数当てはまるところでは、お茶・ジュースのペットボトル。

説明会でも、机に出しっぱなしの学生は、売り手市場の今年、特に目立ちます。

これは、2009年~2012年ごろの就職氷河期だと、ほぼ皆無でした。

それが今年は、結構、見かけます。

おそらく、大学の講義と同じ態度なのでしょうね。

出しっぱなしにするどころか、採用担当者が話しているときでも飲む学生もいます。

私が一番驚いたのは、役員が話しているときにペットボトルに手を出して飲んでいた学生。あとであの役員氏、採用担当者に、

「いまどきの学生の態度はどうなっているのか」

と、小言の一つもぶつけなかったか、ちょっと心配です。

鞄のだらしなさも目立つ

合同説明会・セミナーに転じると、目立つのが鞄。

鞄を持ち歩くのは当然ですが、肩紐を使う学生、リュックタイプを使ってだらしなく下げる学生が今年は例年になく、目立ちます。

地方から来た学生だと、キャリーケースをそのまま引っ張ってくる、あるいは、大型リュックを下げて周囲が邪魔そうにしていても意に介さない、そんな学生も目立ちます。

地方から来た学生は、交通費などがかかっているので、コインロッカー代を節約したい、という気持ちはわかります。が、就職氷河期には、お金がない、と言いながらも、荷物を預ける学生が大半でした。

それが今は(以下省略)。

セミナーでは、置き方も実は結構見られています。

足を投げ出す「意識低い系」男子。こういうのも結構見られている…
足を投げ出す「意識低い系」男子。こういうのも結構見られている…

しかも、鞄の置き方が雑な学生は、もれなくセットで、足を投げ出す、椅子に深く座る、と。

この3点コンボセットの特典は、と言えば、「選考落ち」という名前のクリアファイルしか付いてきません。

意識低い系男子は女子に勝てない

他にも、「御社」と「貴社」を使い分けできない、などがあります。手紙や電話については、ちょっと本稿ではおくとして。

鼻毛やフケ、果てはYシャツのはみだしなど、その程度をなぜできないのか、と言いたくなるのが「意識低い系」男子。

この「意識低い系」男子が増えすぎたことも一因なのでしょう。

男女別の就職率(正確には学校基本調査における「卒業者に占める就職者の割合」)では2010年から7年連続で女子学生が男子学生を10ポイント以上の差をつけています。

1990年代には5ポイント前後、1980年代以前は20ポイント以上の差(男子学生の方が上)をつけていた年もありました。

それが7年連続で10ポイント以上の差。

それだけ女子学生の総合職採用が進んだと考えられていましたし、私もそう理解していました。

が、「意識低い系」男子に注目すると、10ポイント以上の差も納得できます。

「化粧は15分」女子、それだけコミュ力あり

「意識低い系」男子学生に話を聞くと、

「身だしなみとかちょっとくらい、いいじゃないですか。それより内面を見てほしい」

「鼻毛が出ているくらいで文句を言われるなら、もういいです」

などと反論(逆ギレ?)してきます。

確かに、鼻毛が出ていようが、靴下が白だろうがピンクだろうが、それだけで就活なり社会人生活なりが失敗するとは限りません。

が、身だしなみとは個人のものであるのと同時に、コミュニケーションを取る手段でもあります。

最低限、相手に不快感を与えないためには、身だしなみをきちんとしておく必要があります。

では、「意識低い系」男子に比べて女子学生はどうでしょうか。

ポーラ文化研究所の女性の化粧行動・意識に関する実態調査 メーク篇2016(2016年5月調査)によると、20歳~24歳のメークにかける平均時間は17.7分。

「タダコピ」を運営するオーシャナイズの2014年調査では、5分~15分・57%、16分~30分・23%。80%の学生が30分以内、と回答しています。

【女子大生の本音】化粧にどのくらい時間をかける?知られざる女子大生の化粧事情とは

15分から30分程度、化粧に時間をかける、ということはそれだけ周囲や社会とのコミュニケーションに気を使っていることを意味します。

もちろん、化粧をしていれば必ず就活がうまく行く、というわけではありません。

企業研究・業界研究や新聞記事チェックなども必要でしょう。

が、できる女子学生は15分から30分程度化粧をして周囲にも気を遣い、そのうえで企業研究などもしています。

「意識低い系」男子学生は化粧どころか鼻毛が出ていても気にしませんし、そのうえで企業研究などをしていなければ、どうでしょうか。

なるほど、就職率で負けるのも無理はありません。

「ラブホの上野さん」、ダメ男子に説教

15分から30分程度の化粧がどういうものか、何か適当なテキストはないか、と探していると、ちょうど、いいものがありました。

2017年1月からテレビドラマにもなった漫画『ラブホの上野さん』(KADOKAWA/原案・上野、漫画・博士)です。

ラブホテルスタッフである主人公が恋愛問題に悩む人物にアドバイスをする、という一話完結型の漫画です。2014年から連載が開始(掲載雑誌は『コミックフラッパー』、コミックスは2017年3月現在まで5巻まで刊行されています。

さてこの最新号(39話)が漫画サイト、コミックウォーカーにて掲載されています(おそらく、4月18日ごろまで閲覧可能)。

オタク系サークルにいる男子学生(案の定と言いますか、身だしなみには気を使っていない)と女子学生がちょっとした拍子に入れ替わる、それで男子学生(姿は女子)が上野さんに説教をされつつ、女子の身だしなみの苦労を知る、という内容です。

漫画を読んでもらった方がわかりやすいのですが、ここでは、女性の身だしなみの流れだけ、書き出します。

「お風呂はいうまでもないことですが、顔と髪と体を洗います。特に髪は男性と比較して三倍くらいの時間がかかると思っていただいて間違いありません」

「そしてお風呂から上がったらまず髪をドライヤーで乾かす」

「続いて化粧水と乳液。さらに睡眠時にパックをする方もいらっしゃいますが今回は省略」

「化粧下地とファンデーションにアイブロウとリップあたりはほぼすべての女性が毎日やっていると思っていただいて問題ないでしょう」

ここまでやれば、全然違います。

主人公の上野さんは違いに驚いた男子学生(姿は女子)に、こう諭します。

「(化粧の)努力も知らずに『女はずるい』とか『女オタクのくせに』と言っていてはモテるモテない以前の問題ではないでしょうか」

「男性も女性ほどとは言いませんが最低限身なりに気を使うだけで世間からの扱いは大きく変わるものでございます」

「意識低い系」に頭を抱える採用担当者

さて、この「意識低い系」男子の増殖で頭を抱えているのが採用担当者です。

落とせばいい、という問題ではありません。

もちろん、新卒採用においては、その企業にとって欲しい学生を採用していくのが最優先課題。

ところが。

「意識低い系」男子を落としすぎるとどうなるでしょうか。

内定を出すのは女子学生ばかり、ということにあり男女比のバランスが取れません。

結果として、「意識低い系」男子にもゲタをはかせて内定を出す、ということがそれなりに出てきてしまいます。

採用担当者の気苦労が絶えない2018卒就活なのでした。(石渡嶺司)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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