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9月に資金ショートで5000万ドルをローン!パドレスの無制限補強は限界を迎えたのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ここまで無制限の補強を断行してきたサイドラー・オーナーだったが…(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【パドレスが9月に5000万ドルのローンを受けていた】

 MLBはポストシーズンで盛り上がりを見せる中、ここ最近米メディアの間でパドレスのフアン・ソト選手のトレード話が報じられていたのをご存知だろうか。

 2025年オフにFAとなるソト選手に関しては、将来的にMLB屈指の長期大型契約が確実視されているが、なぜ今パドレスがチームの中心選手をトレードに出そうとしているのだろうか。

 その原因とも考えられるような衝撃的なニュースを、スポーツ専門サイト「The Athletic」が現地時間11月1日に報じている。

 この記事(有料版)によれば、パドレスは選手のサラリー支払いを含め短期的な資金ショートに陥り、9月に5000万ドルのローンを受けていたという。しかもパドレスはMLBに対し1億ドルのローンの承認を求めていたものの、5000万ドルに制限されたようだ。

 今回の報道を機に、球界に大きな波紋が広がるのは必至の状況だ。

【小規模市場ながら無制限の戦力補強を続けたパドレス】

 MLBに精通している人ならご存知だと思うが、ここ数年パドレスはMLBの中でも小規模マーケットにもかかわらず、毎年のように大胆な戦力補強を断行してきた。

 2019年にマニー・マチャド選手を10年総額3億ドル(今年3月に新たに契約延長に合意)で獲得したのを皮切りに、その後もソト選手(2020年にトレード)やダルビッシュ有投手(2020年にトレード)ら大物選手を次々に獲得してきた。

 また2021年には生え抜きのフェルナンド・タティスJr.選手と14年総額3億4000万ドルで契約延長を結び、昨オフもザンダー・ボガーツ選手と11年総額2億8000万ドルの大型契約に合意するなど、大型契約を乱発してきた。

 かねてピーター・サイドラー・オーナーが「この街に優勝トロフィーをもたらすためならなんでもする」と無制限の補強を宣言していたように、今シーズン開幕時の年俸総額は、米屈指の大規模マーケットを本拠にするメッツ(約3億5400万ドル)、ヤンキース(約2億7700万ドル)に次ぐMLB3位(約2億4900万ドル)にまで跳ね上がっていた。

【今シーズンのチケット売り上げ収入はMLB2位】

 パドレスの継続的な戦力補強は、確実に効果が現れていた。

 2020年シーズンには14年ぶりにポストシーズン進出を果たし、昨シーズンは宿敵ドジャースを下しナ・リーグ優勝決定シリーズまでコマを進めることに成功。それだけにサイドラー・オーナーの熱意はさらに強まり、前述のような年俸総額を費やして今シーズンに臨んでいた。

 周囲もパドレスへの評価は高く、大半のメディアが優勝候補の一角に加えていたが、開幕当初から苦戦を強いられ、残念ながらほぼポストシーズン争いができないままシーズンを終えている。

 それでも地元ファンはスター選手が揃うチームを最後まで球場に集まり応援を続けた結果、81試合中61試合でチケットが完売するなど、ドジャースに次ぐMLB2位となる340万ドルのチケット売り上げを計上しているようだ。

 それでもシーズン終盤に資金ショートに陥ってしまったわけだ。

【パドレスの姿勢に対し球界内に賛否の声が】

 こうしたサイドラー・オーナーの姿勢に、球界から賛否の声が挙がっていた。

 肯定的な立場に立っていたのは、ロブ・マンフレッド・コミッショナーだ。彼は2月に行われた記者会見で、以下のようにサイドラー・オーナーの努力を称えている。

 「パドレスに関しては非常にポジティブなものだと考えている。彼らが行った投資は確実に収益につながり、今年は収益分割システム(いわゆるぜいたく税制度)で支払い側に回ろうとしている」

 その一方で否定的な考えを示したのが、同じ小規模マーケットのロッキーズのディック・マンフォート・オーナーだ。

 彼は「ファンは納得しているのだろうが、自分はパドレスがしていることに100%同意できない。今後どうなるのか見守ろう」と語り、逆に批判を浴びてもいる。

 ただ肯定的に捉えていたマンフレッド・コミッショナーにしても、前述の会見の場で「いつまで継続できるのかという疑問はある」と不安視するような発言もしていた。

【パドレスの無制限の戦力補強は限界を迎えたのか?】

 「The Athletic」は今回の記事を公開する前に、MLB、選手会、サイドラー・オーナーに見解を求めようと連絡したようだが、コメントを得ることができなかったとしている。

 その上で、パドレスは現在の財政状況を改善するため、ソト選手を放出する必要性を感じているのではと予想している。

 果たしてパドレスの無制限の戦力補強は限界を迎えてしまったのか。今後の動向を見守っていくしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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