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欧米のホロコースト教育でお馴染み「ひいお爺ちゃんの腕の番号」ジャック氏95歳で逝去

佐藤仁学術研究員・著述家
The Number on Great Grandpa's Arm 提供

2021年12月20日にホロコースト生存者で95歳のジャック・フェルドマン氏が亡くなられた。日本では全く知らない人がほとんどだろうが、欧米やイスラエルなどではホロコースト教育が行われている地域では、ジャック氏のホロコーストの経験と記憶を伝えたドキュメンタリー「The Number on Great Grandpa's Arm」(ひいお爺ちゃんの腕の番号)でお馴染みである。

ジャック氏は1926年1月にポーランドで生まれたユダヤ人。14歳の時にナチスドイツが侵攻してきて生活が一変し、ゲットーやアウシュビッツ絶滅収容所に収容させられ、最後は1945年1月17日から5月5日まで「死の行進」と呼ばれる、歩いて収容所を転々とさせられたが、辛うじて生き延びることができた。そしてジャック氏のみが家族の中でホロコーストを生き延びることができた唯一の人物だった。

アウシュビッツ絶滅収容所などナチスの収容所は「労働を通じた絶滅」を政策に掲げていたため、到着してすぐに「選別」され、働けない老人や子供はすぐにガス室で処刑された。そして働けると判断されたものは全身の毛を全て刈られ、腕に入れ墨で囚人番号を彫られた。この時点で名前を無くし、人間性を失い、番号でのみ管理された。ドイツ語で番号を呼ばれ、返事をしないと処刑されたり罰せられるため、ドイツ語ができないユダヤ人らも腕に彫られた自分の番号のドイツ語だけはすぐに覚えた。そしてこの腕の入れ墨は解放されてからも生涯消えなかった。

そして2016年に彼の10歳の曾孫エリオット・シオンツ君が、当時90歳だったジャック氏に「どうして、腕に番号がほられているの?」と質問したことからホロコーストの経験と記憶を語っていくようになる。それが「The Number on Great Grandpa's Arm」(ひいお爺ちゃんの腕の番号)の始まりとなった。ユダヤ人遺産博物館が企画してアメリカのHBOで放送され、書籍でも出版されている。ドキュメンタリーでは当時の映像、写真、アニメなども挿入されていて、ホロコーストの歴史や経験、記憶がわかりやすくまとまっている。学生向けのホロコースト教育に活用しやすい構成となっており、多くのホロコースト教育の授業で使われている。

▼「The Number on Great Grandpa's Arm」(ひいお爺ちゃんの腕の番号)

▼オフィシャルトレーラー

進むホロコーストの記憶のデジタル化

戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。

現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。だがホロコーストを経験した生存者は当時の悲惨な体験を子供たちや世間の人に語りたがらない人の方が多い。

▼ホロコースト教育では番組を見てディスカッションも行われている

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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